〇迷いネコ
「ハルちゃん~ハルちゃ~ん」
タマモが導魔坊でハルアキを探している。外では蝉がうるさく鳴いていた。
「奥様、坊ちゃまはいねえだよ。ヨダルのじっちゃまが福原帰りたいといったから、ピコーナで送っていっただよ」
タウロがタマモに答えた。
「えー何よ、頼みたいことがあったのに肝心な時にいないんだからハルちゃんたら、タウちゃんすぐに帰ってくるの?」
「宋人街でのお買い物をついでに頼んだで、夕方には帰るだ」
「仕方ないなあ。ハルトに頼んじゃおうか」
とドーマの錬金部屋に向かっていった。
「ハルト、お願いがあるんだけど」
後ろから抱き着いてドーマに懇願する。
「お前がそんな顔をするときは大抵厄介ごとだな。なんだ」
「占いで探してほしいものがあるの」
「探し物、そんなものハルアキに頼めばいいだろう」
「ヨダルのスケベ爺を福原に送って行っちゃていないのよ」
「仕方ないなあ、何を探すんだ」
なんだかんだ言ってもタマモに甘いドーマであった。
「フーちゃんの眷属なの、ミケーレちゃん」
西の神獣フースーの頼みらしい。
「何かそのミケーレとやらの持ち物や髪の毛でもないのか」
「フーちゃん呼んでくるから待って」
フースーと共にタマモが再び錬金部屋に戻った。
「ドーマ、頼むにゃ。奠胡に異次元牢獄に飛ばされたときに一緒にいたんだけど、とっさに逃がしてあげたのにゃ。これがあの子の持ち物」
リングをドーマに預けた。
「これは、神速のバングルじゃないか。この世界にもあったのか」
しげしげと神速のバングルを観察している。
「早くぅ」
タマモがドーマを揺さぶっている。
「では占って進ぜよう」
ドーマは八卦のウインドウを繰り広げ占い始めた。
数分の時
「失せものいずれ見つかるだろう」
「何よ、おみくじじゃないんだからいい加減な占いしないで」
「ここまでしかわからんということだ。勘弁してくれ」
ウインドウを閉めて本を読み始めてしまった。
「フーちゃんごめんね。役に立てなくて」
「いいにゃ、そのうち帰ってくるというこにゃ。タマモお出かけしようにゃ」
「ホヘトに行こうか」
鰻屋イロハの隣の居酒屋である。
「ハルアキ君、悪いのぉゆっくり眠るにはあそこの祠でないと枕が合わんのでのぉ」
「ヨダルのじっちゃん、かまわないよ。タウロのお使いもあるから今晩のご飯の為だよ」
「ヨダルも飛べるんじゃないピコ」
「ああ、あれは目が回るので厄介なのじゃ」
ハルアキはクルクル回って飛ぶ大きな亀を思い出して笑ってしまった。
「ああ、そうかそんな飛び方をやっぱりするんだね」
ヨダルを雪見の御所の祠に送った後、宋人街へ向かった。途中にある坂本村の貴船神社のところで黒猫が近づいてきてハルアキにすり寄った。
抱き上げたハルアキは不思議な気配を感じた。
「かわいい猫ちゃんだな。一度ネコを飼いたかったんだけど家の事情で無理だったんだ」
「父、この子フースーの匂いがするピコ」
「ええ、そうなのじゃあフースーのペットかな」
「にゃー!」
「そうみたいピコ」
「猫ちゃん、フースーさんは京都にいるから連れて行ってあげるね」
「にゃ」
喜んでいるようだった。
愛宕山
「奠胡、何をそんなにそわそわしておるのじゃ」
「迦樓夜叉、サテュロスをこのゲートでシーモフサルトに送ったのじゃがなかなか帰ってこん、あのバカが」
「これであの国へいけるのか」
「わしらは無理じゃ。シレノスの魂を宿しているサテュロスだけが何とか通れるようなのじゃ」
「いったい何を命じたんだ。あの間抜けに」
「覚えておるじゃろ。冥界クインテット、やつらの魔石を捕りに行かせたのじゃ」
「崩れてしまったシーモフサルト城にうずもれているのではないか」
「ああ、そのはずじゃ。つるはしを持たせて一昨日送りだしたわい」
そこによろよろになったサテュロスが現れるとゲートが閉じてしまった。
「奠胡様、これでよろしいでしょうか」
魔石の入った袋を差し出した。奠胡はそれを受け取り中を検める。
「この、馬鹿者が!!四つしかないではないか!」
いつものように杖でサテュロスを殴りまくる。
「す、すみませんどうしても四つしか見つからなかったもので」
「まあ良いわ。これで再生魔人を作り暴れさせられる」
奠胡は袋から一個の魔石を取り出してサテュロスに杖と人の魂の入った瓶を渡した。
「今すぐ福原へ行きこの魔石を覚醒させるのじゃ。なるべく人の多いところでな」
「い、今すぐですか、少し休ませてください。お願いします」
「何を甘えておるのじゃ!早くいけ!」
サテュロスを蹴り上げた。飛び出すサテュロス。
「奴らの注意をそらす為か、奠胡、わしにも一個預けてくれ」
迦樓夜叉も魔石をひとつ持ってアジトを出ていった。
「どのくらい時間稼ぎができるかのう」
椅子に座り魔石を手に取り眺めていた。