△母と娘と
「さあかかってきなさい異界の妖魔たち、感動の再会を邪魔するなんてタマモ様がギッタギッタにしてやるわ」
顔をパンパンと叩きスイッチをタマモは旅館の女将陽子から切り替えるとみるみる精悍な顔つきになった。美しい戦姫、娘ひなたが名付けたヴァルキリーと化した。巧みにすらりと伸びた両手を操るとサイコキネシスで駐車場の車を次々とオーガマスターやゴブリンキングに向け投げつけていくと妖魔たちを下敷きに車は爆発した。後先を考えない無茶苦茶な攻撃だがお構いなく行動を続け飛び回りヘルハウンドを掴んでは投げ掴んでは投げ敵もひるむほどの無双の女戦士の活躍に警備員たちは我を忘れ応援の声を上げていた。
この声援にテンションが上がりタマモはサービス精神むき出しに狐火を花火のように打ち上げ後続の妖魔たちを焼き尽くして残り十数体となった敵をどう始末しようかと手を止めフィニッシュを考えていたのだがタマモに向かって一人の少女が妖魔の間をすり抜け走ってきた。
一瞬はっとするが戦姫の顔に満面の笑みが浮かんだ。その少女は
「ママ~!!!」
叫びながらはちきれんばかりの笑顔で飛びついて来たが・・・タマモはサイドから飛び込んでくるオーガに気が付きその手を掴むと妖魔に少女を投げつけたのだ。
「了解!」とウインクしてオーガを蹴りあげ正拳を連打する。この母にしてこの娘だ。あっという間に魔石に戻してしまった。二人はこれほど息の合った連携はないというほど襲い掛かる妖魔たちを翻弄しうち砕いていった。
「ひなた!おかえり」
タマモは娘を抱きしめると尻尾を振りながらベロベロと嘗め回していた。
「もうママ、くすぐったいよ」
「ひなちゃん、会いたかったわよ」
思いっきり何度もキスされた。
「ママはどうしてここにいるの、それになんでヴァルキリーなの」
ひなたは母のケモ耳や尻尾を触りまくる。
「ママが怖くない」
「なに言ってんのかっこいいじゃん」
「あらそう、よかった。でもひなもカッコよかったわよ。さすがわが娘」
またまたキッスの嵐ベロベロ嘗め尽くされた。
「あの~お取込み中すみませんがあなたがひなたちゃんのお母さんですか?」
「そうだけど、あなたは」
「この子たちと旅をしている自衛隊の鬼無瀬です。初めまして異世界でのお話は聞き及んでおります。素晴らしいご活躍で尊敬しております」
鬼無瀬は英雄を見るかのようにタマモの両手をぎゅっと握って振り回していた。
アオイはタマモの獣人姿を意にも介さず当たり前のように
「でも女将さんはどうしてここにいらしたんですか」
「アオイちゃんもアカネちゃんも元気だった。それにジローちゃんもそれとあなた誰?」
「大神輝也君だよ」
「オオガミにカグヤ?なんで名前が合体しているのそれにその気配はカグヤねどうして男の子なのかな」
「復活したクローンはオリジナルにより近い形で再生されたから男の子になったんだって」
「へー確かオリジナルってオオガミだったのよね。子供の頃はこんな男前だったんだ。よくわかんないけど久しぶりね、カグヤちゃん、よかったわ会えて」
タマモの耳がピンと立つと険し顔をして
「みんな私の後ろに隠れて」
周りの気温が下がるような恐ろしいほどの妖気が辺りに立ち込めると
「タマモ、こんなところで会うなんて奇遇ね」
「ヤーシャちゃんも久しぶりね。あなたこそどうしてここに」
タマモはその妖気の源をヤーシャと呼んだ。そうかつての仲間だ。
「ここで開発されているものが天の邪魔になるのよ」
後ろから彼女の父、軽足団十郎が姿を現して彼女の前に立った。
「ヤーシャ、お前はどうしたんだ。なぜこんなことをする仲間を攻撃するなんて」
「お父さんこそ・・・今日のところは大人しく引き上げるわ。また厄介な奴が来るようだから、でも伝えておいて天のやっていることの邪魔はしないで正しいことだから」
ヤーシャは黒い霧と共に消えてしまった。
「ママ、ヤーシャさんって悪い人なの」
「わからないは今はでも何か理由があるはずよ。仲間だもん」
軽足はタマモの突然の訪問に
「ヤーシャにもそうだがタマモ、驚いたぞ。いつもながらの行動力だろうけど、晴人はどうした」
「ひなちゃんに早く逢いたくて、いてもたってもいられなくて晴人のバイクでやってきたら襲撃でしょ、とりあえず戦わないといけないかなって感じで」
「でもどうしてママをみんなタマモって呼ぶの」
「昔はタマモって呼ばれてたのよ」
「ママ、若くなったみたい。こっちのママも大好き」
タマモは今まで秘密にしていた正体をさらし娘に怖がられることも覚悟していたが娘は受け入れてくれた。
ベルデ・宝蔵院が現れ
「皆さん、中に入ってお話ししましょう」
タマモたちを研究所に引き入れたのだった。