●カルヤシャ
テンコは破れた。その間カルヤシャはゼブル教団の残党狩りに奔走していた。今まで好きなように使われていた腹いせである。恐ろしいほどの執念深さだ。そして今、ミス・ペティが探索をし終えた教団の兵舎に彼女はいた。テンコの部下シレノスを引き連れていた。
「シレノスよ、教団のメリムとザグレットの最後の姿は面白かったな。哀れに許しを請い泣き喚いたいたな」
「さすがカルヤシャさま、いたぶり方が極上でございましたね。私は彼らが哀れに思えました。あなたを敵に回したくないお人ですな」
「こちらに転生してどれだけやつらに好きなようにされたか。おぬしも見ておったじゃろ。さて、テンコにも話してやろうと思うたがやつはどこじゃ」
「ここで教団のパラディンたちを妖魔化していたはずですが、もう一カ所のわが軍の兵舎を見てまいりましょう」
わずかな時間差でペティは九死に一生を得ていたのであった。
しばらくすると戻ったシレノスが
「カルヤシャ様!大変です。テンコ様が殺されておりました」
オオミドウが突入するのを外から見ていたようだった。
「なんだお前は加勢してテンコを助けずにここに逃げ帰ったのか。はっはっは、テンコのやつも哀れだな。おまえごときにも見捨てられるとは」
「私はカルヤシャ様にこのままお仕えさせていただけないでしょうか」
「好きにするがいいわ、ところで腹が減った。そこらの人間を二、三人ほどここへ連れてこい」
鎌をぐるりと回してシレノスを差した。
「わ、わかりました今すぐに」
シレノスは飛び出していった。
この様子をペティが仕掛けた新型通信ガジェットが収めていた。画像と音声を飛ばせる機能になっていた。
ピザ屋でオオミドウを弔いを行っている一同の元へ血相を変えたペティが駆け込んできた。
「閣下、カルヤシャを見つけました。私たちが探索していた教団の兵舎に」
「なんだって、それは本当か」
「住人を拉致して食おうとしています」
「それはいかん、オオガミ!行くぞ」
「望むところだ。今度こそ仕留めてやる」
「ハルト!私も行く!」
タマモが言うと
「ああ、あいつの最後を見せてやる」
タマモの頭をつかみぐしゃぐしゃと撫でた。
「私もみんなの敵討ちに加わりたいです」
モモも続いた。
「転送で行くぞ。準備をしろ」
戦闘準備を整えた三人を
あまとぶや
かりのゆくさきしめしけれ
かのちめざしてとぶらう
転送
シレノスがゲームのスキルでつかまえた若い女性たちを引き連れ兵舎に向かおうとしている目の前にハルトたちが現れた。
女たちを置いて、もちろん逃げ出したシレノスであった。
「閣下、こんなところに人が倒れております」
「シレノスはどこだ」
あたりを見回すが影も形もない逃げ足が彼の特技だ。
「仕方ない、後回しだ。ミス・ペティ、やつはまだ中か」
インカムガジェットでハルトが連絡を取る。
「はい、椅子に座りシレノスを待っているようです」
「モモは裏口に回ってそこから侵入、オオガミは、また窓をぶち破って入ればいい。タマモ正面から俺についてこい」
タマモに強化をかけるハルトであった。
兵舎の入り口に向かって
ささがにのくもよきたれい
さうなしに
竜巻
ドアを吹き飛ばして中に入った。
爆音におどろき鎌をかまえて待ち受けるカルヤシャ。
天窓からオオガミが飛び降りて一撃を浴びせた。
後ろに飛び退いたカルヤシャは怒りの表情で
「きさまらテンコを倒したからと言って私を甘く見てもらっては困るな。返り討ちにしてくれるわ」
やっとカルヤシャを追い詰めた。ハルトたちであった。
まだまだ余裕の顔のカルヤシャは両手の爪をハルトたちに矢のように飛ばす。オオガミは、爪をかわしてカルヤシャに詰め寄り、斬撃を叩きつけるが鎌でいなされる。オオガミのうしろからケルベロスが牙をむき襲いいかかる。しかし振り返りもせずに巧みによけながら剣で斬りつける。それを鎌で受けながら口から液体を吐き出した。オオガミに命中すると粘液のように体を包み動きを止めた。ケルベロスはオオガミの両手を食いちぎった。
ハルトとタマモはケルベロスと応戦している。
「ひっひ、首は私が切り落としてくれよう」
大きく鎌を振りかぶる。
「ぐああぁぁ」
カルヤシャがうなり声をあげた。体中を狐火が覆っていた。
「観念しなさいカルヤシャ!四人の恨み」
カルヤシャによって命を落とした。アーカムス、アオナ、キグナス、オオミドウのことである。
モモが念じるとオオガミをとらえていた粘液を弾きとばした。自由になったオオガミだが両手がなくては加勢できない。するとハルトがその右手を持ちオオガミの元へとやってきた。
「よだれで少しべとべとしているがいいだろ」
右手をもとの位置に戻すと瞬く間につながっていった。
「もう一本は自分で取り戻してくれよ。俺とこいつらを片付けようぜ」
残りのケルベロスの方へといざなった。
「タマモ、モモを手伝え」
「OK!任せて」
タマモは燃え盛るカルヤシャへ短剣を投げつけた。額に突き刺った。
「どうだカルヤシャ!私の家族の痛みを思い知れ」
カルヤシャによって惨殺された父や母と兄弟の為の一投であった。
さらにタマモの両手が光り始めカルヤシャに向けられる。カルヤシャの首がねじれ折れた。
「これで終わりよ」
タマモが安心したその時
「危ない!タマモ!」
カルヤシャとタマモの間にモモが割って入った。カルヤシャの鎌が宙を斬った。
モモの左腕を深々と斬りつけた。
「モモちゃん!」タマモの絶叫!
カルヤシャは妙な方向に曲がった首で口から瘴気を吐き二人を包む。
その瘴気の中をタマモは怒りの表情でカルヤシャに右手を開きにじり寄る。
「タマモ、無理しちゃダメ‥」
モモは左腕の痛みで気を失った。
それでもなおカルヤシャに近ずく。すさまじいサイコキネシスで動きを止めている。
何ということだろう。カルヤシャが分解していく。あまりに強い念動力でカルヤシャの体を分子レベルでバラバラにしていった。粉塵と化したカルヤシャは消えてなくなった。
それと同時にタマモは意識を失い倒れた。
ケルベロスたちを倒したハルトが駆け寄った。
「タマモ!!」
ハルトの叫び声が響き渡った。
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