●結界
シーモフサルト城内ではゼブル教団のメリム教皇とザグレット枢機卿が王座の間で待機していた。目つきの悪い太り過ぎたザグレットとは対比的に冷たい感じだがスリムで精悍な感じのメリムであった。そこへマサカド、テンコ、カルヤシャがあらわれた。マサカドは黒い鎧と仮面姿だ。すると三人はひざまずいた。そして教皇が王座へと座った。
「メリム教皇、わざわざお越しにならなくてもこちらからお伺いいたしますのに」
テンコがへつらいそういった。
「わが教団から貸し出した冥界クインテットが倒されているそうだな。どうなっているのだ」
ザグレットが怒った口調で詰め寄った。マサカドは黙ったまま頭を垂れている。
「もう少しお待ちください。ユートガルトのネズミどもを必ず一掃いたしますのでしばらくのご辛抱を」
テンコだけが受け答えしている。
「なんのためにお前たちをわが教団が転生の儀でこちらに呼び寄せたのかわかってないようだな」
「ザグレット様、十分に理解しております。ユートガルトを必ず手に入れて見せますのでもうしばらくお時間をください」
「テンコよ、お前はわが教団の派遣するパラディンに従え、そしてユートガルトへの進軍を今月末までに再開せよ」
「承知いたしました」
「マサカド君、きみにはこの国にいるネズミ退治を頼もうか」
メリムが口を開いた。
マサカドは頷くのみであった。
「それではいい報告を待っているぞ」
ザグレットはそう言い残しメリムと共に王座の間を後にした。
「マサカド様、あいつらの言いなりのままでいいのですか」
カルヤシャが言うと
「せいぜい利用させてもらおう。ことが終わればやつらを皆殺しにするまでだ」
マサカドがやっと口を開いた。
「それまでにわれらを縛る例のものを取り戻して見せますわ。マサカドさま」
「バンド活動はこれで終わりだ」
「えーハルトそんなのないよ。大きなフェスの予定があるんだよ」
「馬鹿を言うな。おまえたちはシーモフサルトから目をつけられているんだぞ」
「タマモちゃん仕方ないよ。戦争終わるまで辛抱よ」
モモも残念そうな顔をしながらタマモを諭した。そこへペティが駆け込んできた。
「大変です。ハルト閣下、シーモフサルトに仕掛けた盗聴器から新情報です。これをお聞きください」
再生機から流れた会話は王座の間の会話であった。
「やはり教団が黒幕だったのか。進軍の再開まで時間がないぞ。魔界からの召喚のゲートを早く閉じなければ。オオガミ、バグベア退治を急ごう」
ハルトは少し違和感を覚えた。簡単に盗聴でき過ぎている。マサカドに何らかのたくらみがあるのだろうか。
そこへ、オオミドウとキグナスが部屋に入ってきた。
「ハルト殿、バグベアが城下町で酒に酔ってゴブリンども暴れています」
願ってもないチャンスがこの事態でやってきた。
「行くぞ、オオガミ、タマモたちはここで待機していろ。オオミドウ案内しろ」
ハルトはオオガミ、オオミドウとキグナスとともに現場へ急行した。
城下町で暴れまくるバグベアのところへたどり着くハルトたちだった。
オオガミが飛び出た。
「俺が相手してやるよ。かかってきな」
「お前たちが仲間を倒した奴らか、待っていたぞ」
バグログは周囲のゴブリンを吸収し始め五メートルを超える巨人と化した。棍棒を振り回すとオオガミを直撃した。吹き飛ぶオオガミ、壁にめり込んでしまった。
オオミドウとキグナスが連携してバグログの背後から斬りかかるが鋼鉄の皮膚と化したバグログに跳ね返される。
あまびこの
おとをまゐらすわりなしの
さがなしものにさながらうす
雷撃
ハルトが呪文を放つが攻撃を止めないバグログ。
「丈夫なやつだな」
ハルトの横にいつの間にかオオガミが立っていた。
「お前には負けるだろう」
ハルトは笑った。
獣人化したオオガミが再びバグベアに切りかかる。オオガミの一撃で棍棒を握る腕ごと切り落とした。
「クッソ!」ゴブリンを再び吸収して腕を再生した。
キグナスが長い棍で足元を薙ぎ払いあおむけに転ばせた。そこへオオミドウが切りかかった。その剣捌きで魔法陣を胸に刻んだ。
「閣下今です」
ちはやぶるかみのちぎりしほむろあれ
おほけなしものをしたたむれ
火柱
業火が胸板にぽっかりと穴をあけた。
「ハルト、油断するなよ。俺がとどめを刺す」
倒れたバグログにゴブリンが群がった。さらに巨大になったバグログ。
目をつぶり剣を持たずに構えたオオガミ、そしてバグログに突っ込んだ。目玉に手をつき込み魔石を握り取りだした。
バグログが崩れ落ちていく
魔石をハルトに投げ
「これで終わりだな」
ハルトは式神の八咫烏を五羽作ると懐に入れていた残りの魔石と共に八咫烏に掴ませ空に放つ。
八咫烏は五芒星の陣形でシーモフサルト城を取り囲んだ。
うばたまのやみをまとえし
ときをあうとびらとなりし
さるべきにや
封印
巨大な結界がシーモフサルト城を包んだ。
「これで魔界の扉は封じた。俺はいったんユートガルトに戻り城の図書室で調べ物をする。オオガミはこのままシーモフサルトと教団の警戒を頼む」
次なる戦いに供えるハルトであった。




