◆白兎の願い
自らとその家族をとんでもない運命に巻き込んだ張本人が目の前に立っている。文句を言ういやそなことよりその因果律で結ばれた盟友が危機なのである。
「あんたが稷兎と呼ぶオオガミはどうなっているんだ。黄泉津は何をしようとしているんだ」
晴人に向かってにぎり合わせた手を解き
「黄泉津と私のことから説明いたしましょう。タカアマーラからの使命を帯びた黄泉津、稷兎そして卑弥呼の三人は最初の頃は皆で手を合わせ使命を果たそうとしておりましたが長い過酷な月日の中、袂を別つようにそれぞれの道を歩み始め、私と長い旅のすえ稷兎と結ばれました。そして再び三人が出会うこととなった時に事件は起きました」
それは晴明から聞いたかこの世界のことであったが晴人は聞き続けた。
「そのころすでに黄泉津は正気を失っておりました。タカアマーラの意思から離れ黄泉の国からの悪魔と手を結んでおりました。そして生者の世界の支配を企んでおりました」
晴人はそこで口を挟んだ。
「ベルゼブブと手を組んだというのか」
「いえそのような者ではございません。魔族の王と契約を結んだのです。稷兎と卑弥呼はそれに抗い戦いを挑んだのでした。もちろん私も稷兎と共にその戦いに加わりました。卑弥呼の犠牲もあり戦いは終わったように思えましたが、稷兎は記憶を失いわたしは黄泉津の従者に捕らえられたのでした。そして黄泉津の計画に従う代わりに稷兎の安全を確保したのです」
稷兎のたどった軌跡を聞き晴人は
「その安全が今回のことだというのか。あいつはどうなるんだ」
「彼の不死の能力を使いこの世とあなたたちの世界をつなぐ装置を作動させるのです。およそ十五年の歳月に及ぶ彼の命を使って」
「そいつを止めるすべはないのか教えてくれ」
「ありません、これから彼らは別次元へと隠れ時を待っているでしょう」
「あんたはそれでいいのか!オオガミが大切なんだろう」
「この試練を乗り越えれば彼は私のもとに戻ってきます」
彼女もまたまともではないと晴人は感じたのであった。