〇新たな妖魔
勢い良く廊下をかけるタマモとフースーは扉を蹴破った。
驚く奠胡の姿があった。
「お前たち何者だ!」
葛の葉と白虎の姿の二人はくるりと回って元の姿に戻ると
「都を騒がす不届きな奠胡、覚悟しなさいよ!」
タマモは啖呵を切って殴りかかったが幻であった。
気が付くとタマモたちはガラスケースのようなものに閉じ込められていた。それを大きなテンコが眺めているのであった。
奠胡が大きいのではなくタマモたちが小さくなっていたのだった。
「ひっひひい、うまく捕まえたわい。おまえたちは餌になるのじゃ」
ガラスケースの中には大きな繭があった。タマモとフースーは力が抜けていくこと感じた。
「おぬしたちの霊力を繭が吸っておるのじゃよ。干からびるがよい」
意識が遠のく二人であった。
「なんかすごい物音がしたけど」
ハルアキは我星のいる部屋へ急いだ。そこで康成とばったりと会ったのである。
「ハルアキ殿、タマモさんたちが勝手に我星の部屋に行ってしまいました」
「えー何でタマモさんがいるの、あそこの部屋だよね」
ハルアキがたどり着くと扉は壊れているが結界で固く侵入者を阻んだ。
「タマモさん今助けるからね」
天叢雲剣を結界に突き入れた。
パーン!
結界が破れて机の上に乗ったガラスケースを見つめる奠胡がいた。
「おぬしまで現れるとは計算違いじゃ」
奠胡はあわてて杖を振り上げた。
火球が放たれ部屋が炎に囲まれた。
「水球の剣!!」
剣を振り回すと水流が部屋を覆って火の手を押さえる。
「加速」
ガラスケースを持とうとする奠胡に先んじてそれを手にした。中を覗き込むハルアキ。
「タマモさんにフースー、大丈夫なの」
ケースに叫ぶハルアキ。
「ぬぬ、しかたがない」
おおきく杖を振り上げるとガラスケース目がけて振り下ろした。激しい光と共にハルアキの目の前にタマモ、フースーが横たわっていた。
奠胡は壁に手をやると真っ黒な空間を開いた。
「ハルアキ殿大丈夫ですか」
佐助もやってきて辺りを見回している。
「佐助さん、二人を頼んだよ」
ハルアキは逃げる奠胡を追って空間に飛び込んだ。
飛び出たさきは茶屋の前の路地であった。目の前を繭を担いだテンコが逃げていくのが見える。
「逃がさないよ、狐火!行け!!」
指をさすと三体の火炎狐がテンコにまとわりついた。
「あっちっちー、ちくしょう、こしゃくな小僧」
繭が転げ落ち奠胡が炎に包まれる。
そのとき繭が裂け中から大きな蛾の羽を持つ女が現れた。奠胡は杖を振るい炎を相殺する水球をまとった。
「ガスタ―よ目覚めたか」
「奠胡、つかまりな」
羽ばたき飛び上がるガスタ―、足にしがみつく奠胡、ガスタは鱗粉を刃のようにハルアキに飛ばした。
「土壁」
結界で防ぐハルアキ、ガスタ―はそれをよそに飛び去り消えていった。
「しまった逃げられた。それよりふたりは」
引き返すとフラフラになりながらも目を覚ましたタマモとフースーがいた。
「なんともないの二人とも、沐浴」
回復呪文を唱えるハルアキ
「ハルちゃんもう大丈夫よ。霊力を吸い取られただけだから」
「だるだるだにゃん」
怪我をしていないことにほっとしたハルアキは
「もう、タマモさん無茶しないでよ。心配なんだから」
涙ぐんでタマモの手をしかっりとにぎった。
「ごめんねハルちゃん」
その手をしっかり握り返した。
「大黒屋、それに祇王、騒がせてすまなかった。また落ち着いたらゆっくり遊ばせてもらうぞ」
「ありがとうございました清盛さま、あのままでいたら我らもどうなっていたか」
「まま一件落着ということだはっはっは」
「さあ、帰ってドーマさんに報告しよう」
ハルアキたちは茶屋を後に導魔坊へと帰っていった。
その姿を見ていた男がいた。槌熊だった。
「奠胡も悪運が強いな。ホヘトで一杯やって帰るか」
つぶやき去っていった。
「迦樓夜叉、見ろ新しい仲間のガスタ―じゃ」
「記憶にあるよ。迦樓夜叉よろしくな」
「昔のガスタじゃないね」
「ああ、我星という女と融合して新しい能力に目覚めたのじゃ。頼もしいのガスタ―わしの部下よ」
「うるさいよ。私は私のしたいようにやるだけだよ」
奠胡にそっけないそぶりをするのが迦樓夜叉は気に入ったようだ。
「ガスター、こっちへ来な部屋を案内するよ」
二人は消えていった。
「タマモ、また勝手なことをしよって、ハルアキの到着が遅れたらどうなっていたと思うんだ」
ドーマはタマモを叱っていた。
「ドーマさん、タマモさんが先につかまったから僕は大丈夫だったという見方もできるんだよ。一方的に怒っちゃだめだよ」
「ハルちゃんかばってくれてありがとう、でもフーちゃんまで危険な目に合わせてしまったのは私が悪いのよ。みんなごめんなさい」
しっかりと頭を下げるタマモであった。
「わしも言い過ぎたようだ、タマモ頭を上げなさい。すまなんだ。最初からおぬしにも役割を与えるべきじゃった」
「よかった。仲直りだね」
「しかしやつらも新しい妖魔を得て厄介だな。これに味をしめてマイコニド、バグベアも新しい力を得るかもしれんな。ハルアキ、この間の予想のようにはいかないぞ」
オオガミが心配なことを言ってくれる。
「任せてよ。オオガミさん、まだ晩御飯まで時間もあるし稽古をつけてくれる」
守りたい気持ちがさらに強く胸にあふれるのを感じた。
「おっなかなかの心構えだ。表に出ろ」
「よろしくお願いします。
クマゼミがうるさく鳴く庭に出た。




