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◆謎の大男

 翌朝も晴人は釣りへと出かけていた。今日は餌釣りで浮き輪を浮かべ何も考えずにただ湖面を眺めていた。

「どうですかな釣れますかな」

 不意に後ろから声がした。

「ええ、ぼちぼちです。このあたりで何をされているんですか」

 逆に質問を返してふりむくと三メートルはある男がそこにいた。少し驚いたがおだやかなどこか懐かしい笑顔であった。

「申し訳ない驚かせたようで地上から来られた方ですかな。私はこのあたりの小屋で一人暮らしておりますヘミングと申します。昨日から釣りをなされていたのは拝見しておりましたが声をかけるタイミングを失いまして今日も来られたのを見てお声掛けをしたのです」

 人里離れた湖に一人暮らしているようであった。人恋しくてしゃべり相手を探していたのだろうか。

「晴人といいます。いろいろあって釣りでもして気を紛らわしているところです」

「それは失敬、晴人さん、お邪魔してしまいましたかな」

「いえいえ、そんなことはありませんよ。お話し相手になるかどうかわかりませんがどうぞお話しください」

 晴人はこの見た目とは異なる穏やかな様子の老人に少し興味を持ったようである。

「こんな魔族だらけの辺鄙(へんぴ)なところにわざわざいらっしゃるとは変わったお方ですな」

 晴人の前にしゃがみこんで話を始めた。

「まあ色々ありまして家業そっちのけでこっちの世界を渡り歩いているんです」

「ほう、それは大変ですな。家業とおっしゃいましたがどのようなお仕事をしているんですか」

「旅館の親父なんですが今やっていることはそんなこととはかけ離れた厄介ごとですよ」

 ヘミングは晴人の顔をしげしげと見て口をあんぐり開けた。

「どうかされたんですか?」

 晴人はその表情に違和感を覚えた。そしてなんとその眼には涙があふれだしたのであった。

「こんなところで会えるとはな晴人」

 どういうことかわからず晴人は

「どこかでお会いしたことがありましたか?」

 ヘミングは首にかけていたタオルで涙をぬぐい鼻をかんだ。

「晴三郎じゃよ。じいじだ。晴人」

 この地底世界では魔族転生(てんしょう)で多くの晴人たちの世界からやって来たものたちがいた。まさか晴人は自分の祖父がそんなことになっていようとは思いもしていなかった。


 晴人はお爺ちゃん子であった。旅館の仕事で忙しい両親は小学校へ入学するまでの世話をすべて祖父に任せていたからだ。その祖父も晴人の入学を楽しみしていたがそれを見ることかなわず他界してしまったのだった。

 今度は晴人が口をあんぐりと開けた。

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