●収容所
宿に帰ると遊び疲れたのかタマモもイソルダ、アルジェも寝息を立てていた。ひとときの安息を願いハルトも眠りについた。
朝食をとり早々に宿を後にした。帰り際にツキノワが挨拶をしてきた。胸の奥のつかえた思いを飲み込み。
「じゃあ、今度は戦争が終わったら泊りに来るからおじさんおばさんの手伝い頑張るんだぞ」
頭を撫でてさよならを言った。
「ハルトすごく悩んだ顔してるよ。何かあったの」
ポケットからエキドナの魔石を取り出して
「昨日の夜、エキドナを倒した」
「すごい、いつの間に」
タマモは驚くがアルジェは
「やはり、あのお方が目当てのエキドナでしたか」
無言でうなずいた。イソルダも
「おつらい決断だったでしょう」
「どういうことなの?」
タマモにはいずれ話すことにしよう。今はまだ打ち明けるわけにはいかない。幼いタマモには酷すぎる結末だから。
再び漁港からトウコ区に帰った。
「オオガミ、エキドナを倒した。次のターゲットだ」
「おいおい、エキドナを倒したって、どういうことだ」
オオガミには包み隠さず事の次第を話した。
「ツチグマに子供だって、しかもエキドナが母親」
オオガミも大いに驚き言葉を失った。沈黙が続いた。
「戦争が終わったら俺がその子を引き取って育てようか」
オオガミが心に決めたようにしゃべった。意外な決断であった。
「いや、それはよした方がいいだろう。あの子は賢く心の強い子だ。父親から受け継いだ気質だろう。一人で何とかするだろう。そのほうがいい。しかし意外だなお前がそんなことを言い出すなんて」
「いや、ツチグマの最後の姿が目に浮かんでな。俺にもそんな心があることに驚いたよ」
「お前も変わってきたということだ。それはそうと次のターゲットの話をしよう」
「チダ区のゴブリン、タグベアだな」
「そうだ、こいつはよく城下町に現れ暴れているので組みやすい。いつものように転送で拉致して倒せばいい」
今回の一件で何か急ぐのような強引な作戦を選んだハルトだが
「あまりあせりすぎないほうがいいぞ。ヘイ・オン・ワンの調査を優先したほうがいいぞ」
オオガミは心配するように諭した。
「こんな戦争は速く終わらしたほうがいいんだ。俺はもうたくさんだ」
仲間の死、そしてあまつさえ敵にも同情すべき事情があることも
「ハルト、冷静になれ今のお前はおかしいぞ。また予期せぬ犠牲が出たらどうするんだ」
犠牲という言葉を聴きわれに返った。
「すまないオオガミ、どうかしていた。ミス・ペティと相談して見る」
「やっとハルトらしくなったな」
そして二人はペティの元へと出かけていった。
「ハルト様、大変です。モモタマのメンバーがブヤシ区の冥界クインテットのマイコニドに捕らえられてしまいました」
ヘイ・オン・ワンのアジトに着くなり、ペティが血相を変え報告した。
「なんだって、タマモもか!」
ハルトは声を荒げペティに詰め寄った。
「いえ、タマモ様はハルト閣下とご旅行に出られていたのでご無事ですがモモ様はじめスタッフのものまで捕縛されました」
「活動がばれたか」
「ユートガルトの者ではなく、治安を害するということで拉致され、北の収容所へ送られることになりました」
「少々派手すぎたということか。助けに行かなくてはならんな。それでタマモはどこだ」
「すみません。イソルダ、アルジェともども行方が分かりません」
「あいつのことだ。一人で何とかするつもりに違いない。早く居場所を見つけるのだ」
イソルダやアルジェまでが軽率な行動に出ることはないと思うが早く居場所を見つけなければ
「護送のルートや警備の情報とタマモたちの行方を支給調査してくれ」
ハルトとオオガミはブヤシ区のアジト近くまで移動して周辺を探った。ハルトは一縷の望みでピザ屋をのぞいてみた。
「やっぱりここか」
胸をなでおろした。タマモがピザを食べていた。
「あ、ハルト、どうしたの?みんないなくて困ってたんだよ。あちこち探したんだけどお腹減っちゃって」
何も知らない様子であった。
「モモたちがマイコニドに捕まった。ここを早く出てついてこい」
ブヤシ区のヘイ・オン・ワンの拠点に向かった。そこにはQが詰めていた。
「ああ、タマモさんご無事で、よかった」
「Q、護送の情報はつかめたか」
「はい、明日ブヤシ区の要塞から護送車が出るようです。そこまではつかんでいますがそれ以上はこれからです」
「北の収容所付近で待ち伏せするか。先に行くぞ。オオガミ、タマモ、イソルダ、アルジェ」
収容所付近の森に潜み、Qからの連絡を待った。