〇鉢かづき
「それなら知っております姫様、都で起こる怪奇な事件をあっという間に解決されてしまう陰陽師でございます」
「ほうさようであるか、ところでおぬしはその陰陽師様の何じゃ」
「そこで修業しているハルアキと申します」
「そのような小さな体で何ができるというのじゃ」
「これは変な術をかけられて人形に閉じ込められているだけなんです。本当は普通の体なんです。お願いですからそこへ連れて行ってもらえませんか、えーとところでお嬢さんはどなたなんです?」
と聞かれ女官と何やらこそこそと話をする。
「このお方は藤原時信の娘様、信姫様です。頭が高いと言いたいところですが低いですね」
「まあよいおサチ、願いは聞いてやろうぞ。ただし、わらわの困りごとを解決してくれたらの」
困った提案で無ければいいとハルアキは思ったが
「お姫様いいですよこんな僕にできることなら」
「われの兄上の妻、義姉上のことじゃ、いまも伏見のお稲荷様にお願いをしてきたところであるが困ったことになっておって、えらい導魔法師様のお弟子様なら解決できるであろうか」
「そのようなことをこんな人形さんに願っても」
お姫様はしゃがんでハルアキをひょいとつかむと胸元に仕舞ってしまった。
「ついてまいれ、お稲荷様の導きやもしれぬ」
信姫は兄の家へと向かって行った。
「義姉上!おられるか」
屋敷の中に踏み入れると叫び義姉を呼んだ。
「信か、何用じゃこんな時に」
現れた姿を見てハルアキは
「鉢かづき姫!」
大きな鉢を被った女があらわれたのだ。
「何を大きい声をだれぞおるのか」
「ご覧いただいたように大きな鉢が取れなくなっておるのじゃ」
「どうしてそんなことに」
話を聞けば「ある日。兄の屋敷に鬼があらわれ自分を雇えと申して、兄が断ると突然、義姉の頭に鉢をかぶせて、取ってほしければゆうことを聞けと」
「なんてことを、それでその鬼は何処にいるんですか」
「今宵また返事を聞きにまいろうと帰って行きました」
「じゃあ今晩又来るってことですね。わかりました僕が何とかしましょう」
帰るのが遅くなりそうであったが困った人を放っておけない。しかし使える力は念動力と狐火だけである。ハルアキは鉢を調べてみた。それは晴明の使う収納魔法のようなものが掛けられていた。そのロックを解除するには術者を倒さないといけないようだった。
信姫の兄が部下を連れて戻ってきて鬼の来訪を待った。
「返事は用意できたか」
大きな鬼が玄関口に立っていた。
「そんなに人を困らせるもんじゃない。術を解いてっとっと帰らないとひどい目に合わせるぞ」
ハルアキは鬼に向かって叫んだ。鬼は何処から声がするのかわからないようだ。
「誰だ生意気な口を利くやつは早く出てこい」
「ここにいるぞ”!みーさーげてごらん♪」
吉本のギャグのようなことを言うハルアキ
「なんだ豆粒みたいなやつがでかい口をききよって、飲み込んでくれよう」
晴明をつかむと大きな口の中に放り込んでしまった。
「ああ、言わんこちゃない。姫様、あんな人形信じるなんて」
おサチは悪態をついたが、鬼は突然、腹を抱えて苦しみだしたのだ。
腹部が燃え上がりお腹にぽっかりと穴が開くとハルアキ飛び出してきた。鬼はのた打ち回りやがて死んでしまった。
「皆さん安心してください。ことは済みました。これで鉢は取れますよ」
ハルアキは呑み込まれる前に刀として畳針を持っていたのだ。そして女の頭から鉢が転げ落ちると金銀財宝が転がり出てきたのだった。
「きっとこの鬼の集めた宝ですね。どうぞ収めてください」
「いえいえとんでもないハルアキさまが退治なさったのでそれはお納めください」
信姫の兄が言った。
「いえいえ、いりませ・・あっこれはいただけますか」
財宝の中に打ち出の小づちを見つけたのだった。
「お姫様、この小づちを僕に向かって振ってくれますか。おおきくなあれ!?いや出てこいハルアキと」
信姫はいわれた通り小づちを振ると元のサイズのハルアキが飛び出してきた。そして小づちは砕け散った。
「あーれー!驚いた」
「ありがとうございます。これで導魔坊に帰れます」
鬼の死体を見ると大きなドブネズミが転がっていた。
「こんなやつがわしに雇えて行って来ておったのか、汚らわしい」
「兄じゃハルアキ殿のご師匠様の導魔法師様にもお礼に参りましょう」
「元のサイズに戻れただけで僕は十分です。お礼なんて」
固辞して急いで帰り導魔坊にたどり着くと
「どこに行ってたのハルちゃん、心配したのよ」
「どうしていたんだ晴明、無断で」
ドーマは怒り口調だ。
「こんな人形に閉じ込められていたんだ」
人形をドーマに渡した。
「うむこれはユグドラシルの木でできておるようじゃ。呪詛の道具のようだな預かって調べておこう」
タマモがしつこく聞くのでハルアキは一寸法師になったことを話してあげると
「小さいハルちゃんもかわいいかも、もう一度人形に入って見てよ」
「二度とごめんだよ。お風呂に入ってもう寝るよ」
とっとと逃げ出しその日はぐっすりと眠ってしまったとさ