△槌熊の行方
「カグヤ、また会えてうれしいが君が知っていることを話してくれないか。オオガミや黄泉津は今どうなっている」
晴人は一番知りたかったのはオオガミの情報だが晴明が先んじて報告をした。
「北海道で天鼓に会ったエンド・クエイクの作業中に黄泉津を倒したと言っていたが残ったやつの手下、五人の鬼を私が倒せと言い残して消えたんだ」
「オオガミのことを天鼓は知っているということだな。どうするつもりだ」
「晴人さん、槌熊は天鼓とは袂を分かったようなんです。しばらくは連絡を取り合っていたのですが行方不明になりました」
槌熊はヤーシャや天鼓たちと十五年前に失踪した仲間たちの一人だ。
「あいつらしい、昔からどこか天鼓とは距離をとっていたからな」
平安時代、晴人は奠胡として生きていた天鼓と戦っていたが槌熊は影ながら晴明を助け彼のたくらみを妨害してくれていたのだ。
「でも槌熊の行方はバスクルから託された三枚のメダルに封印されていることが喜多屋の能力で分かったんです」
「ジロー君だって?」
「彼はメダルを具現化する能力者なんです。晴海が錫杖の遊環から戦闘鬼を召還させたのと同じように修羅猿の分離体を召還させたんですよ。三枚とも召喚させればもとの修羅猿、槌熊を呼び出せると思います」
「しかし彼は今は精神転生中か、いつごろ戻りそうだ、いや戻れるのか?」
ひなたと共に医務室で眠りに就く喜多屋の帰還がより一層意味のあることとなっていた。
「医務室で続きを話そう二人の様子も確かめてみたい」
晴人は能力者として開花した喜多屋の様子が気になり始めた。
「ひなちゃんの様子はどうなの」
医務室に戻るなりひなたの髪をなでる陽子であった。
「とりあえずバイタルは安定していますが覚醒する気配は今のところありません」
「アカネとアオイは喜多屋君の能力のことを何か知っているのか」
「晴兄さん、ヤジロウさんは私とひなたが最初にドラゴノイドに襲われている時にメダルからキカザルを不動明王の真言で召還して助けてくれたんですけどマジックポイントを使い過ぎてスタンアウトとしてしまったんですけど」
「魔法力をもっと底上げしないと修行方法は少し教授したのですけど三枚のメダルの召還はまだまだ難しいと思います」
輝也はそう述べた。
「しかし喜多屋君は非常に興味深い資質をたくさん秘めていますね」
「ベルデはジロー君のことをかなり観察してきたみたいだね」
「そうです。あの水無瀬家の末裔、サテュロスの血を引く一族ですからね。ブルが観察者としていろいろと見てきていました。特筆するべきはヴァイオリンの才能ですよ。彼の管轄下の宝蔵院楽器の主催コンサートでその才能を発掘したんですよ」
「ブルというのは相模湖の研究所にいたテンミニッツだね。ヤジロウにめちゃくちゃ高価な楽器をプレゼントしてたわ、グァ・・?なんとかいうやつ」
「グァルネリウスだろアカネ、億の値打ちのある名器だよ。そんなものを驚いたね。昔彼の演奏を聞いたことがあるけど幼い時ながらすばらしかったけど、かなりの肩の入れようだな」
アオイがアイテムボックスから楽器を取り出して晴明に見せていた。
「ヤジロウさんの演奏を聞けば晴兄さんも納得するはずです」
「ひなちゃんひなちゃん」
陽子が声を上げている二人は目覚めたようだ
「よかった。戻れたんだ」
まぶたをこすりながらひなたが起き上がってきた。
「晴兄、不思議な夢を見てたんだ。夢なのかな?」
隣のヤジロウも同じく起き上がった来た。
「ひなたも二人とも同じ夢を、夢じゃない気がするんだ」
喜多屋は晴明を見て
「ひなたのお兄さん、僕たち戦国時代に行ったみたいなんだ。そこは豊臣秀吉が木下藤吉郎と呼ばれた時代だった」
「なんだって!何を言っているんだジロー」
「晴兄、伊賀の忍者オオガミさんと銀羽教と戦ったんだよ。ボクたち」
愕然とした晴明は
「その話をどこで聞いたんだ。いや、その話が本当なら兄ちゃんに教えてくれ詳しく知りたかったことなんだ」
ひなたと喜多屋は一杯の水をごくりと呑み干すとその不思議な体験を晴明たちに語り始めた。




