〇石窯と宴
清盛は「すまぬが村長よ。今日中は都に帰る心づもりであったがちと遅くなった。こ奴らも少し休まねば到底歩くこともままならぬ。ここで宿を取らせてもらえぬか」
「喜んで、村の恩人さんをむげにお返しするわけにもいかんでの。しかし歓迎するにも食の支度もおぼつかない状況ですがよろしいですか」
「大丈夫だよ村長さん、四、五日は探索にかかると思って食料はたくさんあるはずです。ねぇ葵ちゃん」
リュクからどんどんと食材を取り出す。特別大きい鍋!なんでこんな鍋までとはいやはや準備にもほどがある。どんな事態を想定して荷物を詰めているのだか、あきれて声も出ない。
「よーしおらが旨いものを振る舞ってやるから、ミーノも楽しみにしておくれ」
タウロががぜん元気を出してはりきり始めた。
と、ご飯の心配はなくなったけれども、お風呂だ。清盛さんの家臣さんたちにも元気を出してもらうためにもひっと風呂が必要だ。ここは一つ露天風呂作ろう!
「さてと、探査」
まずは水の確保だ。地面に手のひらをつける。すぐに村の奥外れに水脈を発見できた。次に紙を取り出して同じ呪符を十枚ほど作る。投げ放つと印を結ぶ。十体の式神モグラを作り出した。
「さあモグちゃん、ここを掘るんだよ」
地面を掘り進むモグラたち、そして水脈を掘り起こした。さあ井戸も掘り当てたし、
「今度は岩を集めて浴槽を作るんだよ。モグちゃん」
瞬く間に岩風呂が出来上がる。これを沸かしてと、手を突っ込むと「火球!」露天の岩風呂を作り上げた。
「清盛さーん、こっちへ来て」
清盛は湯気の上がる露天風呂に驚いている。
「いやはやハルアキ殿のお風呂好きにもあきれるでござる。家臣も呼び湯治させていただくとするか」
六人はハルアキの作った露天風呂に首まで浸かった。なぜかモグちゃんたちも横にいるが功労者だもんね。ハルアキが湯の様子が気になり鑑定を使った。
「これは温泉だよ。冷泉だけどラドン温泉だ」
「ラドン?よくわからんが確かに体の疲れが癒されていく気がするぞ」
家臣の人たちの顔も和らぎ生気がみなぎってくるようだ。
よーしこれも「ちょっとびっくりするかもしれないけど、ちょっと我慢してね」
弱い電撃を湯に放った。
「うあっ!びりびりするでござる!しかし心地よいの」
アブルも併せて発動してある。
「電気風呂と言って疲れに効くんだよ」
悔しいけど酒呑にマッサージだなんて言われたのがヒントだが、導魔坊のヒノキ風呂でもやってみよう。修行の疲れをいやすのに便利そうだ。
「導魔法師様のお弟子さんでしたか、ハルアキ殿、何から何までありがとうございます。ところで清盛さま、山賊に捕まっておりました時、もう一人、声しか聞こえませんでしたがやつらめの本当の主がいたようです」
「本当かそれは、まだこの事件は終わってはおらぬということか。戻ったら法師様にご相談せねばならぬな」
お風呂を上がるとタウロさんが宴の準備を整えていた。
「さあ、皆さん思う存分食べてくだされ、足りなければどんどん作るだで、おなか一杯になってくだされ」
大きな鍋にはお野菜たっぷりの獅子汁が出来上がっていた。僕たちの分までか村の人たちにも振る舞うくらの量であった。
タウロは粉を練りだし何か作っている。丸く平らにすると放り投げてはくるくる回して伸ばしていく。あれはもしかしてピッツア!
