△カグヤと晴明
「まいったな、またバイク押さないといけないなんて・・・かっこよくひなたと別れたところまではよかったんだけどな」
困り顔の晴明は北海道の最北端から帰る途中、妖魔たちに襲撃されたひなたに出逢い道を外れたドラゴノイドを撃破、ひなたたちを助け別れるとあと少しで名古屋と言ったところでエンジントラブルに見舞われていた。
「クラッチが滑っているみたいだな、今回もかなり走ってこいつにも無理をさせたからなあ。名古屋のベルデに修理を頼むか」
ベルデは宝蔵院のアバター三体のうちの一人だ。髪のメッシュを緑で染めて識別できるようにしている。そのベルデは名古屋で宝蔵院工業研究所を管轄して新しい補助ガジェットを開発していた。
トンネルでガス欠したときと同様にバイクを収納すると研究所に向け走り出した。そんな途中、空に転送魔法の発動を見た。
「いけないな、あそこは研究所の方角だ」
高速道路を飛び降り最短の直線路を選び走りを早め急いだが時すでに遅く遥か彼方の方角に煙が上がるのを見てしまった。
「無事だといいんだが」
たどり着いた晴明は研究所の車が無残に燃え破壊されている光景を見たが転がる魔石があるのみで妖魔の姿はなかった。
「防衛できたのかな?車をこんなに破壊しておいて建物は無事なんて」
不思議そうな顔で辺りを見回すと八式特殊輸送車を見つけた。
「あの輸送車、ひなたたちの乗ったものかな?まさかあの子たちが撃退したのか、それにしては派手な暴れっぷりだな」
建物に入ると慌ただしく消火器を持って外に出ようとする研究所員にIDカードを見せて尋ねた。
「ちょっと忙しいところ申し訳ないんですが所長は何処にいますか」
「八雲さんですか、なんせこの有様で混乱をきたしておりますのでこちらのモニターで確認いただけますか、すみません愛車が燃え盛っていますので失礼」
表で散らばっている車の持ち主だろう残念ながら手遅れだよ。壊した奴を恨んでいいよ。口には出さなかったが晴明は笑っていた。
ベルデを情報モニターで調べると第一会議室にいた。階段を上がり会議室をノックして入室すると
「タマモ!どうせ親父に黙ってひなたを探しに来たんだろ」
「晴ちゃん久しぶりにタマモって呼んでくれて母さんうれしい」
晴明は抱き着こうとするタマモを素早くよけていた。
「ベルデすまないがバイクの修理を頼むよ。走り過ぎたのかクラッチ板がいかれたみたいだ。3Dプリンターで簡単にできるだろ、ところで戦闘があったみたいだけど何かあったのか」
「ちょっとね。でもヤーシャが来たの」
タマモが答えた。十五年前に天鼓と共に行方不明になった女性だ。
「えっ!それで」
「すんなりと帰っちゃたけど、『天のやっていることの邪魔はしないで正しいことだから』って言って」
晴明は黙り込んでしまった。
「ねえねえ天って何」
「天鼓のことだよ。兄ちゃんの大親友だ。それよりひなたも戦ったのか」
「ママがほとんどやっつけちゃったよ。すごいんだよママ、手も触れないで自動車を妖魔にぶつけるんだよ」
「持ち主が泣いていたぞ」
「仕方ないじゃん、武器ないんだもん、それにどうせ動かないでしょ」
身もふたもない返答をしていると鬼無瀬大佐は
「ベルデ所長、どうして襲撃されたんですか。お心当たりは」
「いいだろう、鬼無瀬さん、みんなもついてきなさい」
会議室を出ると研究所の大きなドッグに案内された。
晴明はそれを見るなり
「ドーマハルト号」
とつぶやいた。ひなたはゲームで見た移動ユニットに目が輝かせている。
「ベルデのテンミニッツさん、これに僕たちは搭乗できるんですか。それなら家まで送ってほしいんですけど」
「ひなたさん、それはまだできないんです。最後の調整が残っているので」
「10分でできないの」
「はっはは、それはちょっと、あと三日ほど時間をください」
「ひなちゃん、これで一緒に帰りましょ。バイクはもうこりごりお尻は大丈夫だけど手がしびれっちゃって大変なのよ。これで楽々帰れるじゃない。露天風呂もあるしさ。ベルデ、それも再現してくれてるわよね」
「ええマスター天鼓様の設計通り再現しておりますので茶室ももちろん」
「内装は全部稼働するのかなベルデ」
「晴明さま、その点は抜かりなくただ航行の機関の調整を残すのみなので」
「よかった。北海道から走りづめで風呂に入っていないんだ。私も同乗させてもらうよ。ひなたこの船には大天空露天風呂ってのがあるんだぞ」
ひなたは頷いて
「ヤジロウもみんなもドーマハルト号で帰ろうよ」
「賛成!飛行船に本当に乗れるなて願ってもないチャンスだよ。リサ先輩よろしいでしょうか」
「もちろんよ、私もその方が安心できるわ。晴明さんも同乗してくれるなら」
「よーしそうと決まれば、ベルデ、船に乗って風呂に入らせてもらうよ。そのあとは少し遅いが昼ご飯にさせてもらうから」
「晴兄もご飯まだなの、僕がはりきって作ります」
アカネは大好きな晴明の為、はりきり始めた。
「ありがとう楽しみしているよアカネ。では、ジロー君となんて名前かな君も一緒に入ろうか」
ドーマハルト号に乗り込み露天風呂へと向かって行った。
「相変わらずいい湯だな。空を飛んでいればもっといい眺めなんだよ。ところで君はどうしてひなたたちと一緒にいるのかな」
「輝也は修学旅行で一緒の班になって行動してたんだ」
「カグヤ君ていうのか、大変だっただろ。変な化け物に襲われたりして・・・ところで前にどこかであったことがあるかな」
「大神輝也です」
「えっオオガミ、カグヤ・・・」
「カグヤのクローン体です。晴明、変わらないわねあなた」
「異世界から来ていたのかいつ?」
「先月の満月の日」
「どうして連絡くれなかったんだ。とは言ってもあちこち旅をしていたからな。親父やお袋にも伝えなかったのか」
「ええ、ロッソの研究所でどう会えばいいのか迷ってロッソから大神の養子ということで大神の姓をいただき、アルテミス学園に通ってひなたたちと出逢っていつかは打ち明けようと思ってました」
「相変わらずコミュ障だな。でもまた会えてよかったよ」
「あのう~ひな兄は輝也と付き合ってたんですか」
「そんなことはないよ。ただの仲間だよ。あっでも最初に逢った時にキスはされたけどね」
それから晴明はカグヤとの旅の話を喜多屋に話して聞かせ風呂を上がった。
「おっ!お袋のオムライスか、食べたかったんだ。それにかしわのから揚げに牛しゃぶサラダに豆腐の味噌汁、豪勢だな昼から、いただきます」
「晴ちゃん、口にケッチャプが付いてるわよ。でもカグヤちゃんには驚いたわよね」
「ああ、まさか男になっているなんて予想もしてなかった。でもカグヤはカグヤだね。変わりはなかったよ」
「そうだ、晩御飯はひなたもお袋も大好きな北海道土産のタラバガニがあるよ」
「いえーい」
ひなたとタマモは大好物のお土産に喜んでいた。




