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〇慰安旅行

 隧道(ずいどう)の道はきれいに舗装され、戦後復興のシンボルとしてドーマハルト隧道と名付けられていた。

「すごいね。ドーマさんの名まえのトンネルだよ」

「これはねドーマちゃんが空間呪文で瞬きする間で開けちゃったんだよ」

 30キロもあるトンネルの半分を一瞬で作り出すなんて、なんて魔力だろう。その力を受け継いでいる僕は背筋が寒くなった。ミノとガルト間は路線バスが運行されていた。

「すごいねこんな自動車まであるなんて異世界の文明はどんな仕組みなんだろうね」

 ハルアキは感心しているが、フースーは車酔いしていた。

「魔石を使った。発動機で動いています。フースーさん、あと三十分ほどで着きますから我慢してくださいね」

 葵がフースーの背中をさすりながら答えてくれた。

 オオガミは眠ったように目をつぶって、ドーマは探査機とにらめっこして無言で調べている。タウロとピコーナは食べ物しりとりをして楽しんでいる。

 バス旅行あるあるで必ず車酔いする人がいるもんだが、導魔坊の慰安旅行気分だ。清八、喜六もいれば完ぺきだったのに、もっと楽しくなるはずだ。


 旧軍居留地に着いた。ミノ温泉へようこその看板と共に何軒か湯治宿が出来上がっていた。

「すっかり変わっちゃたね。こんな温泉町になっているのか」

 茜は感慨深く温泉街を見つめていた。


「ドーマさん、そのゲートポイントはどこにあるの」

「うむ、それが不安定なのじゃ。場所は特定できておるが、ほれそこの噴泉のように時間が来ればあらわれるようなのだ。おそらくあと六時間は消えたままのようだ」

 河原から温泉が吹き上げている。

「まだ、時間があるのね。ミノの街に出てもいい」

 タマモは行きたいところがあるようだ。

「ハルアキ、一緒に言ってやれ、われらはそこの湯治宿で待っておる」」

 お目付け役を仰せつかったが、僕も街を見てみたい。

「法師様、わしも夕食の食材を見てみたいだ。出かけてよろしいだすか」

「うむ、茜に葵、タウロに街を案内してやれ」

「はい、法師様、いってまいります」

「フ―ちゃん、一緒に行こう」

 タマモはフースーも誘い。僕はピコーナとついていった。

 タマモはこの街をよく知っているようだ。すいすいと進んでいく。

「よかったまだあったわ。フーちゃんも一杯呑んで元気出して」

 縄暖簾をくぐる。

「おじさん久しぶり!二杯頂戴!この子たちに何かあるかな」

「おっ久しぶりじゃないかい。よく忘れずに来てくれたな。かき氷はどうだい」

 いいねえ、ちょっと冷たいものが食べたかったんだ。

 タマモとフースーの前に枡が置かれる。もっきり酒が注がれた。

「フ―ちゃんこうやってまず呑むのよ」

 唇を枡の角に近づけて表面張力で膨らんだお酒をすする。フースーはぺろぺろと舌を使って舐める。

「美味しいにゃ。もうバスなんて乗った時は最悪だったけどお酒は大好きにゃ」

 どうやら大虎のようである。

 僕とピコーナはカウンターのうしろにある二人掛けの机席で座っている。

 かき氷がカウンターに置かれたので机に運ぶ。

 フルーツがこれでもかとのっけられた練乳のかき氷だった。

「ピコーナ、美味しいかい」

「父、甘くて冷たくておいしいピコ」

 カウンターの二人は一升徳利が置かれて手酌で呑み始めていた。

「二人ともあんまり呑みすぎないでね。今日帰るんだよ」

「わかったわよ、おじさんこの一升徳利丸ごと頂戴ね」

 勘定を払って街に出た。

 そこらをうろうろとするがガルトとは打って変わって和風な街並みで楽しかった。一軒の店の前でタマモが僕に言った。

「この指輪はここでハルトに買ってもらったんだ。お揃いだったけどハルトはもう持ってないだろうな」

「それなら見たことあるよ。ピコーナと一緒にドーマさんと飛んだ時、服の隙間から見えたネックレスに通してあったよ」

「あら、うれしいわ、ちゃんと持っててくれていたんだ」

 指輪にキスをしてニコニコしている。

「そろそろ戻ろう」


 湯治宿に戻るとタウロが晩御飯の準備をしていた。

「タウロ、何か美味しい食材あった」

「ぼっちゃま、牛肉がとてもええものが手に入っただ。すき焼にするだ」

 どうやら和風の素材がたくさんあったようだ。焼き豆腐にしらたき、春菊まであるじゃないか。ネギはポロネギのように太くて甘そうだ。

「私は分厚いステーキがよかったな」

 タマモがわがままを言っているが

「奥様だいじょうぶだで導魔坊に帰ったらTボーンステーキを作る用の肉も買ってあるだ」

「あら、タウちゃん、素敵」

「先に温泉に入ってくるといいだ。用意はするだで」

 外湯の温泉に行き女性陣は女湯へ入った。男湯は僕一人だ。ゆっくりと浸かり宿へと帰った。

 鍋の用意は出来上がっていた。取り皿に卵を溶き煮えるのを待った。そして、みんなで囲炉裏を囲んで少し熱いが汗をかきながらたらふくすき焼を食べた。確かにまるで神戸牛の味わいだった。

 湯治宿のほかの客もいい匂いにのぞき込んでいた。タウロは少し分けて作り方を教えていた。


 腹ごしらえも終わり、ドーマの予想した時間にゲートポイントに向かった。

「ここだハルアキ、クラウディアソードを構えなさい」

 ドーマは空間に印を結んだ。

「今度はわしが唱えよう」


あまとぶや

かりのゆくさきしめしけれ

かのちめざしてとぶらう


空間(スパッツォ)転送(インヴィーア)


 クラウディアソードを突き入れた。

 光が隙間から漏れそして大きな空間の裂け目が広がった。


「さあ、今度こそ戻るぞ」

 ドーマが飛び込み、皆はそれに続きた。



 今度こそは大丈夫かな。こちらの世界も夜だ。空を見上げるともうすぐ満月になる月が一つ輝いていた。

 ドーマが観測する。

「成功じゃ、元の時間軸に戻れた。ただしここは福原だ」


 目の前に玄武の祠があった。回り道をしたが慰安旅行と思って、新しい仲間フースーを紹介に玄武と清盛のところへ向うことにしよう。

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