横を見ると石窯が作られていた。僕が露天風呂を作っている間に茜と葵がタウロの希望で作ったらしい。さすがにトマトはこの時代にはなかったのか、チーズとベーコンを載せ窯へと数枚入れた。手際よくシャベルのような木べらで窯の中で入れ替える。取り出すと切り分けてみんなに配る。
かじりつくと
「まじでピッツア!どれだけレパートリー豊富なのタウロさん」
ピッツアソースは赤味噌だ。
頭をポリポリかきながら
「皆さんが見ているようで派手な作り方の食べ物がよいかと」
村の人たちも珍しいのか感心して手をたたいたりして喜んでいる。
ミーノは「タウロ、こんなくいもん初めてくっただ。うめえな」
「おめえにもわしの作ったものを食べてもらいたくて、夢がかなっただ」満面の笑顔だ。
清盛さんは酒を呑んでいる。
「皆も呑めよ。どうせなくなった酒だ」
大盤振る舞いだ。
タウロは今度はうどんを打って、獅子汁の残りにほおり込んでいく。石窯で野菜を焼いて味噌で作ったソースを添えて酒の肴を作った。
「どんどん食べて飲んでくれだ」
大はしゃぎのタウロさん胸のつかえがとれ上機嫌だ、調子に乗ってどんどん料理を作っていく。
やがて楽しい宴も終わり村の人たちも家路へ戻り、清盛さんや家臣たちはあてがわれた家に戻っていく。後片付けも終わりも僕も寝床に向かった。
タウロとミーノは僕の作った露天風呂で思い出話に花を咲かせいつまで語り合った。茜と葵も湯につかり二人の話に聞きいっている。
翌朝、すっかり空になった荷車を轢き都の導魔坊へと引き返した。
錬金部屋にドーマはいた。すごい部屋だった。いろいろな見たこともない実験器具と書物や薬品瓶の中に囲まれて、例によって茜と葵の人型から報告を受け取り考え込んでいる。清盛さんからの黒幕の存在を聞きさらに考え込んだ。
机の上に八卦見の道具を並べ占術をはじめた。空間に様々なウィンドウが浮かび情報が飛び交う。それを手で動かしは答えを導きだそうとしている。
「やはり、禍の厄災の使徒が一人復活したようだ。奠胡めがどこかに潜んで居る。「奴は狡猾で姑息だ簡単にはこちらに姿を見せてこぬだろう。これから起こる事件に目を凝らし解決していけばやがて奴の足跡を突き止められるだろう。清盛殿警戒を頼む」
「わかりました。検非違使にも伝え網をお張りいたしましょう」
「それとハルアキ、タウロの件、うまく解決できたようだな。よくやった」
「いえ、清盛さんがミーノさんに勇気を諭してくれたおかげだよ」
謙遜ではなく僕にはあんなにいいアドバイスは贈れない。もしかしてこれもドーマさんの手の中の策なのか。
「タウロさんがあんなに悩んでいたなんて、僕もうれしいよ」
きっと料理の腕もさえるに違いないとも思っている。僕にも朗報だ。
「ねえドーマさん、相談というかお願いがあるんだけど。トマトってどうにかならないの」
「うーん、南米原産のものじゃからこの時代は正倉院にもないだろうが、タマモがユートガルトから持ってきているやもしれん。無駄とは思うが聞いてみるとよい」
「タマモさんはどこ」
「都見物にうろついておる。夕暮れには戻るだろう。それよりオオガミと修行じゃ」
「はーい」
瑠璃村から帰ったばかりでもう休みを頂戴よ。元気のいい返事とは裏腹に愚痴の一つも言いたい気分だ。
その日の基礎トレはあまり疲れない。実戦を経るとレベルが大きく上がるようだ。そしていつもの手合わせの時間となった。今日は試してみたいことがある。
「お願いします」
「おう!かかってこい」
よーし驚かせてやるぞ。
木刀を打ち込む、電撃をかけながら
「えい!」
「おっおつなことを覚えたか、しかし木刀では威力を発揮できんぞ。蜘蛛切丸に持ち替えろ」
「えっ真剣で大丈夫なの」
「馬鹿なことを言うな俺はこの木刀で十分だ。蜘蛛切丸は法術を蓄えることができるんだぞ。その戦法にうってつけだぞ」」
蜘蛛切丸に持ち替えオオガミに挑む。しかし木刀でいなされ打ち込めない。
「おいおい、当てなきゃ意味ないぞ」
悔しいが正攻法では一大刀もあびせることはできないようだ。土壁を使ってオオガミの目線を遮る。右側におとりの水球を打ち込み、左に回り込み大上段にオオガミに打ち込む。やった!頭ぎりぎりで止めるつもりだったが、オオガミが右手で剣を遮る。
