●レジスタンス・レッド
アーカムスがシーモフサルトのワガシ区に潜入して五ヶ月となった。昼間は隊の部下レッド・ワンと呼ばれたローガン部隊長と港の倉庫で荷捌き人として働いていた。
「ローガン、いつもの店で一杯やるか」
「そうだな。今日は荷物が多くて疲れたよ」
潜入に当たって部下たちには普通の言葉遣いを徹底していた。軍隊風の会話では怪しまれてしまう。
二人は港近くのパブへと向かった。スコッチや軽食がとれる大衆的な店で大勢の客でごった返していた。港湾の労働者たちの憩いの店のようだ。
カウンターで酒と料理を注文してグラスを持ってアーカムスがいる席に戻るローガン。
「ありがとうローガン、メリンダはまだのようだな」
メリンダはレッド・ツー部隊長の女戦士だ。同じく港湾で事務の仕事をしている。少し遅れて来た彼女は
「二人とも待たせたわね。元気そうね二人とも、ちょっと書類の処理が多くて手間取ったわ」
「メリンダ、俺たちも今来たところだ」
三人は小さな声で話始めた。
この三人が巷で噂になっている義賊とはここにいる誰もが夢にも思わないだろう。ほかの席の客同様の素振りである。
「次の狙いはどこだろうな」
アーカムスが言うとウエイターがやってきて注文の料理を置いていった。その料理の下には紙きれが置いてあった。ウエイターはQであった。
紙切れには暗号で襲撃場所と時間が書かれていた。ローガンはその紙を火球で燃やして灰皿に捨てた。
「ということだな。あと二時間ある腹ごしらえをしよう」
シーモフサルトは魔族が上級市民として君臨していた。一般の市民たちはエンドワースがユートガルトに統治され、物資の補給もままならぬ状態で物価高に苦しんでいた。アーカムスたちは魔族の屋敷を襲い金品や食料を奪う行動を週に一、二度繰り返していた。その仲間たちはシーモフサルトの一般市民たちだった。身分職業関係なしに少しずつ同志を増やしていった。その中には元軍人や、現役のシーモフサルト兵もいる。地道に人材を探り少しずつ数を増やしているが、行動のたびにこんなにというほど同志が増え続けた。
「さて、そろそろ準備をするか」
アーカムスが腰を上げて三人はパブ、ヘイ・オン・ワンを出た。
薄暗い路地の奥で着替える。黒い軍服に赤いマスクの三人が出来上がった。目的地へ駆けていく。そしてそのあとを赤いマスクの同志たちが続々集い走り出した。
町はずれの大きな屋敷の前に60名ほどが集合した。誰一人口を開かず無言のままアーカムスの指の合図に従っていく。三方に分かれレッド・ワン、レッド・ツー、アーカムスと屋敷に侵入する。
この屋敷に魔族は十数人、敵としては歯ごたえの無い連中でレッドチームの相手にもならない。どんどん倒され魔石と化していく。すべての魔族が倒された後は戦利品を運び出して終了だ。ほんの数十分の出来事であった。これでは異変に気が付き応援が来てもそこはもぬけの殻である。
荷物を運び出して同志たちが散り散りバラバラに分かれていくのを三人は見届けてアーカムスは一枚のカードを置いて屋敷を出た。
シーモフサルトの国旗は黒地に北斗七星が赤く配置したものだが、カードには真ん中に白く剣が描かれていた。レジスタンスの証だった。
やっと口を開いたアーカムス「そろそろ、三つに部隊を分けるか人数が多すぎる。レッド・スリーも呼び寄せよう」
「中隊長、私がQに繋いでおきます」ローガンが言い去っていった。そして、メリンダも帰っていった。
「さて、第二段階へ進んだほうがよさそうだな。陛下に連絡だ」
ハルトは首都ガルトの城にいた。祖父のスミエルの葬儀を終えたところであった。ミシェル・スワンの祟りであろうか、謎の疫病にかかると高熱を出してあっという間に死んでしまった。ハルトは次の宰相にミシェルの妻ハルナを選んだ。せめてものミシェルへの供養のつもりもあったがハルナは優秀な政治家だ。しばらく一緒の家に住んだこともあり人となりはよく知っている。
「ハルナ、がんばって俺がいない間も国を頼むよ」
「ハルトさん、私にできることで精いっぱい頑張ります。ミシェルの為にも」
ハルナはミシェルの死後、元気な男の子を生んだ。そしてミシェル・ジュニアと名付けたのだった。
「閣下、アーカムスからの報告が届いております」
オオガミが書簡を届けに来た。
「順調に組織作りができてきたようだ。アーカムスのチームから支援物資の要請が来た。アルジェのリュックの出番だ。イソルダと共にワガシ区へ向かうよう指示を出してくれ」
「ハルトさん、タマモちゃんは元気でいるのかしら」
タマモはモモとブヤシ区に潜入している。
「モモがいれば何とかなるだろう」
しかしこんなに長く離れ離れになったのは初めてだな。ハルトはさみしさを募っていた。しかもなんだかんだ言っても心配なのだ。ハルナからの問いに不安を感じた。
「そうだな。久しぶりに顔を見に行ってやろうかな」
「ハルトさん、顔にタマモちゃんに会いたいよって書いてありますよ、ふふふ」
ハルナもミシェルの死で相当辛いだろうが明るく振る舞っているのが痛々しい。国務で忙しくしてもらって忘れてもらいましょう。
「では国を離れてエンドワースの最前線に帰るのであとをよろしく」
「行ってらっしゃいませ。ハルト閣下」
ハルナが頭を深々と下げた。