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〇一寸法師

「あれ、ぜんぜん体が動かないぞ」

 晴明は不思議な人形に封じこめられてしまった。これまた運の悪いことに野犬がやってきて人形を(くわ)えて走り去ってしまった。

 サテュロスは少し離れた屋根の上からそれを覗っていたのだ。

「あの小僧、ハルアキとか言うたか。人形に吸い込まれてしまいよったぞ。ははーんこれが狙いだったか」

 慌てて戻り人形を取り戻すために野犬を追った。野犬もサテュロスに気が付きさらに走り逃げたが、橋の上でそれを川に落としてしまった。

「ああっ」

 人形はアッと言う間に流されていってしまった。

「はぁ~まっ渡せと言われただけだからの」

 そのまま愛宕山へ何食わぬ顔で引き返していった。


 川の流れにまま晴明は川下にどんどん流されていった。人形になぜか吸収されたことに気が付く晴明は、体を動かそうとあがいていた。その願いがどういうわけか叶ったようで何とか四肢を動かせるようになってきたのだ。

「なんだろう困ったな。小さくなっちゃたみたいだよ。なんとかしなくっちゃ」

 そこに同じく流されてきたお椀に目が止まった。念動力を使いお椀に飛び乗るハルアキ、さらに流れてくる箸を見つけて手元に呼び寄せた。

「お椀の舟に箸の(かい)と一寸法師じゃん」

 自分に突っ込みを入れる晴明であった。

「そうだピコーナを呼んで助けてもらおう」

 心の声を届けようとしたが何かの力でロックされているようだ。ハルアキは箸の(かい)を巧みに使い河岸へと誘導した。そしてなんとか川からはあがれたものの小さな体では導魔坊へ帰ろうにもどうにもならない。仕方なく夜の明けるのを川辺の草むらで待つことにした。


「どうだサテュロス、あの人形を小僧に渡せたのか」

 ぎくりとするサテュロスだが

「ええ、もちろん、驚きましたよ奠胡(テンコ)様、晴明めを封じ込めるとは流石でございます」

「おお、あれはなユグドラシルという木でできた人形じゃ、精神を宿すことができるのじゃよ。それでその人形はどこだ」

 しどろもどろになるサテュロス

「あの渡せとおっしゃられたので・・・・人形は野良犬に持ち去られてしまいました」

「なに!持ち帰らなんだのかこの馬鹿者」

 またしても杖で殴られてしまった。

「まあよい、そこらで野垂れ死にするじゃろう。もう一つ仕事をくれてやろう。異世界へ行ってくるのじゃ」

「ええ!眠らせてくださいよ」

「うるさい、これを持ってシーモフサルト城の瓦礫から魔石を五個掘り出してくるのじゃ」

 つるはしを放り投げてきた。

「このゲートを使うがよい」

 奠胡(テンコ)が大きく杖を振ると異世界への小さなゲートが出来上がった。



 日が昇り辺りが明るくなると晴明は川を上流へと歩き始めた。

 導魔坊では大騒ぎになっていた。ドーマがハルアキとの(えにし)の糸が切れていると言ってタマモの部屋に来た。

「ハルちゃんが行方不明なのどうして」

「わからぬ昨夜突然、縁の糸が切れたのじゃ」

「ピコちゃんはわからないの」

「ピーわからないピコ」

 首を振りながら涙を流している。


「うわうわ、離してよ」

 晴明は突然何者かにつかまれてしまった。

「おサチ、早くこちらにもて参れ」

 女官はハルアキを上品そうなお嬢様のもとに持ち帰ってきた。

「かわいいのぉ動いておるぞ」

「誰、僕はオモチャじゃないよ。早くこの手を放してよ」

「しゃべっておるぞ。珍なものじゃ」

「逃げないから離してください」

 おサチと呼ばれた女官はお嬢様の顔見る。

「よいぞ放してたもれ」

 なんとか自由になったハルアキは

「どこのどなたか存じませんが僕を導魔坊まで連れて行ってください」

「ほほほっほ、何かと思えば使いごとを頼んでおるぞ。おサチ、導魔坊というもの知っておるか」

「さあ?存じておりませぬ」

「都で有名な陰陽師の導魔法師様のところですよ」

 ハルアキはすっかり忘れていたが導魔坊は自分が勝手に呼んでいることを

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