△精神転移
「そうだ君たち船の中を案内してやろうか。ロストテクノロジーが詰まったすごい船なんだよ」
晴明はお昼ごはんをたらふく食べたひなたたちを散歩がてらドーマハルト号を案内することにした。自らも新し船の点検も兼ねてだ。
「とっても大きな船だろ、この客船部は全長は200メートル、70人は乗船できるようになっているだよ」
喜多屋はヒーローを見ているかのようにぴったりと晴明に寄り添っている。その間に入りアカネも必用に晴明の気を引こうとたわいない話を投げかけながら、喜多屋の邪魔をしているようだ。
「すごい、かくれんぼが楽勝でできるね。このドーマハルト号って名前はどういう意味なんですか」
喜多屋はこの船に興味を持ち色々と質問をしながらついてくる。
「人の名前だよ。異世界を統治した王様の名前さ」
「もしかして理事長さんが語った昔話の王様ですか」
「ジロー君はその話を聞いたのかひなたたちもかな」
「はい、ひなたは泣いてましたよ」
晴明は少し困った顔をしていたが
「そうか知ってしまったのか、うちの家族は変だろ」
「いいえ素晴らしい家族だと思いました」
アカネは晴明の服の裾を握ると
「僕も何か関係があればよかったのに。ヤジロウだってちょっとは晴兄と関係があるのに」
少し屈かがむとアカネの頭を撫でながら
「アカネも私たち家族と深い絆で結ばれいるんだよ。わかるだろ、本当ならこんなことに巻き込まれずにいれたらよかったのにと思っているんだ」
「僕は晴兄と一緒に入れたらそれで十分なんだ。ほんとだよ」
アカネは晴明の胸に抱き着いていた。
飛行船の最上部の日本庭園にたどり着いた。少し離れてついて来ていた鬼無瀬が口を開いて
「晴明さん、ここが茶室なんですか。お茶を点たててもよろしでしょか」
活発な今どきの女性だと思っていたら裏腹に意外に古風な趣味を持っていた。
「僕だって女将から習っているもんね。女将も一緒にお茶会しようよ」
「お点前を披露してあげるか」
「タマモ、そろそろお袋に戻ってくれないか。お茶を点てるなら」
晴明はタマモ姿に落ち着かない様子であった。タマモは仕方なくくるりとバク転すると元の陽子に戻った。
「ねえママ、ボクもそのくるりとしたらヴァルキリーになれる?尻尾欲しい」
「ママはフーから教えてもらったの結構簡単よ。また今度教えてあげる」
「ひなた、尻尾って結構邪魔だよ」
晴明はひなたに妖狐姿の不便さを解いていた。自身もその昔、八百比丘尼、葛の葉という妖狐族の瑞獣の血を受け妖狐になったことがあったのだ。
「晴兄もヴァルキリーになれるの、見せて見せて」
やれやれと言った顔で
「昔々の平安の頃の話だよ」
「お茶会と言えばお菓子が必要ね。アカネ作ろうか」
アオイはアカネとキッチンまで戻っていった。茶室に入るとベルデが座っていた。
「漏れ聞こえましたがお茶会ですか。香でもお焚たきして場を整えましょう」
ベルデは腰を上げ奥へと入ると戻り香炉を取り出し灰を引き炭団を熾おこし畳の上に置いた。
「この青磁香炉は銘を千鳥という名物で信長が家康に送ったものと伝えられています。それで特別な香木、蘭奢待を焚きましょう」
「それは正倉院に収められている宝物じゃないか、そんなものがなぜここに」
「信長が朝廷から賜わった残りじゃないですかね。断面が一致していますから」
その値段もつけれないものを惜しげもなく使ってしまう。その香りは鼻腔に何ともたとえようもない快感に似たものを与えた。
するとひなたと喜多屋が倒れ込んでしまった。
「ひなちゃんひなちゃん」
血相を変えた陽子がひなたを抱き起した。
「お袋、そのままにしておくんだ。私が見る」
晴明は倒れた二人の傍らに座ると目を閉じて手のひらをかざした。
「二人とも魂の抜け殻のようだ」
「興味深いですね。つまり幽体離脱のような状態ということでしょうか」
「近いが少し違うかな、おそらく精神転移が起こったようだ。おそらくはその香のせいかもしれない」
晴明は青磁香炉を見て言った。
「もしかしてカグヤが前のドーマハルト号の茶室で私や晴ちゃん天ちゃんを大昔に送ったみたいなことが起こったの」
陽子は輝也を見て
「カグヤ!ヒナたちを連れ戻してよ。お願い」
輝也は二人を見ながら
「僕では無理だ。彼女たちが自ら戻るすべを見つけないと」
「とりあえず医務室に二人を運びましょう。でもどんな時代に飛んだんでしょう。実に興味深い」
ベルデの指示に従い二人を船の医務室へと運びベットに寝かせたのであった。