△大冒険の始まり
帰還の宴席から一夜明けた須久那坊ではまたしてもひなたたち五人が集合していた。
「ヤジロウ、結局うちにまたきちゃったね。することないの」
「だって学校も行けないしすること何にもないんだもん」
「ずっとこのままここに住まれてはいかがですか。輝也様と槌熊様もいらっしゃるから」
「いい考えだね、アオイもここに住むならよろこんで」
「バカ、うちは旅館だよ。無銭宿泊はダメなんだから、輝也と槌熊は仕方ないけどヤジロウはダメ」
「ちぇケチだな。いいじゃん僕一人くらい」
「いい考えがあるよ。ヤジロウの演奏会を毎晩するとかどう」
アカネはそういうがアオイは
「ダメよヤジロウさんの演奏を安売りしないで、もっと多くの人たちに聞かせてこその音色なのよ」
アオイは怒りながらヤジロウを援護していた。
「いいじゃないかよ。ヤジロウを住まわしてやって」
振り向くと槌熊が覗いていたのだ。
「ツッチーなにそのネックレス」
「お前さんお親父からプレゼントさ。調子が良くなったぜ。それで面白い提案があるんだが乗るかお嬢ちゃんたち」
ひなたはワクワクする予感が閃いた。
「面白いことなんだね。ボクは乗るよ」
「いい返事だ。さすがタマモの娘だな。どうだ異世界大陸に遊びに行かないか」
槌熊は思いもよらないことを言い出した。
「賛成!でもどうやって行くのかな。先輩もいないし飛行船は研究所だよ」
「俺が連れて行ってやるよ。表に出な」
槌熊は子供達を連れ出し裏庭に出た。そして鼻を擦るとピュッと口笛を吹いた。ひなたたちの前に觔斗雲がやってきたのだ。
「乗ってみな」
まずはヤジロウが恐る恐る片足を乗っけ、大丈夫とわかると飛び乗ったのだ。
「乗れるよ。この雲、ほらみんなも乗ってごらんよ」
五人乗っても雲は浮かんだままであった。
「こいつで飛んでいけばいいってことさ。さっそく向かおうか」
「ちょっと待ってください。準備してきます」
喜多屋は自転車で家まで戻って行ったのだ。
「いいのかな勝手にそんなことしてもパパもママを怒るよ」
「ひなた、私たちも賛成だよ。旦那さんもきっと許してくれるよ。アカネ、私たちも用意をしよう」
「仕方ない人たちだ。でも私が彼らを守ってみせる。槌熊頼むよ。でも其のまえに置手紙だけでも認めて残しておくか」
輝也はノートの切れ端に書き留めていた。そして喜多屋が戻ってくると
「じゃみんな、出発しようぜ。槌熊お願い」
そういうと觔斗雲は空高く舞い上がって行った。