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〇泣いた赤鬼

 朝からタウロが厨房で忙しそうにしているが、朝ごはんはいつもの白粥にお漬物であった。そうそうご馳走ばかりとはいかないようだ。


「いってきまーす」

 清盛さんも家来が心配で同行することになった。短甲に刀を帯びている。大江山へ五人は出発した。タウロは車を轢かずに帯同している。荷物持ちはいつもの(あおい)であった。

「清盛さんかっこいいですね。鎧姿、まさしくお武家さんって感じ」

「わしもオオガミ殿から剣術の指南を受けておるぞ。免許皆伝とまではいかぬがそこそこ使えるぞ。いわばハルアキ殿の兄弟子じゃ」

 心強いことを言ってくれる。それにしてもタウロの元気がない。どうしたんだろう。


 今の園部のあたりにたどり着いた。小高い丘、梅の木の下でお昼の休憩だ。葵はリュックから御座(ござ)と五段の重箱を取り出し並べた。このリュックからは大きさ以上のものがどんどんと出てくるがドーマの術がかかっているのだろう。そうかタウロが朝忙しそうにしていたのは、お弁当を作っていたのか。やっぱりやるときゃやるねタウロさん。

 一段の目の重は色とりどりのおかず、卵焼き、筑前煮は牛蒡(ごぼう)蒟蒻(こんにゃく)、鴨の肉、豆の煮もの、二の重は、揚げ物天国、鶏に肉団子にタラの芽などの山菜の天ぷら、三の重はびっしりと稲荷ずし、四の重は色彩豊かな太巻きずしがびっしりと、最後の重はいつものおにぎりと海苔をまいたおにぎりの二色だ。梅の花の木の下でさしずめお花見だ。清盛さんは酒を欲しそうにしている。


 (あかね)が「三年前かこのあたりだったな、タウロと出会ったのは」タウロは無言だ。自分で作ったお重には一口も手をつけず、うつ向いて沈んでいる。

 お腹いっぱいでさらに探索を続けるがごとく進んでいくと清盛が

「さっき畑仕事をする農夫に聞いたことだが、これから先の瑠璃(るり)村と連絡がとれていないそうだ。立ち寄って情報を仕入れるか」

 清盛さんは竹筒の水を飲み干し歩みを進めた。どんどんタウロの元気がなくなる。そして集落が見えてきたとたん

「わしはここで待っているので先に行ってください」

「どうしたんだよタウロ、理由(わけ)を話してよ」

 それでも首を振りかたくなに口を閉ざしている。こちらに小屋があるのでそこにいると、どんどん歩いて行ってしまった。

「まあ良いではないか何か深いわけがあるのだろう。それより村人に話を聞こう」

 村に入ると誰一人いない。家の戸を叩いても誰も出てこない。大声で呼びかけても梨のつぶてだ。


シュウッ!!


 突如竹やりが飛んできた。蜘蛛切丸で()ぎ払た。

「誰だ出てこい」

 (くわ)や竹やりを構えた人達が建物の影から現れた。

「おっお前ら()()に渡すものはもうねえ!とっととでていけ」と息巻いた。

 清盛は「この姿が山賊に見えるのか!無礼なことを言うな」

 村人も改めて一行を見て、あわてて土下座をしている。

「お武家様申し訳ありません」

 村長と思しき人物が近寄ってきた。

「うむわけを聞こう」

 数週間前よりこの瑠璃村の北の山に山賊が(とりで)を築いて、道行くものやこの村の食べ物を強奪しているそうだ。盗賊の人数は10数名らしいが鬼のような形相をして簡単に刃向かえるものではなかった。この村にはミーノという赤鬼が住んでおったそうな。いよいよと決心して村人にかわり山賊を討伐に山に向かったが昨夜から帰ってこない。

