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●ミノの名物

 農産国ミノを開放したユートガルトはミノにドメル軍の駐在兵を置きエンドワース奪還の拠点とした。

 ハルトはドメル帰還後、山猫軒で祝杯を挙げて、すぐさま旅団と共にミノへと取って返した。ミノに戻る隧道(ずいどう)には魔石の照明が整備されていた。アーカムスは隧道をまじまじと見つめ

「こんな大穴を一瞬で信じられん、ドーマハルト閣下は何者なんですか」

「そんなに人を化け物のように見ないでくれ、人よりちょっと魔法力が多いだけだよ」

「これがちょっとですか、まいったな。しかし閣下についていけばこの戦争も兵士たちも安心で心強いでしょう。統率力が上がります」

 隧道を進むと交易の荷物とすれ違った。すぐさま動き出すとは商人の熱心さには頭が下がる。


 ミノ領主邸でモリトモと会談をした。

「ドーマハルト閣下、このたびはわが領土を奪還いただきありがとうございます。この勢いでエンドワース全土も奪い返していただきたい」

「勘違いしてもらっては困るな。エンドワースを取り返すのはモリトモ殿、自力ですることじゃないのか。あなた方の国とは友好条約は締結しているが、安全保障条約は結んでいないぞ」

「そ、それはごもっとなことでございますが、この状況ではなんともなりません。助けていただけないでしょうか」

「では、モリトモ殿の軍四千名の兵士を私に預けてもらいたい。もちろん軍費はそちら持ちだ。さっそくこちらで作った隧道で熱心にご()()されているようだし、無理な願いではないはずだ」

「わかりました連合軍で立ち向かいましょう。あらためてお願いいたします」

 深々と頭を垂れてモリトモは同意した。

「あとで書面を交わし()()()()()にしよう。我々約六千の駐屯する場所を提供してくれ」

「かしこまりました。この街を出たところに新しく開墾している土地を提供いたしましょう。この戦乱でストップいたしておりましたが完成間近の場所です」

「では失礼する」握手を交わしその土地まで移動した。


「閣下、首尾はいかがでしたか」

「オオガミ、こちらの想定通り事は運んだがミノ軍はどうだ、使えそうか」

「半農半兵といったものがほとんどで、半分くらいでしょうか使えるのは」

「まあそれくらいならユートガルト兵で補填すればいい、ともあれこれからの情報が欲しいな」

 といっていると、ミニスカートのミス・ぺティーと開発部のQが本陣を訪れてきた。

「ちょうどよかった。ミス・ぺティー、情報をくれ」

 作戦室も兼ねる本陣は大きな机がある。そこにエンドワースの地図を広げてペティは

「はい、閣下がここミノを取り戻してくれたおかげでエンドワースでの諜報活動が便利になりました。ありがとうございます」

 ここミノからエンドワースの首都オワリまでは約20キロだが平野で遮閉物がないため、進軍はすぐに発見される。ここミノを含め主要都市は六つすべてがオワリから放射線状に点在する。

「オワリですがテンコによってオワリ兵は全員ゾンビ化されており不死軍団と化しております。それとオーガとゴブリンの妖魔との混成軍でその数およそ一万人です。住人たちはオワリにはおらず鉱山で強制労働を強いられています」

