●戦いの代償
「シレノスの戯け者が!七千もの兵を連れていきやがったな。ゾンビが千人と妖魔が二千ほどしか残っていないじゃないか。ここの守りはどうなる!」
テンコは心配のあまり頭を抱え込んでうろうろとしていた。
「そうじゃ、これを使う時が来たようだな」
残った兵に命じてオワリの城の中に古代文明様式の機械を運び込んでいた。
朝日がオワリの方角から上がってくる。その日を背にオワリ兵が横陣で進軍してきた。横一列に並ぶゾンビ兵の後を妖魔兵が続く。
ハルトたちは雁行で向かい打つ。先頭にハルト自身が立っている。
「いくぞ!」
ハルトの合図とともに最後部の鼓笛隊が雅楽のメロディーを奏で始めた。
ハルトはさらに前に出てクラウドソードを振るいながら舞った。
「なんだあいつは気が狂ったのか、踏み蹴散らせ!」
シレノスが軍配を振り下ろした。
まじかに迫りくるシーモフサルト兵、さらに優雅に舞うハルト、敵の下から無数の魔法陣が浮かび上がる。地鳴りと共に敵の隊列が乱れ始める。
ぬばたまの
その夜の命をわずらわず
おきつ来にけりあかぬわかれ
夜想曲
「邪悪なものに囚われし魂よやすらかに眠れ」
自軍の方へと振り返った。
轟音とともに地面からの霊手がゾンビ兵たちを地中に引きずり込む。
「あわわ、これはいかん逃げるが得策だ」
シレノスは残りの兵にわき目も振らずオワリへと逃げていった。
すでに勝負はついた。残りオーガ兵は次々にオオガミ、各中隊の兵士たちによって一時間もかからぬにうち滅ぼされた。
ユートガルト兵は勝ち鬨をあげた。
「浮かれるな!次行くぞ」
無数の魔法陣上にハルトは選ばれた二千人の兵を整列させて、その中心に立つ。
あまとぶや
かりのゆくさきしめしけれ
かのちめざしてとぶらう
空間転移
ユートガルト兵団は忽然と消えた。
そのユートガルト兵団はなんと、オワリの城下町へと空間転移していた。ハルトは魔法力をほとんど使い果たし膝をつき苦しそうであった。
「生まれて初めて魔法力を使い切った。こんなに疲れるなんて、オオガミ、指揮をとれあとは任せた」
「ご主人様これをどうぞ」
アルジェが魔力回復のエクスポーション、並の人間なら一本で満タンなのだがを五本くれた。甘露なその液体を一気に飲み干した。できれば大ジョッキで同じくらい飲まないと心もとないが充分だ。
「ありがとうアルジェ、俺は大丈夫だ。行ってくれ」
中隊長レンジャーの部隊が城を目指す。市中のシーモフサルト兵はミノ軍とイソルダ、アルジェが当たる。敵は倍近くいるが質はこちらが上だ。
「ミノの兵たちよ、大人数で敵を囲み注意深く戦え、無理をするな」
そして俺も城を目指した。
オワリの街は木造建築の粋を集めた美しい街並みだが、ぼろぼろに壊されている。風情も何もないやつらだな。破壊しかもたらさない街の占領風景であった。
城の中にはスケルトンとゾンビ兵、オオミドウは冥府送りの秘剣技を使い葬って、モモは狐火で炭に変えていく。オオガミはただただぶった切っていく。
そして城奥までテンコを追い詰めた。不思議な装置を背にテンコは焦りの表情を浮かべている。オオガミが切りかかる。杖を使い巧みによけるが傷だらけとなっていった。
最後の一撃をたたき込もうとした瞬間、オオガミとテンコの間に突如真っ黒な鎧、顔にも漆黒の仮面をつけた人物が現れた。空間転移か?
オオガミの右わき腹から左肩先までを逆袈裟懸けに斬りさいた。真っ二つになるオオガミ、下半身のみが立ち尽している。
「オオガミ!」
驚く俺をしり目に
「テンコ、引くぞ」
「マサカド様、ありがとうございます。その前に」
装置に手をかけスイッチのようなものを入れた。
「おのれらもこれで最期だ。異次元牢獄へ飛ばされるがよいわ!」
そして二人は空間転移で逃げていった。
オオガミを抱き上げると
「ハルト、しくじった、すまない」
しゃべっている。どこまで頑丈な体だ。立ちすくむ下半身の上にのせると、みるみる繋がっていく。満月の狼男はまさに不死身だな。
「俺はこれでいい、それよりあの機械を」
膝から崩れ落ちた。
これは、ユートガルト城の図書室で見た禁書の異次元爆弾だ。
「アーカムス!皆を連れて城から出るんだ急いで!」
アーカムスはオオガミを背負い、モモはタマモを引っ張って部屋から出る。
「ハルト!早く逃げて!」タマモが叫ぶがこれを何とかしないと爆発範囲がわからない。下手すると街ごと飲み込まれるかもしれない。
「早く!タマモ逃げるんだ」
テンコの臆病が役に立った。カウントダウンが始まっているが自分の逃げる時間を五分以上取っていたため助かった。鑑定して構造を調べる。
これは・・街ごと消し飛ぶぞ。なんて兵器を使うんだ。止める手段は心臓部の空間のゆがみを消し去ることか、この剣で何とかなる。
クラウディアソードを構え、精神を集中する。
装置の中心に剣を突き入れた。膨大な魔力が装置から流出する。耐えきれるかな。
激しく震度を始めた装置は白く輝いた。
「うあぁぁぁ!」渾身の魔力で押さえつけた。
BLA-AAAM!
装置は破裂し俺はうしろに飛ばされた。
なんとか無事のようだな。よかった、しかし手に持ったクラウディアソードが折れていた。
「この剣先が媒介となって爆発を止めたのか」
折れた剣を見つめた。
城を出ると制圧は終わっていた。俺の無事に兵たちは歓声を上げた。
タマモが泣いて抱き着いた。
「ハルトのバカバカバカ!」
中隊長たちが駆け寄ってくる。
「みんな、よくやった。オワリはわが手に!」
右手を突き上げた。
ミノのエンドワース兵たちも「オワリはわが手に!」凱歌を上げた。
何とか一人で歩けるほど回復したオオガミが
「おい、代々伝わる名刀だぞ。そんな姿にしてしまって」
「クラウディアソードならぬ雲切れ刀だな。でもこいつのおかげで助かった」
あいつがマサカドか、待っていろよ必ず倒してやる。
空は暗雲立ち込め雨が降り始めた。
「天からのシャンパンファイトだな」
ハルトは大きく手を広げ祝福の雨を受け止めた。




