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〇丹波地鶏

「タマモ、引き返しなさいよ。何の準備もなしで無茶だよ」

 茜の説得にも耳を貸さずどんどん川をさかのぼっていくタマモであった。彼女らしいといえばそれまでだが無謀な行動である。

「大丈夫よ。あんな女なんて。いちころよ」

 どんどん進んでいくがこれといったあてがあるわけでもない、ただただ川沿いの道を北へと進む。。


 オオガミとタウロは京へ向いその歩みを速めた。オオガミの感が告げるのであろう。さらに速度を上げ三時間ほどで導魔坊へたどり着いた。

「法師様、お戻りでしたか、いつの間に抜かれたのでしょう」

「青龍のことで分かったことがあってのハルアキに転送(インヴィーア)を使わせここで調べておったのじゃ」

「それよりタマモがまた無茶をしでかして単独で迦樓夜叉(カルヤシャ)を追って武庫の川をさかのぼっていきました。茜と葵を目付け役に付けましたが」

「ええ!タマモさんそんな危ないことをまったくどうかしてるよ」

 ハルアキは心配顔でドーマに願い出た。

「僕がピコーナに乗って連れ戻してきます。いこうピコーナ」

「ピコッ」

 といって飛び出してしまった。

「タマモに感化されたか、あいつも鉄砲玉だな」

 ハルアキの行動にオオガミもあきれてしまった。

「オオガミよ詳しく話してくれ」

 武庫川にたくさんの死体が流されてきたことを話すと

「まさかまた何かの罠か、いやわれらがこの世界に戻っていることをまだ知りえていないだろう。迦樓夜叉(カルヤシャ)は快楽をただむさぼっただけで軽率な始末をしたのだろう。奴らの足取りを見つけるチャンスやもしれん。タウロ、戻ったそうそうだがわれらも行くぞ」

「へい、法師様、車を用意しますだ」

 ドーマはオオガミを伴い武庫川上流、白髪岳を目指すルートでタマモとは逆から探査を始めるつもりでいた。


「ピコーナ、さすがにタマモさんの居場所はわからないよね」

「父、さすがに難しいね。スピードあげて武庫川目指すね」

 流れる景色は新幹線並みの速度となった。武庫川上空へとたどり着いた。

「この川を上流へゆっくり飛んでね」

「ピコッ!タマモの匂いがする」

 猟犬並みの嗅覚だ。

「いそいで!」


「ねえ、茜に葵、どうやって調べればいいの?」

「だから言ったでしょノープランなんだから、帰るよ」

 茜はくるりとうしろを向くと手を振りながら、こちらに飛んでくるハルアキを見つけた。

「タマモさーん!」

 ピコーナと共に降り立つと

「ハルちゃん、よくここがわかったね」

「オオガミさんに聞いて飛んできたんだよ。危ないから早く帰ろうよ」

「だめよ、いっぱいの人が迦樓夜叉のせいで苦しんでるんだよ。早くやっつけなくちゃ」

 僕の目をじっと見ている。

「わかったよ。お手伝いします。でも二、三時間で日が暮れちゃうよ。どこかで休まないと」

 しばらく行くと廃寺があった。

「ここで泊まって明日の朝、探しに行こう。いいよねタマモさん」

「おなか減ったわね。お昼はおにぎりだけだったし」

「父、ドーマのいるとこ知りたい」

 ピコーナは僕とドーマの縁の糸を手繰れる能力がある。

「ウインドウに出して近くなの」

 ウインドマップが僕らとドーマたちの位置を示す。

「京からこの川の上流を目指して進んでるみたいだ。三時間も進めば合えるよ」

「タウちゃんがいるのよね。何か作ってもらえるから急ぎましょ」

「ピコーナ、ドーマさんのとこまで飛んで知らせてきて」

「父、了解ピコッ」

 すぐに見えなくなってしまった。


 武庫川の上流、今の宝塚の村に迦樓夜叉がいた。

「奠胡の異次元爆弾で邪魔者たちを牢獄に送れたのだなサテュロス」

 サテュロスは奠胡(テンコ)の下僕、半獣半人の化け物だ。

「この目で消え失せるところをしっかり見ましたよ。ご安心を迦樓夜叉(カルヤシャ)様」

 捨てられた寺の本堂に潜んでいた。近くには観音信仰の大きな寺がありそちらが栄え人がいなくなったのであろう。

「しかし迦樓夜叉(カルヤシャ)様、あまり人喰いますと始末に困りますのでお控えを」

 このサテュロスの不始末がドーマたちに見つかったとは気が付く様子もなく彼女らは安心していた。

「青龍をとらえることに力をかなり使ったからな。奠胡(テンコ)槌熊(ツチグマ)は京に戻ったのか」

「はい、迦樓夜叉(カルヤシャ)様のお手伝いを命じられ、先に愛宕山へとお戻りになられました」

「タマモどもがいなければあそこは便利でいい場所だからの」

 結局、三魔人は愛宕山へとアジト移していたのであった。これもドーマたちを排除できたと思っている(おごり)りであろう。

 そのすぐ近くにドーマたちが集結しているとは夢にも思っていなかった。


「なんとか合流できたようだなタマモ、無茶をするな」

 オオガミはお怒りだ。

「ふん、いいじゃない、あの女の嫌な臭いがあたりにぷんぷんしてるんだから。正解なのよ」

 頑固なタマモだった。

「それよりタウちゃん、お腹ペコペコよ」

「奥様、ちょっと待っておくれだ、茜と葵が材料探しに言っているだ」


 ピコーナの案内で無事合流できた僕たちは古墳と思しき場所で夜営することにしたのだった。タウロの牛車を利用した簡易テントが作られた。


 ジン、インが鶏とネギを持って帰ってきた。

「近くの農家で分けてもらいました。それとこのような水が湧いておりました」

 インはリュックから水瓶を出してきた。僕をちょっとコップに入れて飲んでみた。

「炭酸水だね。ちょっと冷やすよ」

 氷結(コンチュラメント)の呪文を使って冷たくした。のどごしがいい。

「あら、いいもの見つけてきたわね」と勝手に葵のリュックに手を入れて酒瓶を取り出した。

「向こう行ってた時にウイスキー買ってここに隠しておいたの」

 といって炭酸水に混ぜてハイボールを作って呑みだした。タウロは鶏を捌き串にさして焼き鳥を作っていた。

「タウちゃんいい(さかな)作ってくれてありがとう」

 タウロが焼く端から食べ続けていた。

「坊ちゃまにはこれを」

 身、ネギ間、軟骨を混ぜたコリコリのつくねに新鮮なレバーにハツ、砂肝など色んな部位をのけった焼き鳥丼を作ってくれた。タレは鰻のタレを使っている。

「美味しいよ。丹波地鶏の焼き鳥丼だね」


 すっかり夜も深まり眠りにつくことになった。明日は迦樓夜叉(カルヤシャ)探索だ。

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