●コイントス
「シレノス、首尾はどうじゃった」
「テンコ様、申し訳ありません。途中で逃げてきてしまいました」
杖で殴られるシレノス、まいどのことであるがもう少し考えてしゃべればいいのだが根が真面目直であろう。
「しょうがない奴め、まあ良いレジスタンスにはある程度ダメージは与えられたであろう。しかし昨日あのアーカムスを見つけたときはうれしかったぞ」
馬車に乗りテンコとシレノスはシーモフサルト城を出てワガシ区のバルログの元へ向かう途中であった。
テンコが何気なく眺めていた窓の外に見た顔を見つけた。
「あれを見ろシレノス」
「何でございましょう」
シレノスも外を見る。
「あ、あれはユートガルトの中隊長です」
「やはり、そうか。シレノス、後つけてお前の力でとらえてこい」
「わかりました」
また無茶なことをといった顔で車を降りてアーカムスの後を人間の姿に変えてつけだした。アーカムスはつけられたことにすぐに気が付きこのまま撒くか、捕らえて情報を聞き出すかを考え後者を選んだ。
道の角を素早く曲がった。あわてたシレノスが走ってまがるとアーカムスが立ちすくんでいた。
「おい、お前、なぜ俺をつける」
首根っこをつかみにらんだ。
「なっなんでもございません。このコインを落とされたと思い追いかけただけです」
「嘘をつくな。こんなものは知らんぞ」
「仕方ありません。このコインで勝負いたしませんか」
「なぜ勝負しないといけないのだ。とっとと本当のことを言え」
「あなたが勝てばこのコインと素直にすべてお話ししましょう。あなたが負ければあなたのコインを私がいただいて知ってることをしゃべりましょう」
「よくわからんが勝っても負けてもたいしたことないな。勝負してやろう」
にやりとシレノスが笑った。アーカムスは違和感を感じた。シレノスの能力が発動したのだ。アーカムスは抵抗する力を失っていたのであった。ここまでくればシレノスのものである。
「こちらの顔が描かれた方が表、裏は何も描いてございません。私が放り投げて手の甲で受けますので表、裏を言ってください」
と言い、高々と放り投げ受け止める。
「どちらですかな」
アーカムスの動体視力でとらえたコインは表だった。
「表だ。間違いない」
シレノスが手をどけると何も描かれていない面であった。
「いかさま・・・」
アーカムスは一枚のコインとなり地面に転がった。シレノスは自分の作ったコインなら自在に表裏を入れ替えることができたのであった。
「ひっひっ、馬鹿な奴め」
アーカムスの顔が描かれたコインを拾いテンコの元へと戻った。
「テンコ様、捕らえてまいりました」
殴られずに済むうれしさで上機嫌にコインを差し出した。
「よくやった。たまには仕事をするようじゃな。準備をするから元の姿に戻せ」
テンコは杖を構え呪文を唱えだした。
「いまじゃ」
シレノスはアーカムスを戻した。それと同時に幻惑の魔法をテンコは放った。
「お前の名は」
テンコの問いにアーカムスが答え始めた。
「アーカムス」
「アーカムス、お前がレジスタンスを率いているのか」
少し抵抗したようだが
「はい」
「何をしようとしていたのじゃ」
「バルログの襲撃の準備・・を」
「何、いつじゃその襲撃は」
「明日の巡回・・・・・・」
苦しそうにしている意識下で抵抗しているようだ。その意識は次第に強くなってきたようだ。
「精神力が強い男じゃ。これ以上は無理か。シレノスある限りの狂戦士の首輪を持て」
シレノスは急いで十数個の首輪を袋に詰めて持ってきた。
「お前はこの首輪を仲間に付けさせて、わしと話したことは忘れるのじゃ」
虚ろな目のアーカムスは袋を受け取り要塞から出ていった。
「シレノス、明日が楽しみじゃなふっふっ」
「さすがテンコ様」
もみ手でテンコを称えた。