△隻眼隻腕の男
ヘミングの屋敷に入ると客間に案内された。和風の畳敷の二十畳はある大きな部屋だが主人と比べると小さな茶室ほどの大きさに感じ取れた。侍女たちが慌ただしく食事の準備を始めた。膳に載せられた日本料理の小鉢が各自の前に配膳された。
「まあ、綺麗、旅館に来たみたいだわ」
「そうだなリサたん、こんなところでちゃんとした日本料理が食べれるとは驚いたぜ」
「団長、説明しておくがヘミングは転生した俺のじいちゃんなんだ。つまり須久那坊の先々代当主なんだよ」
「そいつは驚いたぜ。アガルタにはこっちの世界から転生した魔族がいると聞いていたが目の当たりにするとはよ」
「それでこんな素敵な料理をご用意していただけたのね。初めまして鬼無瀬リサと申します。晴人先生に陰陽道をご教授いただいております」
「名乗るのが遅れて申し訳ねえ。軽足團十郎よろしくな」
タマモは三つ指をついてお辞儀をすると
「おじいさま、初めまして晴人の女房の陽子ですがタマモと申します」
「まあまあそんなにかしこまらなくても、晴三郎、ヘミングだ。晴人と仲が良さそうで安心したぞ。タマモさんと呼べばいいのかな」
「じいちゃん昔説明しただろ、異世界へ転生した時に連れていた子供だ。まさか女房になるなて夢にも思ってなかったんだけどな」
ヘミングは侍女に声をかけると
「奴を呼んでくれないかキャラバン隊の情報を聞きたい」
「そうそうそれだよ。いったい何が起こったんだホルダミスに」
「わしもこれからそいつを聞くところだ」
襖が開くと隻眼隻腕のがっしりとしたヒト族の男が入ってきてヘミングの隣に座った。晴人はその顔に見覚えがあった。痩せてはいたが
「貴具さん!どうしてここに」
十五年前、別れたきり消息のわからなかった。警視庁公安部陰陽課の貴具侃であった。
「ほう晴人覚えていたのか」
「覚えていたってどういうことなんだ」
「昔、須久那坊の常連客じゃった貴具さんの息子のことを、ほらよく晴人も怪獣ごっこで遊んでもらってただろ」
晴人はそんなことはすっかり忘れていたが朧げな記憶の中でそんな風景を思い出していた。
「そうかそんな昔から縁があったのか忘れていたよ。でもどうしてホルダミスになんかに」
「わしがここの執行官になってしばらくして大怪我を負って死にそうになっていた彼を見つけて保護したんじゃよ。貴具さんの息子だったことがわかって驚いたよ。それでわしが転生した須久那坊の晴三郎だというと彼も驚いてこうしてわしの側近として働いてもらっていたのだが、そんな昔じゃと晴人も彼と行動していたのか」
「そうだよ。教団と共に戦った仲だ。単独で異世界に潜入していたとは無事で安心した」
「そうよ。ずっとみんな心配していたのよ」
「侃、俺も再会できて嬉しいぞ。御堂にも報告しないとな」
「皆に連絡できずにすまなかった。こんなざまだがなんとか生きている」
照れ笑いをしながらそう言ったが昔のように捻くれた表情はなかった。
「それでキャラバンはどうなっていった、生存者はいたのか」
「全滅していた。生首だけを残して」
「死体は首だけだったってことだな。体は持ち去ったと妙だな。誰がそんなことを」
「不思議なことに人数分の足跡がドラゴニアの方へ向かって歩いていったようなんだ」
「死体を操る?ネクロマンサーの仕業なのか。天鼓のような」
「導魔師匠、それならなぜ首を持ち帰らないのか謎が残ります」
「ドラゴニアですってひなたちがいるんじゃないの晴人」
「ああ気になるな・・・じいちゃん悪い食事は後回しだ俺たちはドラゴニアに向かう」
「わかった、仕方ないのぉ、折に詰めて持っていくがいい」
侍女たちに準備させ晴人の出発を見守るヘミングであった。