●陽動作戦
「テンコさまは見る目がない、こんな優秀な部下を鉱山の見張り番にするなんてまったく何を考えているのやら無能にも程がある」贅沢な食事をとりながら愚痴るシレノスであった。
ナガクの街はそのキャパを越える人口に飢餓に苦しんでいた。そんな中シレノスは飽食極めるクズである。
オオガミとアーカムス隊、五十余名はすでにナガクに潜入していた。夜の闇に紛れ昨夜から行動を開始いていた。
「アーカムス位置に着いたか」インカムで連絡を取りあっている。
「オオガミ司令官、各部隊配備完了です」
「よし!いくぞ!」
オオガミはシレノスのいる司令塔にたった一人で飛び込んだ。アーカムス隊は五つある鉱山の入り口で身をひそめ待機していた。
警報が響いた。オオガミの突入で非常警戒となった。鉱山の入り口から次々とオーガ兵が出てくるが待ち伏せしたアーカム隊に次々と倒されていく。数では圧倒的に不利な状況なのだが、如何せん狭い入口から出てこれるオーガ兵はほんの一握りだった。
満月のオオガミは司令塔に入るオーガ兵を斬って斬っての大立ち回りで倒していった。まさに鬼神の如き強さである。ついにシレノスのいる部屋へとたどり着いた。
「ほう、ぜいたくな飯食ってやがるな」
「なんだお前は、兵たちはどうした」
「こいつの露と消えたぜ」
刀をシレノスの鼻先へと向けた。
「助けてくれお願いだ」
土下座をしてオオガミに懇願するがロープで縛り上げ表に連れ出した。
「ほら、命が惜しければこの街から撤退命令を出すんだ。オーガたちはもう半分も残ってないかもしれんがな」
オーガ兵の死体の積まれた各鉱山入口を連れまわし、兵たちを投降させていった。残ったオーガ兵は百体にも満たない数まで討伐されていた。
「早く兵たちにオワリまで帰るように命令するだ」
刀を背中に食い込ませた。
「全軍オワリまで撤退!」
オーガたちは走ってオワリまで逃げていった。入れ替わりにキグナス隊が支援物資を持ってやってきた。
「キグナス、ご苦労、物資の配給を頼む」
「オオガミ司令官、わかりました」
「アーカムス、部隊の者たちも手伝って配給を急げ、しばらくはここナガクで支援するぞ」
「ミノに戻らなくては、守りが手薄になりますが」
アーカムスがシレノスの前で言う。
「いや、しばらくは大丈夫だろう。ここでゆっくり支援をしよう」
「かしこまりました」
頭を下げ舌を出している。
「さあお前もオーガたちを追いかけていけ」
ロープで縛ったままのシレノスの尻を蹴り上げた。
「待ってくれー」逃げ足だけは早くかなたへ消えていった。
「さあ、アーカムス、キグナス急いでミノに帰るぞ。餌巻きは終わった」
シレノスの後を八咫烏が飛び立っていった。
「オオガミは大根役者だな」
本陣作戦本部で眼鏡をはずしインカムをつけたハルトが笑いながらつぶやいた。
「さて、あとは待つだけだな。明日の朝か」
オオガミたちが凱旋してきた。
「名演技だったぞ、オオガミ、レッドカーペットを引いて待っていればよかったな」
「なんだそれは、恥ずかしいことをさせるなよ。本当にこれでやつらは明日攻めてくるのか」
「まちがいない。明日が本番だ」
「テンコ様〜、今がチャンスですぞ。敵はナガクに分散されました。ミノを攻めましょう」
「何を言っておるこの馬鹿者が!おめおめとナガクを奪い返されよって、こうしてやる!!」
杖でシレノスを殴りまくる。シレノスの額が割れ青い血が流れる。
「お、おゆるしを・・・」なおも執拗に殴られた。
息を荒げたテンコは
「今からこの街の兵の半分を指揮して、ミノへ進軍するのじゃ」
「い、今からですか。まだ戻ってすぐですが・・」
「ええい、うるさい!今兵力が弱まっていると言うたではないか。すぐにじゃ!」
「は、はい、行ってきます」
「まったく、人使いが荒いお方だ。自分もご出陣になられればいいのに。高みの見物とはほとほと臆病な」
シレノスは深夜、日付の変わったその時、六千のゾンビ兵、千の妖魔兵をテンコに言われたより多い人数を率い進軍した。どちらが臆病だか。
「来たぞ、オオガミ、明日の朝決戦だ。キグナス例の準備を頼んだぞ」
ハルトは眼鏡をはずし立ち上がった。




