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●史上最大のフェス

「キグナス・・・」

 言葉を失うオオガミ、かつてハルトが味わった後悔、彼もまたその念に囚われていた。仲間を自らの命令で失ったことは、いかにタフなオオガミにも応えたようだ。

「私の責任です。『転生者の拘束具』まで奪われてしまい。言葉もありません」

「自分を責めるなオオミドウ、これもまた運命(さだめ)だったんだ」

 オオミドウへかけた言葉は自分に対しての言葉でもあった。不死の呪いで死ねぬ体の自分はそうして人の死を運命(さだめ)ということで納得してきたのだった。

 そんな自分はハルトと共に行動することでおのれの運命(うんめい)が開けることを信じるしかなかった。

「オオガミ指令」

「ん、すまん考え事をしていた」

 Qが神殿に仕掛けられた盗聴器の録音を持ってきていた。

 そこにはゼブル教団のメリム教皇とザグレット枢機卿の会話が録音されていた。聞き終わると

「カルヤシャはあそこの僧侶たちを皆殺しにしていったのか。酷いことをする」

 会話を聞いてオオミドウが驚いていた。それほどに『転生者の拘束具』というものがマサカドたちを制御して自分たちを守ってきた証であったとは

「いずれにせよゼブル教団は我々が対処する前に自らで滅んでしまったということか」

 メリムとザグレットは自ら召喚した魔物たちにおびえ逃げながら暮らすことになるだろう。しかし彼らの罪を償うには大きすぎる損害をこの国に与えてしまったことの贖罪にはならない。

「テンコは預けられたパラディンたちはすべて妖魔に憑依させ自らの手足と使っているようです」

「その数は?」

「およそ百騎と見ますが現在消息を絶っています。調査中です」

「こうなってしまうとハルト閣下からのご指示をうかがうしかないな」

 モモタマのフェスの件といいオオガミにはハルトの意図ががわからなくなっていた。


 ハルトはシーモフサルトでの出来事の報告をまだ耳にしていなかった。城の宝物庫で陰陽の仮面以外に何か役に立つものはないかと探索中であった。

「これはなんだ?」

 人の大きさほどもある木箱に目が留まった。ラベルにはオーディンの馬と書かれてある。複雑な結界で箱は閉じられていた。まるで棺のようであった。

 それから丸一日をかけて解呪を試みていた。そのため報告を聞く間がなかったのである。

 突然箱が輝きだした。解呪に成功したようだ。棺のような箱を開けるとそこには木製の骸骨が安置されていた。鑑定をすると

「なるほどユグドラシルの木で作られたからくり人形か。取り扱の書物があったがこれのことだったのか」

 自分のアイテムボックスにしまい宝物庫を出たところにゴラン長官がやってきた。

「こんなところにおられたのかハルト閣下、大変でございます」

 シーモフサルトでの出来事を報告してきた。

「キグナスが・・そうか」

 自慢の近衛師団の中隊長も残り二人となってしまった。側近の兵士を呼び馬の用意をさせた。シーモフサルト城の結界の為、ハルトの魔力は常時使用され続けている。転送での魔力の節約のため、急いでも四、五日かかるが近くまでは馬でシーモフサルトへと向かった。途中馬を乗り継ぎ全速でエンドワースのマナーコ水上都市へ着いた。三日目のことだった。

「さすがに疲れたな。空を飛ぶことができたらな」

 ウマヅラハギのアクアパッツァを食べながらマナーコのリストランテで腹を満たしていた。

「さて、腹も膨れたしここからならオオガミのところへ飛んでもたいした魔力量は要らないな」

 キャラメルチーズのドルチェを食べ終えてそういった。


「タマモ、新曲の楽譜だよ。しっかり練習しなよ」

 モモが楽譜を投げつけた。

 タマモはギターを弾きだした。

「ふーん、なんかノリのいい曲だね。歌詞もイケイケって感じ」

「ハルト閣下が作った曲だよ」

「ハルトの曲なのいい感じ、みんな頑張ろうって気になるね」

 ミス・ペティがやってきて

「フェスの場所は抑えたわ。シーモフサルトで一番大きい中央公園よ」

「うわ、すごい!何万人も入れちゃうよ」

「これから一週間で会場の準備するわよ」

「Qくんが作ったPA(音響システム)でガンガンやろうぜモモタマ!ゴー」

「いえー!」

 この計画はレジスタンスたちにも広く噂が流された。


 オオガミはシーモフサルト城の前で警戒していた。ハルトの作りだした結界は正常に機能しているようだが何が起こるかわからない。

「しかしすごい結界ですね。オオガミ司令官」

 オオミドウが改めて感心している。

「魔界の通路とマサカドの動きまで押さえつけているからな。テンコとカルヤシャが外出中だったがな」

 ハルトが転送で二人の目の前に現れた。

 敬礼をする二人

「遅くなったが、準備は整った。みんなを集めてくれオオガミ」

「食事の手配も頼むぞオオミドウ」


 大きな作戦の始まりであった。

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