△サグメ
「あのお嬢ちゃんたちは無事に家に帰れたのかな。桑原、鬼無瀬大佐に連絡してみろよ」
今川は八式特殊輸送車を操縦する桑原軍曹へ問いかけていた。少なからず鬼無瀬に気がある桑原はその名前が出ると少し照れていた。西焼津でのひなたたちの八式を新幹線軌道に設置する任務から富士駐屯所に戻ったムーンライト部隊は次なる任務のため滋賀県の瀬田を目指していた。滋賀の駐屯所の第三偵察戦闘大隊の要請であった。
「異界獣を襲っている大百足が出現したと言うことだ。我が部隊はその討伐が任務である。引き締めていくぞ」
今川隊長は瀬田川付近で待機していた隊員たちと合流すると訓示を行なっていた。七式強化装甲をオンラインすると二式強化装甲に武装した隊員たちを率いて現場へ臨場した。八式を操る桑原はそれに続いた。
「佐藤、緊張するなよ。しっかり狙いを定めて援護するんだぞ」
桑原は7.62mm機関銃を握る佐藤に言った。
「桑原軍曹、この辺りは自分の生まれ故郷であります。鰻の美味しい店がありますので任務を終えたら一杯やりたいですね」
「その調子なら大丈夫そうだな」
「昔からの言い伝えですが大百足が生贄を求めて暴れていたそうです。まさか本当にいるなんて」
昔、瀬田川にかかる唐橋付近では三上山の百足に苦しめられ、山を七巻き半する大百足を退治されたと言う伝説のことであろう。佐藤曹士は真顔でそんなことを語った。
あたりには異界獣の残骸が広がる。だが肝心の大百足の姿は見当たらない。
「同士討ち?どれも食いちぎられているな。各員、あたりを探れ」
部隊は隊列の輪を広め注意深く探索を始めた。けたゝましくホイッスルが鳴り隊員が集まる先に一人の女が木に持たれこちらを見つめていた。
この場には似つかわしくない薄着で肌を露わにした女には二本のツノが生えていた。
「この国の兵士たちか面白い姿をしているな。こんなプレゼントはどうだ」
と言うと女の背後からヘルハウンドが飛び出してきた。襲い掛かられた隊員は臆さず手に持つアーミーナイフで迎え撃った。戦闘AIが起動してヘルハウンドの側面に一太刀を入れた。飛び退くヘルハウンドは唸り声を上げその隊員を威嚇した。
「貴様!何者だ。天鼓の兵士か」
今川隊長がその間に割って入り刀を向けた。
「ほうあんたが大将さんかね。天鼓だって私はサグメ、黄泉津様の参謀さ。あんたたちは役に立ちそうだね。その体いただくよ」
と言うやいなや姿をふっと消した。行方を追いキョロキョロと辺りを見渡す隊員だが一人一人倒れていった。そんな隊員たちに目を向けずに今川は大きく深く息を吸い何もない空間に刀を振るった。
一本の腕が宙を舞う。姿を現したサグメは反対の腕でそれをキャッチした。
「いいね、いいね、あんたは」
切り取られた腕を元の位置に戻すと
「化け物め、佐藤撃て!」
インカムでの指令を受け八式から機関銃が掃射された。穴だらけになるサグメだが一滴の血も流れず元通りの姿へと戻っていった。
「はっはっはっ、楽しいね〜ご褒美に楽しく死なせてあげるよ」
手招きすると隊員たちの足元に無数の百足が出現して体によじ登った。苦しみもがき倒れていく隊員たち、そしてその死体に目掛け群がっていく黄泉津虫、そして百足たちは一箇所に集まると大百足に変化した。
「大百足ちゃん、行きなさい。武庫(六甲)へ地脈を吸ってもっと大きくなるのよ」
地面に潜る大百足、その開けた穴に鬼人兵となった今川たち部隊が続いていった。




