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●抱擁

「タマモ、しっかりするんだ」

 ハルトが倒れたタマモを抱き上げるが目を覚ます気配すらない。

 オオガミはモモを看護するがハルトはまったくそちらに気が行っていない。タマモのことで頭が一杯になっていた。

「ハルト、お前こそしっかりするんだ」

 オオガミの叱咤に我を戻したハルトは沐浴(アブル)で治療を試みるが意識を取り戻さない。

 そこへモモの部隊とペティが遅れて駆けつけてきた。

「モモ中隊長、しっかりしてください」

 ドラム担当のミーシャが沐浴(アブル)で治療をするかなり深い傷だが命に係わるほどではなかった。やがて目を覚ましたモモは

「タマモちゃんはどうした」

「意識を取り戻さないようです」

「カルヤシャは」

「タマモがバラバラにしてやっつけちまったよ」

 オオガミが答えた。モモは涙を流しながら

「やっとみんなの仇が打てたのね」

「ああ、やっとだ」

 オオガミも満足そうな声で言った。

「ハルト、アジトで看病しよう帰るぞ」

 ハルトの肩を叩いて立ち上がらせた。


 救護班の手によってタマモの容態が調べられた。それを心配そうに見つめるハルト。

「どうして目を覚まさないんだ」

 ベットのタマモに変化が起こった。夢にうなされるように発熱して苦しがっていた。呪術医師が診断を下した。

「ハルト閣下、カルヤシャの瘴気をかなり吸い込んだようです。モモ殿は気を失い軽症ですが、タマモさまは淫夢(いんむ)に捕らえこのままでは衰弱するばかりです」

 苦しむタマモを見ながら

「治せないのか」

「カルヤシャの淫夢は強すぎて解呪に時間がかかります。時間との勝負になります」

 オオガミがつぶやいた。

「ハルト、お前が吸いだしてやればなんとかなるんじゃないか」

 ハルトの体は無毒耐性がある。カルヤシャの毒気にも耐ええるだろう。

「俺が吸い出すだって!タマモとキスしろというこか」

「俺がやってもいいのか」

 笑いながらオオガミがからかった。

「仕方がない。おまえたちは恥ずかしいから部屋を出てくれ」

 しぶしぶ決意を固めたようだ。タマモはなおも苦しんで汗をかいている。

 なぜかドキドキするハルトであった。

 部屋の外で待つみんなはいきなりドアから出てきたハルトに驚いた。

「もう終わったのか早いな」

「歯を磨きに行ってくる」

 そう言い残すと洗面所へハルトは向かった。

 戻ってくるとドアノブをつかみ深呼吸して病室へと入った。

 タマモを見つめるハルト、頭をやさしく抱え意を決して口づけをした。


 ?この感触、どこかで・・・タマモの唇に触れたとたん記憶が呼び起こされていく。妻陽子との口づけであった。なぜという疑問が湧きおこったがそれよりカルヤシャの瘴気のせいであろうか、ハルトも我を忘れ夢中に唇を吸った。

 タマモの体内から瘴気がハルトへと吸い出されていった。

 タマモが目を開けた。そしてまた目を閉じてハルトに抱き着いた。

 しばらく抱擁と口づけは続いた。

 外の連中が様子を見に病室に入ってきたことにも気づかず二人は抱き合っていた。

「ゴホン!」

 オオガミがかなり大きく咳払いするまで

「なんだ、お前たちは入ってくるなと言っただろ」

 タマモから離れハルトは真っ赤な顔をして照れていた。

「ありがとうハルト、また手を差し伸べて私を助けてくれたんだね」

 目を覚ましたタマモはうっとりとした目でハルトを見つめた。

「あのその、治療しただけだからな、忘れたかったら忘れてくれ、頼む」

 ハルトは困った顔をしながらも笑顔でタマモに言った。

「いやいや、もう一回治療して」

 両手を一杯に広げてタマモが目をつぶって言った。

 病室中に笑いが起こった。ハルトを除いて


「これでサマー・フェスも予定通りできそうだけど私はこの左手じゃギターはだめだわ」

 モモは痛々しく吊られた左手を指さした。

「モモちゃん、よっかた無事だったのね。ベースはハルトがやるから問題ないよ」

「おいおい、俺にもあのメークしろというのか」

「バンドのカラーだからね観念しなよ」

 タマモはうれしそうに言った。

「やれやれだ。久しぶりに練習するか」

 元気になったタマモの笑顔につられてしまった。


「そうだ、大事なこと忘れてた。カルヤシャはどうしたの?」

「覚えてないのか。おまえがバラバラに消し去ってしまったぞ。よかったな家族の仇が打てて」

 タマモはぽろぽろと泣き出してしまった。

「笑ったり泣いたり忙しいやつだな。今日は一日ここで休んで明日からフェスの練習だ」

 タマモの頭を撫でてハルトがささやいた。


 翌日から、スタジオで猛練習が続いた。

「すっかり指がなまってるな」

「いい感じだよハルト」

 チョッパーの音色が咽び泣く鳴り響いた。


 そしてフェス当日を迎えた。この国を大きく変える一日の始まりであった。

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