「ひどいやつだなそのテンコというやつは、つまりオワリには人間がいないということか、よく調べがついたな」

「ええ、鉱山などでオワリからの住人の情報を集めました」

「それでテンコについて教えてくれ」

「ジョブは屍術師(ネクロマンサー)でして、オーガやゴブリンなど妖魔の使役にもたけており、その戦闘力自体は三魔人の中でも弱く、卑怯な性格といわれています」

「ツチグマやカルヤシャはそこにいないのか?」

「ええ確認はとれておりませんがいないようです。消息不明です」

(キュウ)、頼んでおいたものは出来上がったか」

「はい、閣下これを」

 眼鏡と小さな魔石が付いたブローチのようなものをカバンから取り出した。

 ハルトは折り紙で鶴を作りブローチを取り付けると印を結ぶ。八咫烏(ヤタガラス)が召喚され、三本の足の真ん中にブローチが組み込まれていた。そして空に放つ。

「眼鏡をつけてみろ」

 ハルトは(キュウ)にメガネを渡した。

「うあ、飛んでいます。こんな使い方をお狙いだったんですか」

 今回のガジェットは映像を飛ばすカメラだった。

「ちょっと失礼します」

 (キュウ)は眼鏡を机の上に置き。口を手で押さえてテントを出っていった。そしてよろよろと戻ってきた。

「すみません、酔ってしまいました。でもこれはすばらしいでね」

 情報を先んじることが戦争には必要だ。このガジェットは強力な兵器になる。

「陛下、こういうものも作ってきました」

「いや、これだけで十分だ」

 Qがうなだれてさみしそうにしている。

「わかった、見せてくれ」表情がパッと明るくなったQがカバンからペンを取り出す。

「このペンはペン先が毒針となっていて・・・」

「わかった、がんばって開発してくれ」肩をたたいた。


「二人ともありがとう、下がっていいぞ」

「あのう陛下、このまま軍に帯同してもよろしいでしょうか」ペティが願い出た。

「いいのか仕事は?」

「はい、問題ありません。久しぶりに現場で諜報活動をさせていただきます」

「私も向学のために同行させてください」Qまでついてくるといいだした。大丈夫かそんなヒョロヒョロな体で

「いいだろう二人とも気を付けてついてくるがいい」


「オオガミ、中隊長を集めてくれ作戦会議だ」

 夕食まで会議は続いた。またしても奇想天外な作戦だが、中隊長たちはもう驚かない。


「さあ、飯にしよう。炊事兵へ命令を出してくれアーカムス」

 ガルト城の料理長以下すべてのシェフを従軍させていた。美味しい飯が重要な戦力だから、城に残ったものには我慢してもらおう。

 各部隊の炊事当番を城のシェフたちが指示をして兵士たちも食事をとった。

 夜営の地だから品数は少ないがボリュームは満点の食事だ。500g以上ある大きなTボーンステーキがメインだ。サーロインとフィレを同時に食べることができる。

 陽子とフィレンツェに行った時、名物料理のビステッカ・アラ・フィオレンティーナと呼ばれていて、彼女は一人でぺろりと食べきって驚いた思い出がよみがえった。あれから二十二年か俺も還暦を越えてしまった。生きてればの話だが。しかしコレステロールも気にせずにこんなおいしいお肉が食えるからまあいいか。達観(たっかん)しているが妻と息子の思いは消えていない。

「閣下、いかがですか。今宵の夕餉は」

 料理長のアドゥリスが様子をうかがいに来た。太って立派な髭のオーガ人族のシェフだ。見るからに旨そうなものを作る面構えをしている。

「今日も、美味しいよ。この肉は城から持ってきたのか?いつもより味が濃厚だ」

「ミノは酪農が名物でミノ牛と呼ばれた、極上の一品です」

 そうか、この地を取り戻したご褒美だな。こんなうまい肉が食えるのはいいことだ。

「ねえ、アドゥリス、もう一枚焼いてきてくれない」

「これはスミエルのお嬢さん、健啖(けんたん)ですな。すぐにお持ちします」

「タマモ、そんなにくって大丈夫か」

 まったくこいつの食欲にはあきれてしまう。貧乏暮らしが長かったからすっかり食い意地が張るようになってしまった。

「全然、さらにもう一枚くらい平気だよ」

 中隊長たちも負けじとお代わりを願い出ていた。頼もしいやつらだ。


 明日からしばらくこの地で待機の日々が続く、みんなが太り過ぎないかが心配だ。

 空には大きな月と小さな月が弓張(ゆみはり)※に輝いていた。

※上弦月

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