▽オオガミのメロディー
「天の岩戸?輝也は知っているの」
いきなり飛び出した謎の言葉に晴明は同じく古代の記憶を持つ輝也に問うた。
「黄泉の国への入り口だと聞いている」
「死者の国という解釈でいいのかな」
「いや、一概にそうは言えない別世界への道であることは確かだがどこにあるのかは私は知らない。オオガミは知っているのか」
黙って目を閉じて何かを考えているようなオオガミ、槌熊は
「とりあえず世界に散らばる鬼たちをぶっ倒してからのことだろ。後から考えりゃいいだろ。俺はオオガミについていってやるからな」
オオガミの背中をドンと叩いて笑っていた。
誰もがが黙ってしまい、雨音のみが沈黙の空間を埋めていたがゴランは立ち上がり壁に立てかけられていたナイロン弦のギターを爪弾き出した。ボソボソと歌声を乗せその場を和ませていた。
リズムを取る輝也は晴明に
「これはなんて音楽なんだ」
「ボサノバじゃないかな」
「ジョアン・ジルベルトだ」
意外なことにオオガミが答えた。
「柄に合わない粋な音楽を知っているじゃないかよ」
「戦後しばらくしてブラジルの下町で働いていた頃に聞いた。それから船で神戸にたどり着いて探偵事務所を開くことになった時によく馴染みのバーで聞いていた」
あまり自分のことを語らないオオガミにとってよほど思い出のある音楽だったのだろう。
「雨が止んだみたいだ」
晴明が言うとみんなは立ち上がり表に出た。決戦の火蓋が切って落とされたのであった。




