◎葵祭
晴明が四回生のその年の葵祭に小学校へ入学した妹ひなたと共にアオイ、アカネが彼の下宿に泊っていった。おまけに母陽子、別名タマモも一緒に
「晴ちゃんの下宿に泊れるなんて最高よね、ひなた」
晴明は下宿代を押さえるため京都は桂の旧家の蔵に住んでいた。彼の父も使っていた下宿だ。窓は一つだがやけに広く学校のみんなのたまり場と化していた。
「母さん、急に泊まりに来るなんてしかもひなたたちまで、ゴールデンウィークが終わって旅館が暇なことはわかるけどあんまりじゃない。僕もやることあるのに」
「こうでもしなきゃ晴ちゃん、最近言うことを聞いてくれないから」
「うちの家見たい、妖怪たちもいるし面白い!」
ひなたははしゃいでいたが確かにうちの下宿は物の怪だらけで借り手がいなくて安いのだ。
「明日、葵祭を見たら素直に母さん帰ってくれるんだよね」
「久しぶりの京都なんだからもっと楽しませてよ。前のお家の辺りも見たいんだもん」
こんなことを言いだすと母は歯止めが利かない。やれやれとうなだれる晴明だった。
翌日はあそこに行きたいあれはどうなってるのとか母が乗ってきた車を運転してあっちこっちへと連れまわされた。そしてパーキングに車を止め下賀茂神社、今はその面影もないがやって来た。
「このあたりで天鼓ちゃんと逢ったのよね」
平安の時代、天鼓、奠胡に襲われたのだったがここ糺の森、彼が妖魔を召還していた場面に出くわしたのであった。
「そうだね。このあたりかなぁ」
「晴兄とママは前にここに来たの」
そうずいぶん前だが
「そうだよひなた、テンミニッツもここであったんだ」
あたりをくるっと見渡した晴明に杖を持ったローブ姿に目が留まった。
「天鼓!」
「なに晴ちゃん天ちゃんが、どこ」
タマモもその姿をとらえて走り出した。
「母さん!待って」
晴明も追いかけようとしたがひなたたちが気になり立ち止まった。
ローブの男は
「晴明、招待状はもう終わりだ。あとは準備を頼むよ」
と言い残すとかき消えてしまった。
「晴ちゃん、どういう事かしら、天ちゃんは・・・」
「ママ、あれ誰?」
「僕の大親友だよ。またいつかちゃんと紹介してあげるよひなた」
それから異世界獣の招待状が来ることはなかった。