△不死の血
ロッソは自慢のコーヒー豆を挽き点てたコーヒーをカグヤに差しだした。
「珈琲か懐かしいね。軽足さんもフーさんも相変わらずお元気そうで何よりです」
「ほんとにカグヤなのかにゃ、匂いはそうだけど男の子にゃ」
「確かに調子狂うな。あのお嬢ちゃんもきれいだったけど君もかなりの美男子じゃないか、それでどんなネタを持ってきたんだい」
「ネタ、情報ですか、来月の満月、異世界がやってきます。黄泉津の計画が実行されます」
「いよいよですか。想定される被害は計算済みですが軍事攻撃も行われるのですか」
「昆虫型のキメラが送り込まれているはずです」
「ええ、私たちは異界獣と名付けて対処していますがそれも計画の打ちということでしょうどうですか」
「ええその異界獣の攻撃で世界中が電波障害を起こすでしょう。近代兵器の無効化のために」
「それも想定内です。ヒントはいただいています。マスター天鼓のサービスでしょう。そのあとに軍隊を送り込むということでしょう」
「さすが天鼓のコピーだね。その通りだ」
「君はどのようにその情報を得たのかな。まさか君はマスターのメッセンジャーとしてここに」
「槌熊の漏洩です。彼は天鼓の考えに懐疑的で、この戦いも避けたいと考えています。しかし連絡が取れなくなり、天鼓の執事となったバスクルからこの世界へ向かうようにゲートを手配してもらいやって来れました。そう晴海は元気にしているのですか」
「なるほど槌熊がそんな暗躍をしていたのですね。確証たるお答えです。晴海さんですが今は日本にいませんし連絡が取れない次第ですが何か用でも」
「ええバスクルから言伝を頼まれていましてお渡ししたいものがあったんですが」
カグヤはケースに収められた三枚のメダルをロッソに見せた。
「ほうメダルですか、ご存じないと思いますがオーディンの馬はこちらにはありません。そのメダルを開放するにはバスクルのような能力を持ったものしかいないでしょう。それで晴海さんを仕方ないですね。しばらくあなたが保管しておいていただけますか」
ケースをカグヤに差し戻した。
「ところで晴人さんやほかの仲間たちをお呼びしましょうか。皆さんお喜びになると思いますが」
「それはしばらく待ってくれませんか。心の準備ができていない」
「わかりました貴方は切り札として私が隠しておきましょう。私からの提案ですがこちらの学校に通いこの世界を見ていただくというのはどうでしょう」
「そうですね。十五年も経つと色々変化があるでしょう。ご提案を受けさせてもらいます」
「それでは私が手配しましょう。ところでそれにあたってあなたのお名前を作らせていただきましょう。大神輝也というのはどうでしょう」
「オオガミカグヤ、いいでしょうお任せします」
「オオガミのだんなの子供ってことですか。いいじゃないですか面白いよ」
「団長もそう思うにゃ、私もいいと思うにゃ大神君」
コーヒーカップで乾杯をする軽足とフーであった。
「ちょっと聞きたいことがあるんだがオオガミの血は保管されているのか、天鼓のコピーさん」
「ロッソと呼んでください。それは研究用に保管していますがどうしてまた」
「私の秘密兵器として使えないかどうか調べてもらえないだろうか」
「どういうことかな」
「私の男性クローン体だが今回はオリジナルのオオガミにより近い組成になっているはずです。その血を受け入れることができると思うのですが試してもらえないでしょうか」
「興味深い実験ですね。試させてもらっていいでしょうか。望むところです。さっそく実験室へ」
「おいおい天ロッソ、あの旦那の血は劇薬だろ、不死と引き換えに狂戦士になっちまう」
「ええ、あなたたちもいざという時のためにいてください。今宵は満月です。本当は月の力が弱まっている時に実験したほうがいいかもしれませんが効果を知る絶好の日ですからね」
実験室ではロッソによる生体実験が開始されたのであった。
翌朝、その実験は終わった。
「徹夜は疲れたな。それで天ロッソどうだったんだ」
「どうなのにゃ。ねむねむにゃ」
「結論から申しましょう。オオガミ氏の血液はカグヤ君には適応しませんでした。が狂戦士化は起こりませんでした。血液の力により数時間、身体能力の強化と驚くほどの再生能力を発揮していました。秘密兵器には成り得ます。たった1㏄の量でです」
「実感はありました。ぜひその血を分けてください」
「この短期間で調べただけですので副作用までは検証できていませんが残りの血液を保管して5㏄だけお分けしましょう。携帯ができるように考えてみますので服用はできる限り抑えてください。この血清を八月の満月になぞらえスタージェン血清と名付けましょうか」
「スタージェンってどういう意味でしょう」
「ネイティブアメリカンたちが八月の満月をスタージェンムーンと呼ぶます。チョウザメのことですよ」
「それならキャビア血清でもいいじゃないのかいい酒の肴になるぜ」
軽足は笑いながらそう言った。大神輝也が誕生しその秘密兵器を得た日であった。




