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〇異次元牢獄

 神獣フースーに僕はみんなをあれこれと紹介した。

「なかなかの手練れが集まっていたのにどうしてこんなところに来てしまったにゃ。罠にかけられたにゃ?」

 語尾が気になるしゃべり方だがどうやら僕たちに好感を持ったようだ。

「そうなんです。ずるいんですよ安心させといて梯子を外すようなやつなんですよ」

「見るからにそんな感じのやなやつだったにゃ。あの迦樓夜叉(カルヤシャ)とかいう女も私をわざと傷つけて喜んでいたし」

「そうそう、あいつの性格の悪さは人の嫌がることを平気でするのよ」

 タマモもフースーに相槌を打った。

「それはそうとハルアキのあの技は黄泉の国への空間を開ける技よねぇ」

「そうだ、あの技は黄泉へは扉を開けるが別世界には無理だ」

「ドーマさんがユートガルトから平安時代に来た呪文ならなんとかなるんじゃないの」

「あれは異世界と別の世界との境界が薄くなっているゲートポイントという場所が必要なんじゃ。その場所を探すにもわしの捜査機関が作り出した装置も必要なのだ」

「そう、Qくんの作った探査機がなければ異世界への門は見つからないの、門さえ見つければ空間転移の進化系の魔法で、私も平安に一人で来たのよ」

 ゴブリンを一緒に連れてきたくせによくゆうよ。


「この世界にそのような場所があるとは思えん。昔読んだ書物によると異次元爆弾は送り込んだものを隔離する強力なフィールドで作られているはずだ」

「そのフィールドを壊せば空間転移で逃げられるんだよね。どうすれば壊せるの?」

「わたしも壊そうと吠えてみたんだけどねぇ。ちょっとは揺らぎができるんだけどそこまでなのよねぇ」

「神獣の咆哮(ほうこう)で空間が揺らぐのか、ピコーナも同時に吠えれば何とかなるやもしれんな」

 ドーマは少しの希望を見出した。

「二人同時に咆哮をしてみてくぬか」

 フースー、ピコーナに頼んだ。


 二人は外へ出て神獣に姿を変えた。

「行くわよぉピコーナちゃん、こういう風に吠えてみて」

 息を大きく吸い込んだフースーは大きく吠えた。空気がビリビリと震える。かすかな空間の揺らぎが、目の前に現れた。

「じゃあ、せえいのでぇ」

「ちょっと待って、みんな耳をふさいでおいた方がいいよ」

 ハルアキは両の手で耳をふさいでうなづいた。

 ピコーナは大きく翼を広げた。二人同時に吠えた。地面までが震えだし先ほどとは比べ物にならない振動が周りを包み込む。

 二人の間の空間が大きくゆがんだがそこまでだった。

「ふう、もう一人いればにゃ、何とかなりそうだけどぉ」

「ピコッ」

 ピコーナも頷く。


「こんな時にクラウドソードがあれば断ち切れそうなんだがな」

 オオガミがドーマに言った。

「クラウドソードって?」

 ハルアキがオオガミに向かい聞いてみた。

「ハルアキお前が蜘蛛切丸(くもきりまる)といいているその刀だよ。折れる前は伝説のクラウドソードといわれていたんだよ」

「わしは雲折れ刀(くもおれとう)といったはずなんだが、ハルアキが聞き間違って蜘蛛切丸と名付けてしまったがな。完全な形なら空間をも切り裂ける名刀だ」

 ドーマが補足した。

「へぇー」

 まじまじと右手に持った蜘蛛切丸を眺めた。またも手詰まりだ。

「フースーさん、この世界はこのままお昼だけなの」

 曇り空のようにただ白く明るい空を見上げた。

「一日はあるのにゃ、だんだん暗くなるから、こんなやな女の匂いが残るところから私の小屋に来ない」

「賛成、きれいな湖だったね。あそこのほうがいいよ。みんな行こう」


 フースーの小屋へと移動を始めた。

 変わった木々や草花が道行く僕の好奇心をあおった。茜と葵が色々と説明してくれる。食べれるものはどんどん摘んで葵のリュックに詰めていった。

「坊ちゃま、こんなハーブがあっただ」

 タウロの料理人魂を揺さぶる発見もあり、早く導魔坊に帰って腕を振るってもらわなくてはお腹がだんだん減ってきた。


 そして湖畔の小屋へとたどり着いた。

「ハルアキたち、これ食べるにゃ」

 鮭に似た魚を持ち上げる。出会ったときに持っていたやつだ。

「一匹じゃ足りないわね。取りに行ってくるにゃ」

「私も行く!」タマモが茜と葵を伴ってついっていった。

「ピコッ」ピコーナまでも女子会だ。

