△須久那坊
エンド・クエイク、晴人の旅館、古泉 須久那坊には宿泊客はいなかった。予約を取らなかったのである。ここ数年で経営戦略を富裕層、インバウンド客をターゲットに高級旅館へとシフトしていた。狙いは的中して経営は安定おり無理に集客しなくてもよかった。夫婦は異世界で得たスキル翻訳で各国の宿泊客に対応できたことも幸いした。
鎌倉期より続く 須久那坊の名は旅館にも掲げられているが古事記の神、須久奈比古に由来している。温泉の神である。
「あなた、ひなたたち、旅行になんて行ってよかったのかしら、大災害が起こるかもしれないんでしょ。心配だわ」
「どこに居たって同じさ、いい経験になるとくらいに思っておけよ。あの子たちなら大丈夫さ」
「もう、呑気なんだから、晴ちゃんとは違うのよ。あの子たちは」
「ひなたに渡したお守りには式神を忍ばせてあるからいざという時は俺たちが駆け付ければいいだろ、そのための全館休業だ。それより晴明の方が心配だ。久しぶりの天鼓の招待状も気になる」
「あの子こそ心配なんていらないわよ。どうせ「お土産の蟹だよ」って感じでひょこっと帰ってくるから、そうお昼食べましょうか、おうどんでいい」陽子は食事の支度を始めた。
ドッカンぐらぐらと地震はきつねうどんを食べテレビのニュースを見ていた時であった。
「あなた、ひな忘れてる机の上にお守り」
テレビはぷつりと消え即座に卦のウインドウを展開している晴人に告げにやって来た。
「まったく忘れんぼの達人だなひなたはいつもいつもまったく、あたりを見に出るから家で待機していてくれ」
飛び出そうとする晴人に
「あなた!ちょっと待って」
「なんだよ。誰か困っているかもしれないだろう」
「Tシャツ着替えて行ってそのアニメの、かっこ悪いでしょ」




