▽宴その一前菜
天鼓はこれまで対立していた晴人たちを前に臆することなく挨拶を始めた。幼い頃の姿を知るタマモは王として魔族を率いる貫禄も持ち合わせた態度に驚いていた。
「今は黄泉津との戦いで一時的に同盟を組んでいるがこれから先はわからない。だが一つだけ確かなことがある。晴明、君はいつまでも親友だ」
グラスを掲げると晴明は
「わかっているさ、信頼しているよ。君と僕の宴に乾杯!」
グラスを天鼓の持つ器に合わせた。
「うーんよくわからないけど、みんな!食べようぜ!アオイ!教えてよきょうの料理を」
喜多屋は天鼓と晴明、二人の関係が今ひとつ理解できないでいたが手際良く配膳するアオイを呼んで手をつけようとする料理の解説を頼んだ。
「もうヤジロウさんたら、急に困りますわ。このお皿は口水鶏、よだれどりとも言われてラー油をベースにした真っ赤なタレをかけた四川料理です。アカネの作った特製タレでどうそ」
タマモが真っ先に一口食べるとビールを飲み
「ぷっはー!!!味付けバッチリ!アカネのタレ最高!程よい辛さでビールが進むわよ」
「奥様の好みだとわしも思っただ。アカネは炒め物や焼き物のひかげんだけじゃなく味付けの勘がええだすな。その人の好みをよく覚えているだ。それも料理人として重要なことだで」
タマモの賛辞に我が娘を褒められたようでタウロは涙目で答えていた。アオイはさらに
「こちらのお皿は同じく鶏料理で茹でたムネ肉の上に先ほどの辛味のあるラー油ベースに怪味ソースを合わせた棒棒鶏です。本来は焼いた鶏肉を棒で叩いて柔らかくしたことから棒棒って言いますがこれは茹でて手で割いています。それとゴマだれ風味を町中華風にアレンジしてす。味付けわ私が担当しました」
「やっぱりアオイの味付けだね。僕もそう思ったんだ」
「嬉しいですわ、ヤジロウ様に褒められて。こちらは涼拌海蜇、クラゲの和え物と涼拌三絲、春雨サラダですわ」
「この紹興酒にぴったりのつまみだぜ」
槌熊が甕から酒を注いで前菜を肴に晴人と呑み出していた。晴人は
「晴明、収納に皮蛋は持ってないのか」
「親父よく気がついたな。忘れていたよタウロ、頼むよ」
空間収納から取り出すとタウロに投げて渡した。
「皆さん次はメインのディッシュをご歓談してお待ちください」
アオイとアカネはタウロとまた厨房へ戻って行った。




