▽最期の悪あがき
「やばいぞ!晴明、なんとかこの吸盤を取ってくれ」
槌熊が叫んでいる。肩に担いだ輝也をゆっくり下ろすと握りしめていた天羽々斬を掴むと
「じっと動かずにしていてくれますか」
高速で剣を振ると触手をズタズタに切り裂いた。
「見ていなかったのか黄泉津虫は逃げたぞ。俺は見ていたお前の気功波が当たる瞬間消えていたぞ」
「俺も見たぞ。早くこっちもどうにかしてくれ」
オオガミの触手も切り終えると呪文のかすかな詠唱が聞こえてきた。
ひさかたのあまにつどえしかげほしくずのとがかぎりあるみちふりそぶれ
流星
「やばいぞ!あの穴に逃げ込め」
オオガミはそう言うと気を失っている輝也を投げ入れ自らも水戒鬼のいた穴に飛び込んだ。
「槌熊さんも早く」
そう即すと
あわつゆのころもまといし
水疱
と詠唱しながら槌熊の後に飛び込んだ。
「これはいけないですね。流星ですか。また山の地形が変わりそうですね」
カミーラの操縦席から空を見ていたグリードがつぶやいてすぐさま潜水モードに切り替え船を沈めた。
いくつかの小規模な隕石群が七百三高地に降り注いだ。
晴人たちは始まりの小屋でひとときの休息を取り終えると入り口の封印のあった階段を降りて行った。
「リリ、蟻たちは置いてきて良かったのか。付近の住人に危害を加えたりしないのか」
「心配は無用よ。近くに巣を作って私が帰るまで大人しくしているはずよ」
「すっかりビーストテイマーとしての腕を上げてきたのねリリちゃんは」
幼い頃からその才能をヤーシャに見出されていたリリは戦士として天鼓に支えていたのであった。
かつては黄泉津大迷宮と呼ばれていた場所は異空間通路としてダイレクトにシーモフサルト城の地下へと続いていた。
一行が通路を通り終えるとそこは飛行船の大格納庫となっていた。
「すごい数の飛行船だな。これを使って世界に出ていると言うわけか」
「そんな悠長な移動法はとっていないわ、特別な通路と転送でことは済むから」
リリは言うと整備をしている真っ青な顔の魔人に
「天鼓様はいる?」
「研究室で予言書の解析をされています。誰も邪魔をするなとおっしゃてられゲートを内から閉じられています」
青い顔の男は答えた。
「と言うことで晴人おじさん無理みたい」
「ちょっと待てくれゲートということはこことは別の場所に研究室があるのか」
「そうだけどゲートを使わずに行くと面倒だよ」
「構わない今ならそこで会えるんだろ。遠いのか」
「このシーモフサルとにあるけど山の上だよ。それに途中に黄泉津の作った実験体がウヨウヨいるんだ」
「昔教団の施設だったところか。それなら問題ないすぐに向かうぞ。ひなた準備しろ」
「えぇ山登り・・・そこの飛行船借りればいいじゃん」
「黄泉津の実験体も退治しながら行くぞ」
「リリさんは来ないんですか」
喜多屋はリリを見ながら願うように言った。
「仕方ないわね。演奏また聞かせてくれるなら着いていってあげるわ。約束よ」
「もちろん!さあみんな行くぞ〜」
他の子供たちも手を挙げ「おう」と叫ぶが一人黙っていた。




