◎玄武寺保育園のお友達
芋虫月の登る弥生、八雲家は娘の五つの誕生日会が行われようとしていた。
「今日も北の方で地震があったわね」
「満月が昇るたび地震があるってやつが慣れになってきたな」
不思議なことに娘ひなたの生まれた時を境に世界中ではフルムーンクエイク、F.M.Qと呼ばれていた。
「今日はお客様がいるんのよ、保育園のお友達のジロー君」
「その子はどんな子だ。うちのひなたに似つかわしいやつか」
「もうあなた、今から警戒しなくても、ふっふ、園長先生の息子さん、優しくていい子よ。アオイやアカネとも仲良しよ」
「晴明は京都の下宿から戻ってくるのか」
「電話もあったけど東北にスケッチ旅行に行っててクール便でタラバ蟹を誕生日プレゼントに送ってきてるわよ」
「妹の大好物を気が利くじゃないか」
「私も好きよ。そうそうディアマティス、倒したって」
「今度もセットでご登場か異界獣、今のところ電波障害だけだけど目的はそれだけかな。何かのメッセージかもしれないな」
「今回も晴明のいるところじゃないか」
「こんにちはお邪魔します。喜多屋ジローです」
タエに連れられて保育園のお友達ジローがやって来た。
「ジローちゃんようこそ、みんな待ってたわよ。さっこっちよ」
大きな花束を持って恥ずかしそうにしているジローを奥へ招き入れた。居間にはひなたを真ん中にアオイとアカネが座っていた。ジローはアオイの隣に座ると花束をひなたに渡した。
「きれいね。ヤジロウありがと」
ジローは花束から抜き取っていた青い花と赤い花をアオイとアカネにも渡した。
「まあジェントルマンねジロー君は何処でそんなこと覚えたの」
「バランスを考えてひなたちゃんだけに渡すのも何かなって」
「ほう結構バランス感覚がいいじゃないか。出世するよジロー君は園長先生の息子さんということは晴海ちゃんのいとこということか」
「晴姉ちゃんを知っているんですか」
「ひなたのお兄ちゃんの同い年よ。最近はあまり見かけないけどどうしているか知ってる」
「アメリカにお父さんとお母さんと一緒に留学しています」
陽子は二人が別れたことは知っていたがそんなところにいるとは知らなかった。
「ケーキだぞ~」
タエが五本のローソクをたてた。料理長特製のバースデイケーキを持ってきた。
「あらアオイもアカネも花をもらったの、名前に似合わせて青と赤なのね」
「えっジロー君わかってて渡したの」
ひなたの問いにこっくりと頷くジロー
「アオイちゃんとアオイちゃんじゃないほうでわかる」
「ジロー君はアオイのことが好きなのね」
真っ赤な顔になるジロー、アオイは下を向いてしまった。
「違うです、三人とも好きです。選べません」