●レジスタンス・ピンク
ハルトは変装をしてシーモフサルトのブヤシ区にいた。眼鏡をかけているだけだがご存じのアメコミヒーロー同様それでたいていの人はごまかせるらしい。
中隊長レンジャーがシーモフサルトに潜入工作して半年がたっていた。
「ミス・ペティ、ちょっと聞いてもいいか。あの格好は何なんだ流行っているのか?」
街行く人たちがケモ耳をつけて顔にロックグループのようなペイントをしていた。
「あの、その、見ていただければわかります」
説明しづらそうにしている。
ハルトはモモとタマモが活動する場所に案内してもらっているところだ。やがて、ライブホールに着いた。
「ここで、モモとタマモは働いているのか」
「ええ、そうですが・・・」
ちょうどコンサートが始まったところだ。すごい声援が聞きもれてくる。ハルトは看板を見てあきれ顔になった。
「モモタマ・フェス?もしかしてこのポスターのミュージシャンはモモとタマモなのか」
ホールに入ると大音響で歌声が聞こえてきた。ジーン・シモンズばりにメイクしたタマモがギターを弾いているのが目に飛び込んだ。ベースを弾くモモと踊りまくって歌っていた。キーボードとドラムもよく見ればモモ隊の女隊員たちガールズバンドだ。
「ペティ、説明してれ、目立たぬように潜入しろと言ったはずだが」
大音量に負けず大声で聞いた。
「えっ、なんですか?」
聞こえないようなので外に出た。楽屋まで戻ると
「目立たぬようにと指令を出したはずだが」
「あのー最初は地下アイドルとしてアコースティックを弾いて、地道に勧誘活動をしていたのですがキグナスさまがやってきて、僕がプロデュースするとおっしゃりこのようになってしまいました」
「キグナスか・・まったく」
「タマモちゃんたちを叱らないでくださいね。効果はほか中隊長たちよりすごいんですから」
ミス・ペティの説明を聞くと妖狐の二人には人を操る妖術が使えるそうで歌声に乗せてレジスタンスのメッセージを織り込んでいるとのことだ。ファンの中には敵兵の魔族までいるそうだ。
「やれやれ、こんな派手にしてばれないのか」
「大胆こそがタマモちゃんの作戦でしょ。敵もまさかこの子たちがユートガルトの兵士とは思わないでしょう」
確かに馬鹿げている。
しばらくするとコンサートが終わったがアンコールに数度答えて楽屋に戻ってきた。
「ハルト!久しぶりどうだった私の歌」
汗びっしょりで抱き着いて来た。
「暑いな離れろ」タマモを振りほどき顔を見つめた。
「元気そうで安心したぞ。歌も驚いたいい声だ」
頭をなでると満面の笑顔で
「うれしい、ハルトに聞いてもらいたかったの」
「びっくりしたよギターを覚えるのも早くて歌は完璧、最後の曲はこの子の作詞作曲よ」
モモがタマモをほめてくれた。少しうれしくなった。子供の発表会を見ている気分だ。最後の歌はお父さんとご飯を食べる歌だった。結局、食い気かよ笑ってしまった。
「ロビーで待ってるよ。着替えて飯でも食いに行こう」
「はーい」
陽子もカラオケが大好きだったな。こんなに音楽好きならタマモにはもっと前から楽器でも習い事させればよかったかな。
ロビーにはモモタマグッズが売られていた。フィギュアまであるじゃないか。よくできているが誰が作っているんだ?
「ハルト、お待たせ」
メイクを落としてサングラスにケモ耳隠しに帽子をかぶっていた。
「すっかり芸能人気取りだな」
頭をポンポンとたたく。
「美味しいピザ屋さんがあるんだよ。食べ放題だよ」
モモたちが住んでいる近くにその店はあった。常連さんのようだ。ピザは前払いで飲み物はキャッシュ・オン・デリバリーだ。20インチはあるでっかいピザがカウンターに何種類も切っておいてある、そこから好きなだけ自分の席に持ってくるスタイルだ。
バンドの仲間でまずはビールで乾杯だ。汗をかいたタマモがグビグビとうまそうに喉に流し込んでいる。
「プッハァー、美味ちぃ!ハルトも乾杯」
スタウトビールだ。しっかりとした苦味とすっきりとした後味ピザにも良く合う。
「レジスタンス活動はどうなんだモモ」
「コンサートの売り上げで炊き出しをして、ファンクラブの人たちが困っている人たちに配る活動で支持が上がってきているよ」
「そうか、よくやった。まさかこんなことで俺の命令を実行するとは恐れ入ったよ」
思ったよりも速いペースで作戦は着々と進行していた。
次の段階へと進むため俺もシーモフサルトに潜入することにした。
季節は花咲く春となっていた。