△晴明北へ
晴明はロッソ・テンミニッツの命を受け愛機SR400、単気筒のバイクで東北の地にいた。
「大石神ピラミッドか、資料に目を通したが確かにピラミッドのような山が並んでいるな。この地でオオガミさんは生まれたのか」
過去のオオガミの話は自らも転移した古代の出来事からその場所を特定したロッソの提案であった。一枚岩の痕跡を探る旅でもあり、絶えて久しかった天鼓からの招待状が一番の目的であった。
晴明の陰陽師としての能力は十五歳の時すでに頂点を極めていた。並の人間では到達しえない仙人の長寿を以ってしても可能であるかはわからないほどに。この十五年の歳月は特殊な能力の開発に明け暮れていた。その一つを使い一番霊気を感じる山を調査しだした。
「いにしえのおぼえをひめしせいれいのそのことわりをときほぐす 接触感応」
その地の残留思念を探っていたのだ。
「だめだな。十何世紀も前のことには使えないか。恐山に行っても手掛かりは得れそうもないな。時間もないのでフェリー乗り場に向かうか」
晴明は青森港で夕食を取ると夜中の二時の津軽海峡フェリーに乗船した。短い仮眠をして函館へ到着したのは朝六時、晴明はスマホを見ながら宗谷岬への道を確認した。
「参ったな。600キロ以上もあるのか日本地図もっと正確な大きさで表示してくれよ。本州の半分くらい広いんじゃないかよ」
ぶつぶつと言いながらバイクを走らせだした。食事の休憩以外約十時間の強行軍だ。
夕方、最北端の地、宗谷岬へとたどり着いた。バイクを止めヘルメットを脱いだ。さすがの晴明の顔も疲労の色が見えていた。何故そんな苦労をしてまでオートバイで移動するのかは晴明なりの危機管理であった。いつ黄泉津の凶行が行われても対処できるように考えたのだ。
三角形のモニュメントの海に太陽が沈もうとしていた。そこにたたずむ人影に気が付いた。誰だかは分かっている。
「久しぶりだな」
「そうだね」
永遠ともいえる沈黙が続いた。
「明日、黄泉津の計画が実施される」
「君は彼と行動していたんじゃないのか」
「滅ぼしたよ。彼は」
「わからない。どうしてだ」
「最初から黄泉津とは組んでいないよ。明日の行動を起こすときにしか彼をとらえることができなかったから待っていただけだよ」
「それじゃ。私たちのところへ戻ってくるんだろ」
「いや、僕の目的をやらなきゃいけない」
「目的?」
「世界を一つに」
「?征服するつもりなのか」
「黄泉津の残党、五人の鬼がいる。君が片付けることになるだろう」
と話すと黒い霧に天鼓は消えていった。
日は落ち空には北斗七星がひときわ明るく輝いていた。