 タウロが鮭もどきを捌いて塩をたっぷり擦り込む。

「朝ごはんに塩じゃけが欲しいと思てただ。これはいいだ」

 フースーの小屋の軒先に勝手につるして干している。そして小屋の中に勝手に入っていく。

「だめだよタウロ、勝手にはいっちゃ」

「あのお嬢ちゃん、料理全然してないだ。鍋も何もないだ。坊ちゃん仕方ないだ。モグちゃん使って石窯作ってくんろ」

「任せてよ。美味しい晩御飯のためだ」

 モグちゃんを十体作ってそれぞれに命令して森へ放った。


 一方女子会は水浴びの最中であった。湖に注ぎ込む滝は狩場と共にフースーの身づくろいの場でもあった。

「久しぶりにゃ、話ができたのもぉ」

「一人ぼっちでさみしくなかった。私なんて絶対に無理、知り合いのいない世界なんて」

 タマモは滝で頭を洗っている。

 ピコーナはきゃきゃと楽しそうに水浴びをしている。

「そろそろ魚を取って帰りませんか」葵が言った。

「楽しくて忘れていたにゃ」

 それぞれ服を着て作業を始めた。



 湖畔のほとりは薄暗くなってきた。空には星も瞬かない無粋な夜空だ。


 女性陣は食べきれないほどの()()()を捕って帰ってきた。石窯の準備は万端だ。

「大漁だ。これでしばらくあいだの朝ご飯は困らないだ」

 タウロは先ほどのように軒につるし今晩の夕食分を切り分けていた。森で取ったキノコや野菜とともに石窯で塩焼きを始めた。

「いい匂いがするにゃ、生以外で久しぶりに食事ができるぅ」

「えっ、ずーっと生で食べてたの!」

「そうにゃ、めんどうくさいもん。これは味がついてるにゃ!美味しいにゃ」

 満面の笑みで鮭を夢中に食べている。

 ハーブの香り高い鮭のキノコ和えは確かに鮭の味だった。皮のカリッと焼けたところが絶品だ。それにこのお芋、茜と葵が一生懸命掘り起こしていたが、フカフカのホクホクだ。バターが欲しいな。さすがに葵の常備の調味料もそこまで想定していなかった。


 急に空が明るくなったと思うと流れ星が落ちてきた。そのまま湖の中へと落ちていった。

「なんだろう?拾ってきてみます」

 何か重要なものかもしれないという予感で服を脱ぎ捨て素っ裸で真っ暗な湖に飛び込んだ。視界が全く利かないがぼんやり光る方へと泳いでいった。

 光るその物体をつかむと金属の感触がした。やがて光は消えていった。上に泳ぎ水面に出た。何か近づく気配がする。

「ピコーナ!来て!」

 叫び呼んだ。背後に大きな口を開けた魚が浮かび上がった。僕を飲み込むように口を閉じた。

 間一髪、ピコーナの足をつかみ逃げおおせた。ルアーフィッシングじゃないんだから、食べられてたまるか。

「あぶないにゃ、湖の主がいるので私もここでは泳がないにゃ」

 先に言ってよ。あらためて金属片を見ると30センチほどの剣先だった。

「それは、オワリ城で無くしたクラウドソードの剣先!」

 ドーマが興奮気味で愛剣との再会に歓喜した。僕の蜘蛛切丸とぴったりと合わさった。

「でもどうやって直せばいいんだろう」

 といっているうちにピコーナが二つとも飲み込んでしまった。

「だめだよ大道芸じゃないんだからそんなの飲んじゃ」

 ピコーナは大きく羽を広げ、上を向くとまぶしく輝いた。

「父、これ」

 プイとつながった剣を吐き出した。

「うあ、よくやったよピコーナ、さすが神獣」

 頭をなでなでとした。

「ピコッ」

「これは、天叢雲(あめのむらくも)(のつるぎ)だにゃ、神器だにゃ」

「神獣に神器、これって最強じゃないの、でれるよココを」

「ハルアキ、剣を持て、再び神獣と共に空間を穿(うが)て」

「ちょっと待つだで鮭を取り込んでくる」

 タウロが急いで干した鮭を取り入れる。


 準備完了、天叢雲剣を持つと雲切丸と比べ物にならないほど霊気があふれている。

「ピコーナ、フースーさんやるよ」

 二体の神獣の間に立ち剣を構えた。


 タウロ、茜、葵が演奏を始め、神獣たちが咆哮する。

 空間が揺らぎ始める。


あまとぶや

かりのゆくさきしめしけれ

かのちめざしてとぶらう


空間(すぱっつお)


 光り輝く剣を振り下ろす。そして横になぎ斬る。

 白く光る出口が開けた。


「さあみんな出るよ」

 ハルアキたちはその光に飛び込んだ。

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