「もしや我が家来を襲ったのもやつらか。赤鬼も山賊の一味ではないのか」

「いえいえミーノは三年前にも村で暴れた青鬼を追い払ってくれた村の恩人です」

 話が読めてきた。

「その青鬼は牛見たいな顏だったんじゃない」

「そうですだ、ミーノも牛のようなお顔で一見怖そうですが気のいいお優しいお人です。村に住んでいろいろとお手伝いをしてくれておるのです」


 あの童話の話まんまじゃないか、タウロはわざと嫌われ役を買って出てミーノさんを助けたんだ。それでこの村には顔をさらせなかったんだ。馬鹿だな正直に言ってくれれば相談に乗れたのに、葵に耳打ちして

「タウロを呼んでくるから、待ってて」

 タウロの言っていた小屋に走った。タウロがうなだれて小屋の隅にいた。

「事情は分かったよタウロ、でも大変なんだよ。ミーノが山賊を倒しに行ったまま帰ってこないんだよ」

「おぼちゃま本当だすか!!」

 タウロが立ち上がった。

「村に戻るよ」

 またもじもじしている。

「わかったよ」

 ハンニャを検索して人化の秘術を見つけ、一枚の呪符を書いてタウロの胸に張り付けた。タウロは人の姿へと変化した。

「ぷっ」

 思わず吹き出してしまった。角刈りにマッチョな大男、板場のゲンさんそっくりだ。僕のイメージなのか本質的にそんな姿になったのか成功だが変な気分だ。

「これでいいだろ、行くよ」

 緊迫した状況だがにやけてしまう。タウロは顔を触ったり手足を見つめている。


 村に戻って詳しい話を聞いていた清盛さんと山賊の砦に向かった。

 小一時間で山のふもとの砦の前に着いた。

「探ってくるよ」

 茜が素早く砦の中に侵入しすぐに戻ってきた。賊は12人、酒を飲んで酔っ払って寝ている。清盛さんの家来の四人とミーノが縛られ一室の閉じ込められていると調べ上げてきた。

「ミーノは生きているんですね」

 タウロが涙ぐんだ。

「おそらく人質として生かされているのだろう」

 清盛さんも家臣の無事を確認できてほっとしているようだ。

「よし、作戦はこうだ。正面突破して茜とタウロ殿は人質を確保する。残り三人で賊に当たる。酔っぱらっているということなら三対一も造作ないだろう。ハルアキ殿のよいか」

「わかりました」

 清盛さんに手のひらをかざしバフをかける。

「何やら力がみなぎる、かたじけないでござるハルアキ殿」


 茜はあらかじめ門のかんぬきは外して戻ったようだ。

 清盛さんが先陣を切って中に入り、賊の眠る部屋の戸を静かに開ける。明らかに人間ではないオーガのようだ。敵のステータスを確認する。オーガ憑依体?ハンニャが答える。

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「除霊とかできないの?」


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 心が痛むが村のため清盛さんのためにもやるしかない。

 敵の親玉が目を覚ます。ひときわ大きなオーガだ。

「てってめえら何者だ!おい野郎ども起きやがれ!」

「平家の武人、清盛だ!成敗する」

 刀を抜き立ち上がる賊たちを切り払う。葵ちゃんは氷槍で敵の目を射抜いて、そこを清盛が切り捨てる。見事な連係プレイだ。僕は加速(アクセル)で蜘蛛切丸を一閃貫く、二体同時に倒した。

酒呑(しゅてん)の親方たっ助けてくだせい」

 一体の突きが甘かったようでシュテンと呼ばれた親分にしがみつくが、酒呑に切り払われてしまう。


「やい、てめえら覚悟しやがれ」

 山賊刀をこちらに向ける。

 加速(アクセル)!胸板目掛け蜘蛛切丸を突き刺すが、硬くてはじかれる。刀が床に突き刺さる。

 すぐさまウィンドウを開き、酒呑に掴みかかり

電撃(フリーネ)!」

 ありったけの衝撃波を叩き込んだ。酒呑は焦げた匂いと煙を出して、そのままあおむけに倒れた。やった、振り返ると清盛さんと葵も残りの山賊たちを倒していた。人化したままのタウロが傷だらけのミーノさんに肩を貸し、茜と人質を連れ戻ってきた。

