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●涙の終焉

 ミノ、ナガクとエンドワースの首都オワリを奪還後は最後のシーモフサルトへの最前線となるマナーコ水上都市を残すのみとなったのは冬前のことだった。あと一息でエンドワースはシーモフサルトの軍勢から解放される。

 しかしハルトの心はどす黒い闇が込み上げていた。諜報部のヘイ・オン・ワイからもたらされた情報のせいである。


「破竹の勢いであるなドーマハルト」

 マナーコを訪れたスミエル宰相は満面の笑みでハルトを称えた。最前線のこの地に呼び寄せたのはそんな褒めごとを言わせるためではなかった。

 スミエルは俺の母の父親、この世界での俺のじいさんに当たる。野心家で優秀な人物ではあるが政権への執着の強い人物でもあった。

「そなたの友人であったミシェル・スワンも残念なことだったな」

 ミシェルは俺の学友で大親友の人物だ。前国王の王妃とその息子たちの殺害の犯人として投獄されて妻ハルナと引き離され離れ小島の牢獄にいる。冤罪に違いない。

「この戦いが終われば、恩赦として放免できるよう取り計らってくれ。スミエル頼んだぞ」

 戦争が終われば入閣確実といわれているミシェルをどの大臣かはわからないが失脚させるため罠に落としたのに違いない。

「ほかならぬお前の友人だ善処しよう」

 スミエルはそう約束して国へ戻っていった。


 まだ心の中は一抹の不安がよぎっている。スミエルがその黒幕なのではという疑念だ。そのため呼び寄せて直接の指示を出したのである。


 マナーコは大きな人工島と小さな島々で構成された水の都である。

 攻略に当たってハルトの放った極大呪文は氷結の大地(テラジェラータ)であった。敵の船舶の動きを止め凍結対策を施した軍用トラックによる侵攻であった。冬に入る気候も味方してほぼ制圧の見込みであったが、ここマナーコにユートで戦ったツチグマがいた。ハルトの旅団もここまでの戦いで数十名が命を落としていた。これ以上はオオガミも兵たちを失いたくない思いでいっぱいである。

「閣下、ここは私がツチグマを落とします。一騎打ちに持ち込むまでほかの敵兵を頼みます」

 数十名で籠城するツチグマを降伏もしくは制圧すればこの戦いも終わりだ。

「まて、オオガミ、俺がツチグマを説得して投降を試みる。無駄な殺生は遺恨を生む」


 城の前に立ちツチグマに呼び掛けた。

「ツチグマ、無駄な抵抗はせず投降しないか。もうここまでだ」

「わかった、そなたの恩情に感謝しよう。兵の命を助けてくれ」

 城の門が開き、ツチグマを筆頭に武装を解除した兵たちがぞろぞろと出てきた。

「ふう、よかった素直に降伏してくれて、ツチグマの兵たちは妖魔や野獣がいない純粋なシーモフサルトの民たちだ。オオガミ拘束して来い」

 オオガミが近寄ろうとするとシーモフサルト兵の中からあのクズのシレノスがひょいと現れ杖を振るう。シーモフサルト兵の首輪が輝くと獣人化し狂戦士状態(バーサーカー)になりハルトの兵を見境なく攻撃を始めた。

「なにをするやめるのだ!」

 ツチグマが叫ぶ。その後ろにシレノスが近づき剣を背中に突き立てた。

「おのれ、シレノス、テンコの差し金か!」

 剣は鎧化してツチグマに装着された。呪いの装備だった。ツチグマも自我を失い見方も敵も見境なく襲い掛かった。

「ツチグマ・・・哀れな」

 オオガミは吠え獣人化してツチグマに(やいば)を振るった。ツチグマの爪による攻撃を受け傷だらけになっているが剣をたたきつける。ぐっと腰を下ろし最期の一撃を撃ち込んだ。

 ツチグマの首はポトリと落ちた。ハルトは最大級の火球(ボイデ)を胴体部分に放った。

 鎧も溶け落ちすべてを焼き尽くした。

 ツチグマの首は宙に浮きオオガミを見つめている。そして目を閉じた。

「わかったよ。俺が介錯(かいしゃく)してやる」

 オオガミは頷き斬撃で真っ二つに撃ち落とした。

「テンコは俺がやっつけて仇を討ってやるよ」

 刀を鞘に納めた。

 狂戦士化した獣人たちも旅団たちで討伐されていた。シレノスは逃げてしまっている。

「後味の悪い戦いだったなオオガミ」

 無言で背中を向けるだけのオオガミであった。


「テンコ様、お預かりしたこの杖をお返しします」

「シレノスそれでドーマハルトは倒されたのか?」

「いえ、あのそのそこまでは見ずに帰ってきました」

 テンコは返された杖でシレノスを殴りまくり

「この馬鹿め!しっかり見届けんか、この」

 さらに叩きまくっていた。

「まあ、よいわツチグマは真面目過ぎるからな。どちらか邪魔者が消えればそれでいいわい」

 笑いながら奥へと消えていった。

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