●誓い
エンドワースはシーモフサルトから解放された。
シーモフサルトがエンドワースを占領に要した時間を大幅に短縮した勝利である。それもこれもハルトの情報を重要視した戦い方によるものであった。誰もがハルトの常識を超える魔法の力を称えその結果エンドワースを奪還できたと思っている。
いくらハルトの魔法の力でもこれほどの功績を残すには無理がある。個の力には限界がある。それにうぬぼれ自滅していった者たちも多くいる。歴史を学ぶことがハルトの他者にはない英知であった。
元首のいないエンドワースの統治はユートガルトに任せられた。事実上の国土吸収になった。エンドワース自治区の誕生がこの戦いの成果だった。
ハルトは自治区に選挙制度を導入して民主主義国家となることを命じた。いずれ、シーモフサルトとの戦いの終わりはユートガルトでも国王の座を捨て民主主義に移行するつもりだ。貴族社会をぶっ壊すつもりでいる。
ツチグマの死後すぐにマナーコ城内の会議室にオオガミ他中隊長メンバーとともにシーモフサルト攻略の会議を開いた。
「ミス・ペティ、ここまでわかっているシーモフサルトの情報を皆に説明してくれ」
ペティはシーモフサルトの地図を開き講義を始めた。
「皆さんも知っての通り、シーモフサルトはこの大陸一の大都市です。人口は百万を超えわがユートガルトの半分の面積に人々がひしめき合っています。五つの行政区からなりそれぞれの区は魔人、魔界のもので束ねられ魔王マサカドの魔界都市といってよいでしょう。人間や獣人たちは奴隷としての労働力として支配されている現状です」
ペティからシーモフサルトの概要を説明終えると。
「ここは今までの戦いのような戦法では何ともならない。全面攻撃で戦うには消耗戦に陥り数年にも及ぶ戦争になってしまうだろう。そこで内部に潜入し内側から牙城を崩す」
「閣下、どのように内側から攻撃をするのですか」
アーカムスが疑問をぶつけてきた。
「中隊長たち君たち五チームは精鋭を選びシーモフサルトの住人となってもらいそれぞれの区の中でレジスタンスのリーダーとなりシーモフサルトの民たちを率い時を待ち蜂起してもらおうと思う。一年いや二年になるやもしれぬが潜入してもらえるか」
中隊長レンジャーたちの目が輝いた。
「喜んでこの作戦に命を懸けさせてもらいます」アーカムスほかの中隊長たちも賛同した。
「ありがとう、辛く苦しい日々を強いることになってしまうが君たちならばできると信じている。ミス・ペティ、ヘイ・オン・ワイ諜報部で潜入工作のサポートを頼むぞ」
「はい陛下、ゴラン長官に伝えます」
ユートガルトからひとつの悲しい知らせが届いた。ミシェル・スワン獄死、間に合わなかった。ハルトは手から零れ落ちた命ハルアキを思い決意を固めた。もう一人の命を救う異世界への旅を必ず成すとシーモフサルトとの戦いに勝つことを。
雪が降り始めた。冬の到来が最後の戦いを告げた。そして長いレジスタンスの戦いとおのれの運命を変えることを。