「清盛さま、助けに来ていただけたのですね。ありがとうございます」

 家来たちは疲労はしているようだが清盛さんに頭を垂れている。

「あなた様たちがおらを助けてくれたんだな。ありがとうござえます」

 ミーノはタウロや清盛たちを見まわす。と突然


「あぶねぇ!」

 残り少ない力で、起き上がった酒呑に突っ込んだ。酒呑はミーノを戸板が破れるほど突き飛ばした。

「ああ!いい電気あんま(マッサージ)で酔いも醒めたぜ。皆殺しにしてやる」

 (よだれ)をたらし怒りでさらに大きくなっているようだ。


「ミーノ!」

 タウロが人化の呪符をはがし元の牛男へと変化する。

「きさま!!ミーノをよくも!!」

 すごい勢いで突進し角を腹目掛け突き立てた。

「ぐっふっ」

 腹が裂け上体のみが後ろに倒れていく。驚異の一撃だった。タウロは肩で息をしながらミーノのほうへ駆け寄った。

「おっおめえはタウロ」

 ミーノの目に涙が湧きおこる。タウロも同じく泣いて抱き合っている。

「本当にタウロだな」

 懐から手紙を取り出しタウロに押し当てた。

「こんなもん残して姿を消すなんて水臭いじゃないか」

 手紙を投げ捨てた。

 清盛が拾い上げ読み始めた。

「ミーノへ、おらがいたら芝居だとばれてしまうだ。仲良くしたかった村の人たちと幸せに暮らせよ。おらは旅に出る。二度と会うことはないだろう。元気でな」

「タウロ殿よ。友を思う気持ちに誤まりはないが、友の気持ちも考えてやるんだぞ。そしてミーノ殿、少しの勇気でこんなことにならなかったのではないか」

 タウロたちは、おいおいと泣き続けているばかりである。

 山賊たちの遺体を集め茜が焼き払った。宝石とレアアイテムの大きな指輪が二つ落ちていた。僕は指輪を鑑定して、タウロさんとミーノさんに渡した。

「二人の友情のあかしにこれを受け取って」

 タウロとミーノは受け取り指にはめた。大きさはこしらえたようにぴったりだ。二人はこぶしを合わせ指輪を合わせた。


カーン!いい音が響く。


「あっそれとその指輪にぐっと念をかけてみて」

 二人の手に金棒が現れた。

「マジックアイテムみたいなんだ。二人なら存分に力を発揮できる金棒になるよ」

「おぼっちゃま!ありがとうごせえます。これを見ればミーノのことも思い出せますだ」

「さあ無事を知らせに村に帰ろう」


 タウロは酒の残った酒だるや盗まれ食料と足腰もろくにおぼつかぬ家来たちを荷車で引き、村に着いた。

 村人はミーノさんの無事を喜んだ。

 タウロはまた人化の呪符を張っている。

 ミーノはその呪符を突然引きはがした。青いその元の姿を見た村人がおびえへたり込む。


「村のみんな、今まで黙っていたが、こいつは俺の親友でタウロと言うだ。おらがみんなと仲良くなりたいという願いのため、タウロが一芝居打ってみんなをだましただ」


「すまねぇ、俺はここにはもういれないだ。騙していてごめんよ」

 頭を下げ立ち去ろうとした。

「まちなされ」

 村長が呼び止める。

「そんなことで村のみんながミーノさんを嫌ったり疑ったりはしねえだ。この三年間のあんたのおかげでどれだけこの村が助かったか。このたびも真っ先に山賊退治をしようとしれくれたあんたを見捨てるわけはないだ」

「タウロさんと申したか、あんたも気にする必要はないだで、気軽にこの村に遊びに来てミーノと会っておくれ」

 去ろうとしていたミーノは膝から崩れ落ち泣き始めた。タウロもそれを抱きすくめるように泣いた。


「村の皆さんミーノによくしてくれてありがとだ。これからもよろしくおねげえしますだ」


 そして二人は指輪を打ち鳴らした。


カーン!

 いつまでも響き、二人の友情をたたえた。

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