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〇タウロとタエ

 野に分け入る大男、真っ青な肌に大きな(つの)。道行く人は避けて隠れる。そんなことに慣れているのか男は気にもせず、どんどんと目の前の竹藪へと向かう。そうタウロである。肩に竹かご、その中に(くわ)が入っている。筍を掘りに来たのである。鼻先をぐいと突き出して探している。何本か掘ると満足そうにうなずき帰り支度をはじめ座り込むと竹筒からごくごくと美味しそうに水を飲む。


 その時、異変を察しとった。素早く立ち上がるとその方向へ走り始めた。見ると小さな女の子が唸る野犬の群れに囲まれて脅えている。タウロは(くわ)を振り回し犬たちを追っ払った。


「だいじょうぶだか」

 一瞬躊躇(ちゅうちょ)をしたが、しゃがんで女の子に語り掛ける。

「うん平気だよ。ありがとう青鬼さん」

 タウロの大きな顏に抱き着き礼を言った。

「怖くねえだか」

 タウロは戸惑っている。

「ううん、とっても優しい目の鬼さんだから」

 女の子のかごが転がっている。せっかく摘んだ山菜が飛び散っている。二人で拾い集めかごに戻す。見ると女の子の膝頭から血が出ている。擦りむいたらしい。

沐浴(アブル)」食材の鮮度を保つため、法師に習った回復呪文で傷を(いや)す。

「ありがとう鬼さん、私はタエ」

「おらタウロだ」

「タウロさんは不思議な術を使えるのね、すごい!」

 血が止まりふさがった膝を見ながらタエは笑っている。

「タウロと呼んでいいだで、おらは導魔(どーま)法師様というえらい陰陽師の(かた)に仕えておるんだす」

 照れ隠しに鼻をかく。

「おら帰るとこだ。送って行ってやるだ」と言い肩にタエを担いだ。

「うああ、高いずっと向こうまで見える」

 はしゃいでいる。それを見てタウロも微笑む。

「タエはえらいな。こんなに小さえのにお仕事をしてるなんて」

「タエはねえ、おっとう、おっかあのお手伝い大好きなの。お家で取れる野菜はとーても美味しいからタウロにも食べてもれえてえ」

「家は農家だべか」

「うん、ちっちゃな畑だけど」


 導魔坊とは同じ方向で、そんなに離れていない農家までタエを担いでいった。農作業をしている両親が慌てて駆け寄り

「お鬼様どうかタエを食べねえでくだせい」

 おびえて手を合わせている。

「バカ言うでねえ!おっとう、おっかあ!タウロは導魔法師様に仕えているすっごい鬼さんなんだよ」

「ど、導魔法師様!?」

 導魔の名はこの頃にはもう都中に聞こえわたっている。タエは事情を説明した。

「ありがとうごぜます。タウロさまタエを助けてくだせえて」

 タウロの手を握り感謝をしている。都に来て初めての体験でタウロはまた鼻をかいている。

 畑で取れたカブや野菜を無理やりタウロのかごに詰め始めた。

「こんなことをされても困るだ」

 固辞するタウロにお願いだからと受け取らされた。


 それからであるタエが導魔坊の厨房に野菜や山菜を持ち出入りするようになった。もちろん最初は嫌がったが幾ばくかのお金を受け取らせた。タウロも暇があるとタエのところへ赴き、畑を広げる手伝いや用水路を作ってやったりと足しげく通っていた。


 ある日かごも持たず血相を変えタウロのところに走ってきた。

「おっとうとおっかあが倒れた。助けてタウロ」

 涙をぽろぽろと流しすがりつく。

「ど、どうしたんだべ。詳しくいってみろ」

 夕べから熱が下がらず苦しそうにしているとのことだ。

「ちょっとまってろ」

 タウロはあわてて法師のところへ向かう。

「安心しろタウロ、わらわが向かおう」

 導魔法師は立ち上がり風呂敷にいくつかの薬を詰めてタエの農家へと向かった。

「うむ、()の前兆か疫病がはやり始めたようだ」

 風呂敷から取り出した薬を調合しタエの両親に飲ませた。荒れていた息は収まり、熱も下がり始めた。

 絶え絶えの声で「法師様ありがとうございます。でも治療費をお支払うか、金がありません」

「心配するな。タウロの友達からは金は受け取れん、養生するのだぞ」

 法師は立ち去りタウロはそこに残り看病をした。

「二人が元気になるまでおらが畑の世話をしてやるだ。法師様のお許しが出ているだに」「ありがとうタウロ、私も手伝うからね」


 こうしてタエとの(きずな)をより深めたのであった。

 友と別れてから表情をなくし、日々時間がただ過ぎ去ればいいと思い。時はただ砂時計の落ちゆく砂の如く、無意味に毎日を過ごしていた日々に光が差してきた。


 法師の作った薬は鬼の絵の袋に『神薬(しんやく)』と書かれ厄除けの呪符と共に都中の町人にはタダで貴族や武士からはお金を取り配られ、疫病の拡散を防ぎ法師の名をさらにあげた事件であった。


「ふーん」

 今度は沢庵をぼりぼりかじり聞くハルアキ

「タエちゃんがここへきて最初の友達だったんだね」

「さあさあ、つまみ食いばかりしないで食卓へ運ぶ手伝いをしておくんない」

 追い立てられ食堂へ向かった。

 オオガミさんとタマモさんと僕、タウロさんが給仕をしてくれて四人の晩御飯だ。

「いただきまーす」

 サバの味噌煮に箸を伸ばした。生姜と甘い味噌がご飯にあう。豆腐の味噌汁をすする。海老芋の煮物は一口でパクリ!ホンモロコの南蛮漬けは酢の具合がとてもいい、京のおばんざい感満載の和風の晩御飯だ。

「ハルアキ、今日の技はなかなかだったぞ。もっと技の組み合わせを増やすと敵は翻弄され戦いやすくなるぞ」

 珍しくオオガミさんがほめてくれた。

「あんたは厳しすぎるんだよ。かわいいハルちゃんにはもっと優しく丁寧に教えてやらないと」

 タマモは町で買ってきたのだろう派手な着物を丈を短く詰めて太腿(ふともも)もあらわに胸元をはだけ全然和風じゃない格好だ。

「そうだハルちゃん、これ買ってきたんだ履いてみて」

 萌黄色(もえぎいろ)も鮮やかな(はかま)だった。無理やり履かされると

「似合うわ、かわいい」

 はしゃいでいる。

「この魚美味しいじゃない。このお芋も、こっちの酢漬けのお魚もこっちの世界の料理も悪くないね」

「ハルちゃんに渡したトマトのタネでどんな料理ができるのかしら」

「トマトができるだすか、知識はあるけど見るのは初めてだす。ワクワクするだ」

 タウロの料理人魂に火が付いたようだ。

「明日タエちゃんが来たら、一緒に畑に行って植えてくるね」明日が楽しみだ。


「ごちそうさま」


 今日も美味しい一日でした。

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