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◆夏至のベール浜

「もう、そろそろ落ち着いたらどうなの、()()

 飛行船の中で先ほどからあちこちをうろうろしてはそわそわと気もそぞろな晴海であった。

 晴明の声もまったく聞こえていないようだ。

「離れ離れになっていたパパとママに()()()()逢えるんだぞ。あれも楽しみのうちだ。好きにさせといてやれ」

「そんなに早く逢いたいなら通信すればいいのに」

「そんな安っぽい再会はしたくないんだよ晴海様は」

 久遠は晴明の肩に手を当てて晴海を見守っていた。


 そしてドーマハルト号はベールの上空にいた。


「団長!早く着陸してください!お願い」

 操舵をする軽足の肩を揺らす晴海

「そんなに急かすなよお嬢ちゃん、着陸ってやつは難しいんだぜ」

 舵を握る軽足、なぜかわざとゆっくりと操作しているようにも見える。

 ドラゴニアの宮殿の中庭にゆっくりと着陸するドーマハルト号、出迎えにヨシュアとサマラが手を振っている。

 晴海は目を凝らして中庭を見つめているが両親の姿はない。飛行船が着陸するや否や飛び出す晴海

「パパとママはどこ!」

 息を切らして辺りを探す晴海

「無事でよかった、ちょっと痩せた晴海」

 握手をしようとするヨシュアに目もくれず宮殿の中に駆けこむ晴海、

「晴海、こっちに戻ってらっしゃい宮殿には誰もいないわ、浜辺の竜宮丸よ」

 サマラが呼ぶ声に浜に向かって駆けだす晴海だった。

「待ってよ晴海!」

 同じく追いかけようとする晴明を晴人が腕を引っ張り呼び止めた。

「父さん何」「まあいいこっちへ来い」

 飛行船に戻る親子だった。


 晴海は力いっぱい走り抜け竜宮丸のある浜辺までたどり着いた。息も絶え絶え汗まみれになる晴海、竜宮丸のハッチに手をかけたとたん。

「よ、晴海殿おかえりでござる。元気そうであるの」

 御堂が後ろから声をかける。ふりむくと御堂と貴具が立っていた。

「ダイエットに成功してしまった顔が大人びているな、いい顔だ。これで汗でも拭きなさい」

 タオルを投げる貴具の言葉に

「パパとママはどこ」

「さあ?海に出ると言って、そこにあったディンギーで沖に出て行ったかな?」

 あやふやな答えをする貴具に肩を落とす晴海

「どうして止めなかったのよ・・・・」

 涙目になり座り込んでしまった。

「晴海っどうしたの」

 晴明が追いついて声をかけると晴明に抱き着いて泣き出してしまった。

「そこの砂浜で帰ってくるまで僕と待とうか」

 肩を抱いて浜辺に向かって行った。


 夕暮れが迫りくる浜辺に二人海を見ながら座る。背にする山に日が沈んでいく、晴明は薪を集めてかがり火を灯した。

「ねえ、晴明、パパとママは私のこと嫌いなのかな。一人ぼっちにしてもいいと思っているの」

「僕、晴海のパパに殴られそうになったんだよ。心配してたよ君のこと、ママも目を真っ赤にして小さい頃の話をしてくれたんだ」

 薪をくべながら語り掛けていると海から明るい月が昇ってきた。

「きれいな月だね。この世界でも同じかな今日はどんな日か知ってる」

「?どんな日、今日がいつなのかも知らないわ、わかってるでしょ忙しいの」

「夏至だよ」

「?」

「やっぱり忙しすぎて覚えていないか」

 晴明は立ち上げり、ズボンの砂を叩きながら海へ向かって行くと

「ほらあそこ」

 指をさす先に月を背にディンギーがやってきている。晴海も立ち上がり砂浜を走り海に駆けこんでいく。その小さな船には二つの影があった。その二人も飛び降りて晴海に向かって行った。

「パパ!ママ!」

 涙でぐしょぐしょになりながら叫ぶ晴海に大きく手を広げて待ち受けた男は抱き上げ大きく空にかざした。

「おかえり晴海」

 そして女に受け渡した。

「晴海」ただそれだけ言うとあとは声にならなかった。

 先ほどまで座っていたかがり火に戻ると晴明はすでにいなかった。晴海の父、永晴(えいせい)は肩から魚籠を下ろした。

「パパもママもどうしてすぐに待っててくれなかった、晴海悲しかった」

 母、百花(ももか)は頭をなでながら

「準備したかったのよ。ねえ貴方」

「こんなにたくさんエビが取れたぞ」

 魚籠を指す永晴(えいせい)

「エビが何よ」

「好きだったろ、それに今日は」

 というと晴明がロウソクを灯したケーキを持って戻ってきた。

「ハッピーバースデイ!晴海」

 ケーキを差し出しバースデーソングを歌い出した。後ろから来る晴人たち全員の大合唱だ。

「そんな・・・みんな・・パパ、ママ」

 号泣する晴海は両親に抱き着いていった。

「それじゃ晴明君、このエビをお願いね」

 百花は晴明に魚籠を渡した。

「最高のエビフライをタウロに作ってもらうから」

 竜宮丸に走って行った。

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