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●ツキノワ

 バーチ漁港近くに海水浴に最適な砂浜を見つけて

「さあ泳ぐよ!イソルダ、アルジェ」

 服を脱ぎだす三人達、下に水着を着ていたのだった。アルジェはリュックからパラソルとビーチチェアを取り出してハルトの場所作ってから海へと向かった。

 ハルトはサングラスでビーチチェアに横たわりくつろいだ。

「確かこのあたりに入れといたな」

 ごそごそと空間収納を探り瓶ビールを取り出し栓を抜きそのまま口をつけた。

 海岸は家族連れなどが遊び、戦争の喧騒を忘れさせた。


「おじさん、貝焼きたべる?銅貨30枚だよ」

 近くに海の家でもあるのか小学生くらいの魔族の子供が売りに来た。

「冷えたビールもあればほかのものと見繕って持ってきてくれ」

 銀貨を二枚渡した。しばらくするとトレイにいっぱいの海の幸を盛り合わせて運んできた。

「こんなにあるのか、まあいいタマモたちが食べるだろう」

 銅貨を三枚チップに渡すと

「いいよ、お釣りからもらったから」

 チップを返した来た。

「いいぞ坊主とっておけ、あそこのお姉ちゃんたちが帰ってきたらまた頼むから」

 銅貨を握らせて言った。

「坊主じゃないよ。ツキノワってんだ」

「ツキノワか小さいのにえらいな、お(うち)の手伝いかい」

 ハルトもこのくらいの歳には家の旅館の手伝いをしていたことを重ね合わせて思い出した。

「父ちゃんが戦争で死んで母ちゃんがここの旅館に預けたんだ。疎開(そかい)ってやつ、別にお金儲けでしてるんじゃないよ。旅館のおじさんやおばさんの手伝いがしたいだけなんだ」

 なかなか芯のしっかりした子供だ。父親がしっかりと育てたのだろう。見習わないと

「早く戦争が終わって母さんと暮らせるといいな」

「あっ、ハルトだけずるい、私もビール」

「ほらさっそく仕事だ。ビールを三つ頼んだぞツキノワ」

 かけていくツキノワ。

「父親が戦争で死んで一人ここに疎開してきたらしい。しっかりしたいい子だろ」

「そうなの可哀そうな子ね。でも瞳がきれいでいい子に育ってるわ」

 タマモがそんなことを言うなんて子供のことをよく見ていてビックリした。

「この戦争があんな境遇の子ども作っているのね。ご主人様、早く終わらせたいですね」 イソルダも俺と同じ考えだ。

 しばらくビーチで飲み食いをしてここで泊まろうということになった。

「ツキノワ君、お姉さんたちが泊まれる部屋あるかな」

「もちろん大歓迎だよ」

 ツキノワに連れられ質素な旅館に案内された。

「いい感じね、隠れ家って感じ」

 タマモが気に入ったがなかなかの宿であった。

「シーモフサルトからのお客様ですか。こんな田舎にようこそ」

 老夫婦二人で経営しているようだった。

 そして風呂に入ったが日焼けした肌が痛い。日焼け止めが必要だったかな。のんびりと浸かり夕ご飯は海で取れたての刺身や焼き魚にに舌鼓を打った。

 そこに誰かまた客が来たようであった。老夫婦と戸口で会話をしている。聞くとはなしに耳に入る会話に愕然とした。


「これはこれはエキドナ様、こんなにお金をいただいてツキノワを呼んできますからお待ちください」

 ドアを少し開けて見ると、確かにヘイ・オン・ワンが盗み撮りした人間態ではあったがエキドナにまちがいない。

 なんてこった、こんなところで、ハルトは動揺してしまった。

 俺にエキドナを討つことができるのかツキノワの母親を・・・葛藤していた。

 ツキノワが母親に抱き着き喜んでいる情景を見てさらに悩んでしまった。

 見なかったことにしよう。食卓に戻ったが、箸が進まない。

「ハルトどうしたの黙り込んで」

 タマモが心配そうにのぞき込む。

「いや、何でもない。ちょっと浜辺を散歩してくるので先に休んでおいてくれ」

 といい、外に出って夜の浜辺をぶらぶらと彷徨う。星を見上げて自分が戦争をしていることに嫌気がさしてきた。


「お前、ユートガルトの兵士だな」

 突然エキドナが後ろから声をかけてきた。

「めっそうもない、ただのシーモフサルトの商売人です」

 とっさに否定をしたが

「そんなオーラを持つ民間人がいるか!それに手配書の男に似ている。きさまユートガルトの王だな!」

 エキドナは変化(へんげ)した。下半身は大蛇である。三又の槍を構えハルトに襲い掛かった。

 瞬時に飛び退き剣を召還した。

「頼む、闘いたくないんだ」

「怖気ずいたか、覚悟しろ!」

 激しい突きでハルトを攻撃する。防戦一方のハルトであった。

「ツチグマの仇だ!死ね!」

 呪文を唱えたエキドナ、天上から槍が降り注いでくる。

土壁(パレーテ)

 槍から逃れたハルトは

「ツチグマを知っているのか」

「ツキノワの父だ」

「待てツチグマはテンコの策略でやつに見殺しにされたんだ。信じてくれ!」

 エキドナの動きが止まる。

「そんなことは知っている。おまえを倒して夫の汚名を挽回するだけのこと」

 エキドナがハルトに掴みかかり肩に噛みついた。

「私の毒は強いよ、これでお前も終わりだ。残りの女たちを始末させてもらうよ」

 ふりむき宿へ向かおうとした。一閃、エキドナを真っ二つに切り裂いた。

「ごめんなエキドナ、俺に毒は効かない。三人は俺の宝だ」


 空を向き涙を流すハルト、流れ星が一つ落ちた。

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