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〇平家の棟梁

 ハルアキは朝からしごかれ続け、へとへとになりながら夕方を迎えた。息も絶え絶えとなり膝から崩れ落ち額から流れ出す汗は地面に落ちるとあっという間に沁み込み消えていった。ふと気が付くと屋敷の母屋が騒がしい(あるじ)が帰ってくるのだろうか。門が開き、荷車と馬に乗った康成(やすなり)それともう一人、眼光の鋭い威風堂々(いふうどうどう)とした後ろ髪を束ねた精悍な若い男が入ってきた。屋敷の者たちは皆(こうべ)を下げ迎え入れる。


 振り返るオオガミが

「よっ!おかえりキヨモリ殿!」

 平安時代、()()()()!まさかあの。少し緊張が走る。

「やや、その少年が例の子供か、平清盛(たいらのきよもり)と申すよろしくな」

 うあ、本物だ!保元の乱が1156年だっけ、若さから見るとそれから20年ほど前の1136年くらいの時代なのか今は、思わぬところで期末テストの勉強が役に立った。年号がわかっても何の意味もないけれど。

「ハルアキと申します。平家の大将さんですよね」

「親父が大将で俺は商人(あきんど)だよ。こんな生活が一番気に入っているんだ」

 馬から降りてきて色々とお話をしてくれた。宋の国にわたりシルクロードを渡って泰西(ヨーロッパ)の国々を旅することが夢らしいけど歴史変わっちゃうじゃん。


「それはそうと康成(やすなり)を助けてくれたそうな。礼を言うぞ」

 帰りの道、さっそく元盗賊さんたちはちゃんと商売をしていたそうで、繁盛もしているとのことだった。

「あの人たち元気で頑張ってるんだ。よかった」

「ハルアキ殿は商売に明るいと見える。先見の(めい)にたけておる。どうだ、わしの家来になって泰西(たいせい)に行かぬか」

「おいおい清盛殿、ハルアキには使命があるんだよ。勝手なこと言うなよ」

「ははは、わかったわかった、夕餉はそちらに行って一緒にさせてもらっていいかな」


 今日の晩御飯は賑やかになりそうだ。


 修行の汗を流しに湯殿へ行きのんびりしていると、またも侵入者、タマモだと思い追い返そうとするが何と清盛さんだった。

「ヒノキの香りでいい湯だな。わしも風呂が好きでここの湯をいつも借りている。福原の別邸の近くにも温泉が沸いておりそれが目当てで月の半分は大輪田泊(おおわだのとまり)へ行っているがな」


導魔(どーま)法師様は不思議なお方だな。あのような陰陽師をわしは知らん、三年ほど前に都に突如現れ、不思議な術を使い様々な怪事件をあっという間に解決して注目を集め、天子様から私のところで預かるようにと(ちょく)が出されてこうしてお住みいただいておる」


 陰陽寮(おんみょうりょう)という公的な機関もあるが、いわばフリーランスの陰陽師だった。


「導魔法師様が従えておる青鬼(タウロ)の料理は絶品なものでついついこちらで夕餉もいただいておる。官僚の接待にもこちらを使わせてもらい重宝しておるのじゃ」

 タエちゃんもそうだけど、なるほど鬼は大丈夫なのか、ドーマさんも独特の容姿だし、平安の世は(あやかし)(たぐい)に寛容らしい。

 それにしてもこの離れ、いいお風呂もあるし料亭旅館見たいだ。導魔坊(どーまぼう)と勝手に呼んじゃおう。


 二人は風呂を上がり食堂へと向かった。康成(やすなり)(あかね)(あおい)もいて大賑わいだ。

「いやあハルアキ殿はお強い、まさか導魔法師様のお弟子さんとはあらためて助かりましたぞ」

 康成(やすなり)の隣にはドーマも席についている。清盛が来ているからかな。さて今日のお献立はいかに。(あかね)(あおい)が料理を運んできた。中華料理だ!清盛さんは宋の料理だと感心している。

 大皿に前菜の五種盛りが運ばれている。茜と葵が取り分け皆に配膳している。お酒の酌までしている。巫女じゃなく仲居(なかい)役を果たしている。ますます導魔坊おそるべしだ。

「ドーマさまの料理人は何でも作られるのだな。驚かされますいつもながら、ところでそのご婦人は?」

 ドーマに寄り添うタマモに気が付いた。

「タマモでーす。ドーマちゃんの妻でーす」

「おいおい妹分だろ」

 タウロに奥様と呼ばれたことがよほど気に入っている。オオガミとタマモの漫才が始まった。


 そんなことより僕は前菜に夢中だ。猪の焼き豚、山鳩の棒棒鶏(ばんばんじー)、ザーサイにキュウリとクラゲの酢の物にピータン。家族で街におりて食べたあの高級中華料理店の味にも勝る。

 続いて登場は北京ダックだ。これまた茜が切り分け、葵が薬味を配り食べ方を説明する。皮を取った残りのアヒルの身はまた厨房へと戻る。康成さんはまだ食べるところが残っているのにと、恨めしそうに見ているが、大丈夫だよ、また出てくるんだから。僕は葵の代わりにその皿を厨房に持って行った。


「ねえタウロ」

「どうしました坊ちゃま、お口にお合いになりませんか」

「いやとっても美味しいよ。でもどうしてこんな異世界の料理に詳しいの」

「ドーマさまに教えてもらったんですだ。いや直接頭に詰め込められたんですよ。お坊ちゃんが来るための準備だったそうですだ」


 ドーマさんのギフトだったのだ。僕が食い意地が張っていることを見越してタウロに料理人としての技能を叩き込んでいたのだ。話しながらタウロは料理を続ける。残った肉はナッツと根菜を合わせ甘酢あんかけが出来上がった。

「お坊ちゃんお使いして申し訳ねえだが、運んでくださるか」


「オーケイ」

 つまみ食いしながら食堂に戻った。

 お酒も入りさらににぎやかな食卓だ。

 清盛はドーマに向き合い頭を下げた。

「実は丹波へ送った家来たちの消息が分からんのじゃ。大江山付近で姿を消した。調べてはくださらんか」

 導魔の指導で伏見で作った酒を運ぶ途中だったらしい。あちこち探索したらしいが四、五日たっても全く見つからず今に至っているそうだ。

「それは災難ですな。修行中ではあるが、実戦の修業もよかろう。ハルアキ!助けてやれ」

 また無茶振りをやれやれだ。オオガミさんが付いてきてくれれば大丈夫だろう。

(あかね)(あおい)、また子守を頼むぞ。それと厨房へいってタウロを呼んで来い」


 タウロが次の料理をもって現れた。中華おこげだ。アツアツのおこげごはんの上に餡をかけた。ジュっと音を立てて湯気と香りが立ち込める。

「タウロ、お前は大江山あたりの地理に明るい、ハルアキと茜、葵と共に捜索の旅に出てくれ」

「四人だけなのオオガミさんは」

「俺がいなくても大丈夫だよ。おまえさんなら大丈夫だ」

 とたん心細くなってきた。心なしかタウロの表情も暗い。

 ゴマ団子と杏仁豆腐が出てきて今日の晩御飯が終わった。


「ごちそうさま」


「ドーマさん、美味しい料理をありがとう、すっかり胃袋掴まれたよ」

 礼を言って部屋に戻った。

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