●聖なるもの
「敵襲か」
カルヤシャが叫んだ。
「あわてることはない。下には大勢の兵士が控えている」
要塞に魔族兵が数多く控えており、一個中隊の攻撃にも耐えれる。
ハルトは空間収納から剣と陰陽の面、アオナの弓を取り出していた。面をかぶると牢屋の鉄格子をいとも簡単に切り裂き牢屋を出る。
「お前たちはここにいたほうがいいだろう。むやみに出歩けば敵兵にやられるぞ」
密告者に釘を差しておき、アオナと階上へとかけていった。
「カルヤシャは俺がやる。ガスタを頼んだぞ」
ガスタの部屋のドアを蹴破り中に飛び込むと
「きさまはユートガルトの・・」
いう間も与ええず。
あまとぶや
かりのゆくさきしめしけれ
かのちめざしてとぶらう
転送
二人を拉致して仲間たちが控える河原へと飛んだ。
「われら二人に勝てると思うのかこの雑魚どもめが」
カルヤシャは鎌を構えた。飛び込んだハルトの剣が構えた腕を切り落とした。
「タマモの親の仇、ここで成敗してやる」
カルヤシャの切り落とされた腕から流れる血だまりから、ヘルハウンドが数頭あらわれハルトに襲い掛かる。
あまびこの
おとをまゐらすわりなしの
さがなしものにさながらうす
雷撃
雷がすべてのヘルハウンドを黒焦げにする。苦々しい顔でそれを見やるカルヤシャ、切れた腕に血液の糸がのび再び腕を取り戻す。ハルトとの戦いが不利と見ると背中の翼で逃げるように飛び立った。
「逃がしてたまるか」
ちはやぶるかみのちぎりしほむろあれ
おほけなしものをしたたむれ
火柱
業火がまっすぐにカルヤシャに伸びる。瞬時にカルヤシャが身をよじるが翼に命中して墜落していく下には川が流れていた。雨で水かさが増えていた激流に消えていった。
「とどめを刺しそこなったか」
ハルトは舌打ちをした。
アオナは高速で移動しながら弓を討ちまくる。ガスタは口から毒霧を吹き始めた。
「口臭予防しないとだめね」
アオナは詠唱を始めた。
「清らかなる願いを込めて聖霧」
水の精霊魔法で毒霧を相殺した。
「そろそろとどめね」
天に向かい大きく弓を引いた。
「邪悪なるもの洗い流したまえ聖矢」
ガスタに光の矢が降り注ぐ。ガスタは沈黙した。
アオナが死体に近ずく
「アオナ!離れろ!」
ハルトが叫ぶが遅かった。ガスタの死体からカルヤシャのヘルハウンドが飛び出しアオノの喉笛を食いちぎった。
ヘルハウンドを切り払い倒れたアオナの元へ、即死だった。
カルヤシャもテンコに負けず仲間を仲間とも思っていない。あらかじめ仕込まれていたようだ。
「アーカムスだけでなくアオナまで、畜生!」
アオナを抱き上げハルトは慟哭した。
二人に雨が降り注ぎ始めた。