「あっ!」
オオガミの右手がぽとりと地面に落ちたが、左手の木刀で頭をぽかりと打たれた。
「工夫をしたな。右手を使ったので俺の負けだ。よくやった」
何を言っているの右手を切り落とされてるよ。
「どーしよう、大丈夫ですか!早くドーマさんを呼んで直してもらわなきゃ」
あたふたと慌てるハルアキを横目に右手を拾い起し元の場所につなぎ合わせた。
「俺は不死身でな。満月の時なら首を切り落とされても大丈夫だから気にするな」
右手をにぎにぎと笑っている。
「もう、びっくりしちゃったよ。言っといてよ」
安堵のため息をつき剣を収めた。
「こらっ!!オオガミ!後ろに飛び退けばよけれただろ。ハルちゃんに心配をかけるな」
タマモがオオガミを蹴り上げして怒鳴っている。
「ただいま、ハルちゃん!お出かけしていていなかったからタマモさみしかったんだよ。じゃお風呂入ろうか」
じゃじゃないよ。抱きしめられ頭を撫でられた。都をうろうろしてお買い物をしてきたようだ。風呂敷が大きく膨らんでいる。
突き放して「いやだよ!ひとりで入るから、こないでよ」
「あーら冷たいのね」
「あっそうだ、タマモさん、トマトのタネを持ってない」
「トマトのタネェ、ないわよそんなもの。干しトマトならおやつに持って来ているけどさ」
「それだよ!それ!タネがとれる」
「じゃあ、お風呂で体洗わしてね。それと交換」
タマモさんにはかなわない。
お風呂で頭を洗われながら改めて思うとタマモさんとお風呂に入っても少しもエッチな気分にはならない。むしろ気持ちが安らいで心地いい、不思議だな。
「なんでハルちゃんはそんなにトマトが欲しいの」
「トマトからケチャップが作れてそれで、大好きなオムライスができるんだ」
母さんの作るオムライスは最高だった。タウロさんも楽勝で作ってくれるはずだ。
「ふーん、それは楽しみだね!ハルちゃん」お湯をざばっとかけられた。
今日の座学は呪文についてだ。錬金部屋での授業だ。法術は木・火・土・金・水の五行によって成り立っているそうだ。それを組み合わせることによって新しい術を作りなしていく。
「例えばハルアキ、タマモからタネをもらったそうだな。ここへ一つ置いてみろ」
いわれるがままトマトのタネを皿の上に置いてみた。
「五芒のパレットを開いて土、水の要素に木の術を合わせてみろ」
パレットをタブレットのように指で操作する。恵みの術が出来上がった。タネに掛けてみると、タネは膨らみ若葉を芽だした。
「うわ、すごいね。これで早くトマトができるね」
「タエの親御に渡して畑にまいてもらうがよい」
明日の朝お願いしてみよう。
「オオガミに一大刀浴びせたそうだが、慢心するでないぞ。あやつは闘うことには鬼神の如き力を持つ恐ろしい男なぞじゃぞ」
それは肌身で感じ取っているよ。剣を合わせただけで総毛立つほど恐怖を抑えるだけでも精いっぱい。
「よしそこに座禅して呪文の構築をしてみるのじゃ」
目をつぶり瞑想する。五つのエレメントが線でつながり幾何学模様のごとく数々の呪文を作り出していくどんどん呪文が増えていく、百を超えたあたりから似たようなものばかりできるようになった。
「よしそのくらいでよかろう。食事にしなさい」
「ありがとうございました」
体を動かすより疲れたかもしれない。おなかがペコペコだ。
厨房を覗きタウロの料理をするところを見ることにした。
「坊ちゃん、もうすぐできるからまってください。若狭の国からいいサバが入ってきておりますので、味噌煮込みでも作りますだ」
包丁を華麗にさばき、まな板を叩いている。
出来上がっているお惣菜をちょっとつまみ食いした。
「それは琵琶湖のホンモロコの南蛮漬けだす」
とこれは
「海老芋の炊いたんだ。あんまりつまみ食いすると晩御飯が食べられなくなるだす」
怒られた。
「ねぇタエちゃんとは仲良しだよね。どうしてそんなに仲良くなったの」
タウロさんの見た目に怖がらず親しくしている様子が不思議だった。
「そうだすな、あれは去年の春先でしたか」
タウロが思い出話を始めた。