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●転生者の拘束具

 ユートガルト城の図書室にハルトはいた。

「やっぱりそうか。かつてこのユートガルトにいた邪教の集団がゼブル教団に間違いない」

「ハルトさん、あまり(こん)を詰めると体に毒ですよ。お茶でも飲んで一息ついてください」 ハルナ宰相が自らアールグレイを持って図書室に来た。

「ありがとう。アールグレイかミッチーが好きだったな。国務と子育てが大変なのに」

「ハルトさんに押し付けられて大変ですわ。まあ、各大臣に女性を起用して前よりスムーズに国務が進んでるのよ。それより何かお分かりになったの」

 さすが俺が見込んだ通り政治改革を推し進めていい国にしてくれているようだ。

「ああ、シーモフサルトを裏で操っているゼブル教団はやはりこの国を発祥としているようだ。この城の地下深くに封印されている蠅の王を復活させようとしているみたいだ」

「それであんなに遠くからこの国を攻めようとしているのですか。そんなに蠅の王とは大切なものなのですか」

「蠅の王、ベルゼブブの力を借りてこの世を楽園に変えるんだとよ。狂信者の集団だ。転生者の儀を用いてマサカドを召還したようだ」

「まあ大変、ハルトさんがんばってやっつけてくださいね」

 そういって戻っていった。

 図書室の禁書の中に転生者の拘束具と言った記載を見つけた。それはマサカドが従えるにあたってゼブル教団が使っていると思われる。それでなくては素直にいうことを聞いてる連中ではないだろう。


「ねえ、オオガミぃハルトはいつになったら戻ってくるの」

「さあな音沙汰なしだ」

 タマモはバンド活動を禁止されて退屈していた。

「オオガミ司令官、ハルト閣下から指令がありました」

 諜報部のQが部屋に入ってきた。

「何々、あたしがやってもいいこと」

「いえ、タマモさん向きではないかも、ゼブル教団の本部への潜入指令です。『転生者の拘束具』の奪還と盗聴器を設置せよと」

「それはオオミドウとキグナスの仕事だな。わかったそれだけか」

「タマモさんに伝言です。夏のフェスを派手にやれと」

「やったー!ハルト大好き」

「やれやれ何を考えているんだ。うちの大将は」

 オオガミは首をかしげてあきれていた。

「オオガミ司令官はそれを手伝えとのことです」

「なんだって!ハルト閣下はいつここへ戻るんだ」

 直に話を聞きたがるオオガミであった。

「フェスまでには戻るとのことです」

「まったく何を考えているんだ」

 すっかり困惑するオオガミであった。


 卸売市場で働くオオミドウとキグナスの元へオオガミとQが指令を伝えに行くと

「教団本部に私たちだけで潜入するのですか」

 キグナスが気後れしている様子であったが

「ワクワクするなキグ、しかもモモタマが復活だぞ」

 オオミドウは乗り気でさっそく出かけようとしていた。

「ミド氏、あせるなよ。慎重に行動だぞ。ゼブル教団の本部は北の山岳地帯だぞ」

「登山家を装ってまずは近くの山小屋で調べを始めるか。Qくん地図を用意してくれ」

「それは登山道具とここに入っています」

「すでに考えていてくれたか。行くぞキグ」

「わかったよ。ミド氏、腹はくくった」

 二人は北へと駆け出していった。


 そこはかなり険しい山道だった。

「よくこんなところに本部を作ったものだな」

 オオミドウは標高千メートルを越えたあたりであきれていた。

「よほど人目に付きたくない連中なんだろう。休憩する山小屋もないぞ。どうするミド氏」

「一気に本部へいくしかなさそうだな。見張りがいないかどうか警戒しておこう」

 しばらく行くと前の方に大きな荷物を背負ったシェルパの一団が進むのが見えた。

「奴らの生活日常品と食料を運んでいるのだろう。気づかれないように後を追うぞキグ」 小一時間後をつけると開けた平地に出た。石造りの小さな小屋がたくさん並んでいた。「キグ、隠れ蓑笠(みのがさ)を使うぞ」

 オオミドウは(いん)を結び「(りん)(ぴょう)(とう)(しゃ)(かい)(じん)(れっ)(さい)(ぜん)」と唱えた。ステルスのスキルを使った。

 僧侶たちが荷物を取りに小屋から出てきた。そしてシェルパは来た道を引き返していった。

「三十数名しかいないようだな。こんな人数でシーモフサルトを操っているとは驚きだな」

「パラディンたちは下山しているいるとの情報だ。無警戒だな都合がいい」

 小声で会話する二人であった。小屋を少し大きくした神殿風の建物に入っていった。

「キグ、大事なものがありそうな場所はわかるか」

「おそらくこっちの方だ。結界が施されている」

 祭壇の下に階段が見えているが結界で守られている。

「解けるかキグ」

「任せておけ簡単な結界だ」

 解呪の呪文を唱えてオオミドウとキグナスは下へ降りていった。

「あった、おそらくこれだ」

 四体の彫像が置かれてあった。それを取り袋に詰めて元の祭壇まで戻った。

「任務は完了だな。盗聴器も仕掛けたし下山するか」

 二人はステルスのまま下山路に向かった。

「ここまでくれば大丈夫だ術を解くか」

 オオミドウは術を解いた。その瞬間キグナスに槍が突き刺さる。槍ではなくカルヤシャの爪であった。爪はケルベロスに変化するとキグナスが持っていた袋をくわえカルヤシャの元へと戻った。

「キグナス、しっかりしろ!」

「ミド氏、早く逃げろ。俺はもうだめだ。ベールのカツカレー食べたかったな」

「はっはっは、お前たちを見つけて後を追ってみたら思いもかけないこの『転生者の拘束具』を持ち出してくれるとは。お礼にケルベロスの餌になるがいい」

 キグナスは最後の力を振り絞りケルベロスに組み付いた。

「早くQのガジェットで逃げて報告するんだ!俺は自爆する」

 手榴弾のピンを抜いて咥えた。

「キグナスすまん」

 Qのガジェットはここへ出かける前に渡された杖に内蔵されたハングライダーだった。 オオミドウが崖に向かって飛び出すと同時に爆発が起こった。

「畜生!逃げられたか。まあいいマサカド様へ手土産ができた」

 高らかに笑うカルヤシャであった。

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