〇ホワイトタイガー
ハルアキたちはお昼の最中だ。
僕らは屋敷ごと不思議な空間に飛ばされた。外を探索に行った茜と葵が猪の魔物ギアーレを捕って帰ってきて、タウロがこの山荘の厨房で調理した。聞くと外はまるでユートガルトのような生態系とのことだった。
「ドーマさん、あの妙な機械が異次元爆弾っていう奠胡の兵器だったんでしょ。昔はどうやって対処したの」
ギアーレの骨付きリブを食べながら、聞いてみた。猪と牛肉の間のような味でそこそこ美味しい。
「うむ、異次元牢獄とこの空間を呼んでおった。発動前に装置を壊して難を逃れたので、脱出の仕方は今は思案中じゃ」
何かを思い出すように考え込んでいた。
「ギアーレのお肉久しぶりね。この骨のところが美味しいのよ」
タマモは入念に骨をしゃぶっている。確かにそこは美味しい。
「小さい頃から大好きだったね」
葵がタマモに言って、口を拭くハンカチを渡してあげた。
とりあえず腹ごなしは済んだので
「僕がピコーナに乗って空から調べてきます。行こうピコーナ」
「ピコッ!父、いくよ」」
人間態から飛行態へとチェンジした。
「わしも行こう」
珍しくドーマが僕と二人で探索に向かった。ドーマの背中はお香の匂いがした。
空から見ると見慣れない樹木がたくさん生えていた。大きな山を中心にはてしなく陸地が広がっていて川が流れているが、海らしきものは見えない。川をたどっていくと大きな湖があった。
「ピコーナ、誰か人はいない?」
「あっちの方に何か不思議な気配を感じるんだけど、何かわかんないよ」
「行ってみようか」
ピコーナの言う湖の方向へ進んでいった。
「降りてみようハルアキ」
青く静かな湖畔に舞い降りた。
「あっドーマさん、あんなところに小屋があるよ」
ハルアキの指さす木々の間に小さな丸太づくりの小屋があった。
三人は近寄って「お邪魔しまーす。誰かいますか」
小屋に声をかけたが、誰もいないようだ。入って調べようとドアに手をかけたとたん。
「誰だ、盗人にゃ!」
後ろから声がした。ふりむくと肩からロープで頭を結んだ鮭のような大きな魚を担いだ獣人のお姉さんがいた。
「いえ、誰かいるのかなと思って、ハルアキといいます」
ぺこりと頭を下げて挨拶をした。
白髪に黒いメッシュの入ったワイルドな雰囲気のお姉さんに答えた。
「新入りか、いつこの異次元牢獄にきたにゃ」
「さっきですけど、お姉さんは?」
「さあねぇ、二十年以上になるかにゃ。数えるのもやめたよぉ」
とてもそんな年を取っているようには見えない。つやつやのナイスバディだ。
「こっちがドーマさんでこの子はピコーナよろしくね」
「私はフースー、しかしなぜこの牢獄へ?いや、それよりそこの娘、朱雀にゃ」
「ピコッ?」
「あれ、どうしてわかるんですか」
僕とピコーナは首を傾げた。
フースーは髪をかき上げると、とても大きなホワイトタイガーへと変化した。
「白虎さまでございましたか。それよりなぜ白虎さまとあろうお方がこちらへ?」
ドーマはその姿を見て瞬時に西の神獣と悟ったようだ。
「屍術師の男と女淫魔がわれの祠を訪れ、東の神獣の青龍を手に入れんがため、対なるわれを封じ込めたのにゃ」
「屍術師と女淫魔?奠胡と迦樓夜叉みたいなコンビだね。ドーマさん」
「そ、そいつらよ、わたしをここに封印したやつらは、知ってるにゃ」
「そのものの仕業で我々もここへ流されました。ここ異次元牢獄の時は不起訴な時間軸の中にあるようですな。もしや、われらをここに閉じ込めたる前に、白虎さまをあるいはそのあとの出来事かもしれませぬが」
「青龍が心配ねぇ。わたしがいないことで一時的だけど力が衰えておるはずだにゃ」
「奠胡はどうして青龍を狙ってるのかな?」
「それはわからぬが、神獣が二体もいればここを出る手立てが見えたかもしれん」
「山荘に戻って相談してみようよ。ピコーナ頼むよ」
飛行態へと変化すると「ピルナスによく似ておる」フースーが言ったがお母さんのことだろうか。
「わたしは走って追いかけるので案内するにゃ」
山荘へと向かった。
山荘に着くとオオガミたちがスケルトンやゾンビと闘っていた。ドーマが僕を背負ったままふわりと飛び降りた。
「どうしたオオガミ」
「知らぬ間にここに集まってきたのです」
白虎が追いつき人間態に戻る。
「結界を張っていないと、四六時中湧いてくる厄介なやつらだ」
奠胡がここに放った妖魔たちだった。
「ハルアキ、舞え」
「ハーイ、みんな演奏頼むよ」
やったー初めて演奏付きで舞う。
タウロは小鼓を持ち、茜、葵は笛を吹き始めた。幽玄ただよう笛の音色と澄み切った鼓の音が響き渡る。
ぬばたまの
その夜の命をわずらわず
おきつ来にけりあかぬわかれ
葬送
「やったね」
くるりとふりむき死霊たちに背を向ける。
轟音とともに地面からの霊手が地中に引きずり込む。
「ハルアキ、なかなかの技を使うにゃ」
フースーが感心してハルアキを見つめた。間にタマモが入ってきた。
「この女何よ、私のハルちゃんに手を出さないでよ」
「タマモさん、フースーさんだよ。ピコーナと同じ神獣だよ」
「あら神獣の虎さんごめんね。私はハルちゃんのお母さんだよ」
「母さん(仮)をつけてね。ややこしいから」
「はっはっ面白い親子だにゃ」
「フースーさま、まずは屋敷の中で話そう」
屋敷の中へと入っていった。




