●茜と葵
後続の援軍は処理班となった。テンコや敵への死体の処理と機関銃の収容そして、三人の遺体を運び出そうとしているとオオガミが
「ハルト、イソルダ、アルジェの遺体から魂魄の気配があるぞ」
気配を察するのが得意なオオガミならではだった。
「たしかにどういうことだ」
ハルトが調べ始めた。
「なんてことだ。奴隷紋だオオガミ」
かつてハルトの父が施した。双子のメイドを縛る奴隷契約の痕だ。その奴隷紋が死しても彼女らの魂を紋に縛り付けていたのだった。
「普通に生活していたのですっかり忘れていた。今なら解呪できる呪文を知っている。しかしこの状態なら」
ハルトは呪符を取り出した。それを人型に変えると二人の遺体の上に置いた。
むくつけいしむつかるのろい
解呪
二人の魂が体から離れると
あくがろみたま
封印
呪符の人型に吸い込まれていった。
「何を施したんだ」
オオガミがのぞき込んだ。
「これでうまくいっていると思うのだが」
ハルトは印を結ぶと。
人型は式神へと、巫女服を着たイソルダ、アルジェの姿を取った。目を開き起き上がった。
「アルジェ、その髪の毛の色!」
「イソルダこそ」
二人は顔を見合わせ言った。イソルダは赤い髪の毛が金色に、アルジェは青い髪が銀髪へとなっていた。そして自分たちの遺体を驚き見つめ唖然としていた。
「二人ともすまない、勝手に魂を引き戻して」
「ご主人様、またこれでご奉公ができます」
「ありがとうございます」
深々とお辞儀をした。
「これは提案なんだが、紋もなくなった奴隷として俺に仕えることはないので名前を変えて生きないか」
「じゃあ、アルジェは葵でどう」
「イソルダは茜」
髪の色になぞらえた名前を付け合い二人は手を取り頷いた。
「わかった、茜に葵だな。とりあえず髪の毛を染めてイソルダ、アルジェでしばらく過ごしてくれ。オオガミ、彼女らの死はしばらく伏せておいてくれ、それとここの現場にいる者たちにも箝口令を頼む」
オオミドウの死だけでさえ動揺を与える。さらにこの二人も戦死したとなればフェス前のタマモがショックを受けるに違いない。サマー・フェスの後に本当のことを伝えよう。
兵舎を引き上げアジトへと戻る道すがらオオガミがハルトに話しかけた。
「ありがとう。イソルダ、アルジェを呼び戻してくれて」
「どうしたんだ急に」
「不死身の体である俺も心の傷は堪えるんだよ。これだけは簡単に治らない。彼女たちが死んだときかなり大きな穴が開いていたんだよ」
「そうか家族の死を想像すると俺もそんな気持ちだ。やっぱり昔と変わったな」
「弱くなったのかな」
「いいや、その気持ちがあればもっと強くなると思うぞ」
ハルトの原動力が息子晴明の死だからだ。
アジトにたどり着くとモモたちも来ていた。
「そうなのオオミドウまで・・」
モモが沈んだ顔をして呟いた。
「オオガミ元気出して、私たちとパーと一杯飲んで弔おうよ」
長い間一緒に旅をしてきただけあってタマモはオオガミが気弱になっていることに気が付いたようだ。
「俺は酔うことはないが、騒いでみたい気分だ」
「じゃあ、ハルトもイソルダもアルジェもピザ屋に行こう」
その夜はどんちゃん騒ぎでみんなたらふく食べ呑んだ。
「ねえ、ハルトは死なないでね。みんな死んで行っちゃってこんなに悲しいのに」
涙ぐんでタマモが俺の手を握って懇願した。また、車の事故で死んだことを思い出した。妻の陽子とタマモが重なって見えた。
「大丈夫だよタマモ、お前を悲しませること絶対にしない。約束だ」
小指で指切りをした。
「これはなんなの」
「指切りという約束の誓いだ。指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ーます」
「なんなの変な歌、痛そう」
タマモが笑ってくれた。




