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〇青龍の名は

「ヨダルじいちゃんの祠にゃ、会っていこうかにゃ」

 フー・スーは祠に入っていくので僕らも続いた。

「珍客来るじゃな。久しいのぉフー・スー、それに導魔法師」

 ヨダルは老人の姿で出迎えた。

「朱雀も立派になったな。そこのおなごたちは初めてじゃな。玄武のヨダルという素敵なお爺さまだぞ」

 じろじろとタマモや茜と葵をなめるように見ている。

「ピコッ、タマモと茜と葵だよ」

 ピコーナが紹介をした。

「なんかエロそうな爺さんだねハルちゃん」

「タマモ、そんなこと言っちゃだめだよ神獣だよヨダルさんも」

 確かに初対面の時よりも鼻の下を伸ばしてにたにたしてエッチそうな顔だ。

「老師よ聞きたいことがあるのじゃが、奠胡(テンコ)どもが青龍を狙っておるようなのだが何か心当たりはないだろうか」

 ドーマが問うた。

「ここから西へいったところに青龍の祠があるのじゃが尋ねてみてはどうだ。わしも付いて行ってやろかの、じゃが今日はもう夜も更けてしまったので明日参ろう」

 ヨダルはそう言っながら「清盛殿の別邸に泊めてもらうとしようかの」


 雪見の御所へいくと清盛も福原へと来ていた。

「法師殿、行方しれずと佐助に聞きおき心配しておりましたぞ。ご無事でしたか。どうしておったのですか。それに何やら見知らぬ女子衆たちも増えておるようじゃがどうしてここへ」

 突然の来客に清盛も驚いていたが、歓待して招き入れてくれた。

「この人は西の神獣のフー・スーさんでこの子はピコーニャ改めピコーナちゃんです」

「ハルアキ殿、白虎に朱雀とはまたすごい方々を引き連れてきたな。いつものように湯へ案内するか」

 清盛ご自慢の温泉で疲れを癒し屋敷へ戻った。

「ここの温泉もいいお湯だにゃ」

「いい湯じゃった。目の保養も兼ねてまた寿命が延びたわい」

 いつの間にかヨダルがいた。

「あっ、お風呂にいた小さな亀がじいちゃんだったにゃ。このエロ亀爺」

 フー・スーは平手打ちをしたがよけられた。

「わしが先に入っておったのじゃ」

 にやにや顔で弁明し僕のうしろに隠れてしまった。

「さあさあ、みんなミノ土産のお肉だ」

 タウロが料理を運びながら言った。さっきからいい匂いがしていたのはやっぱりステーキだった。

「わさび醤油で食べてみてくんろ」

 箸で食べれるようにカットされたステーキがフライドポテトにインゲン、人参と共に皿に盛られて皆の前に運ばれた。

「こんなご馳走をフー・スーやピコーナたちは食っておったのかわしもお呼ばれしようかのう」

 ちゃっかりヨダルも同席している。

 脂の良くのったミノ牛は醤油との相性抜群だった。

「これは美味しい肉じゃの初めて食べたぞ。柔らかくて噛むと肉汁があふれるようじゃな」

 清盛も箸がとまらない。

「これもお土産ですだ」

 赤ワインのフルボディの上物だった。重厚でコクのある飲み口で清盛もうなっていた。

 タマモとフースーもぐびぐびと呑んでいた。

「美味いにゃ、タマモっちお代りをくれにゃ」

 この二人に全部飲まれそうだ。

「だめだよ。タマモもフースーさんも清盛さんへのお土産だよ」

 ワインを取り上げ清盛さんの前に瓶を置いた。

「この肉に良く合う酒じゃな。どこに旅行へ行って申した」

 清盛は手酌でもう一杯注ぎながら聞いて来た。

「結構遠いところで戻れないかと思っちゃいました」

「そうかこんなにいい土産をもらって、無事で何よりじゃ。それより、佐助が今もここ福原にいて探りを入れおるのじゃが」


「失礼いたします。お食事中、おやこれは法師様ご一緒でしたか。愛宕山で消息を絶ち心配しておりましたがご無事でしたか」

 検非違使(けびいし)堀川の密偵の男、旅の行商人姿の佐助が入ってきた。

 愛宕山でのその後を僕は簡単に説明した。

「そのようなことがあったのですか。大変でございましたな。あの後タウロ殿の牛車は導魔坊へとお運びさせていただいて帰りをお持ちしておりましたのですが」

「なんとそのようなところへいらしていたのですか。してこうやって顔を見せるとは何かつかんだか佐助」

「はっ清盛さま、やはり康成殿が見た人物は迦樓夜叉(カルヤシャ)と見て間違いなさそうです。あと二人妖しき黒い外套姿の男がいたそうです。

 康成とは清盛の家来、妖魔たちに関わられるツイてない男である。

 ここより西の山の中の祠の近くの住人たちの目撃情報をもとに聞き込みをした佐助の報告だった。

「おそらくは、奠胡(テンコ)槌熊(ツチグマ)を伴いその青龍の祠へいったのであろう。しかしなぜじゃ」

 ドーマは首をひねった。

「して、祠はどうなっておった」

「法師様、それがすさまじい戦いがあったようでそこら一帯は荒れ果てておりました」

「やはり明日、明るくなったらよく調べなくてはならぬようだな」

「ミシエルちゃん心配だにゃ」

「青龍の名はミシエルというのか、これは・・・」

 絶句するドーマであった。

「法師様、もしやミシェル様を思い浮かべられましたか」

 オオガミの言うミシェルとはドーマハルト、ドーマの大親友のことだった。

 美味しいミノ牛とは裏腹に重い空気が食卓を包んでしまった。

 明日への備えでその日は早めに床に就く一同であった。


 鈴虫の鳴く静かな夜、雪見の御所の夜は更けていった。

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