〇餃子定食
庭で先ほどのヘルハウンド戦をもう一度再現して、型稽古をしながらドーマの帰りを待った。
「もう少し無駄をなくさないと、もっと早く倒せるんだけどな」
とぶつぶつ言いながら繰り返してみた。
「坊ちゃま、空飛んでただな、あのどでかい鳥さはなんだべ」
ドーマと佐助さんたちが帰ってきた。タウロが驚くのも無理ない。まだ教えていなかった。
「あれはピコーニャ改めピコーナの飛翔態だよ」
「あれまあ、あのちっちゃい女の子があんなに大きくなるだでか」
ドーマが牛車から降りてきて
「ハルアキよ。先を越されてしまったな」
「今の型は今日の戦いか。無駄がまだまだあるな。十七体目は逃がしたか」
オオガミの慧眼も正確だ。でも一つ違う。
「わざとだよ。追跡の呪符を貼り付けたんだよ」
「敵の隠れ家がわかりますな。あの辺りで誘拐が頻繁に起きているとの調べが入りまして、法師様に調べてもらおうと嵐山におりました」
佐助さんが事件を語った。
「うん、呪符は今晩には戻ってくるよ」
「しかし何であんなところに飛んできたんだ?」
オオガミに今日のいきさつを説明すると
「なんだ食い意地が張ってただけか。はははっ」
笑われてしまったがその通りなのでなんともいえない。
「まあ、よい、よくやった」
タマモたちも帰ってきた。
「ピコーニャ改めピコーナだべか。めんこいのにすごいだべな。おらも乗せて飛べるのか」
飛翔態に変化してタウロの角を足でつかむと庭の周りを飛び回った。
「うほっうぼっ!おもしろだべ」
おおはしゃぎのタウロ、子供のようだ。
「今晩は好きなもの作ってやるべ、なにがいいだか?」
「ピコッ!麺類がいい、今までくちばしだったから食べにくかったけど今なら大丈夫」
「うほっうぼっ!じゃあラーメンと餃子作ってやるだ」
それは朗報、餃子食べたかったんだ。
「タウロ、ラーメンと餃子にから揚げとチャーハンも付けてよー」
「ぼっちゃま、わかっただ。うほっうぼっ!」
角をつかまれた牛男はご機嫌だ。
「どうだ、佐助、一緒にご飯を食べて待たぬか」
「法師様、そのラーメンと餃子に興味が湧き申した。お願いいたします」
さすがの佐助さんもラーメン餃子の魅力には勝てなかったか。僕はにやりと笑ってしまった。
お風呂はタマモさんとピコーナの後に入った。さすがにコンプライアンスに問題がある。あれ、僕は何を言っているんだ。
佐助さんを誘ってみると意外とOKがでた。行商人モードでの入浴だ。
「あのうちょっと聞かせてもらってもいいですか。どの姿が本当の佐助さんなんですか」
「こんな姿もありますよ」
皮膚がぼこぼこと動いていくと女性になってしまった。
「うあうあ、もういいです」
今度は晴明神社の時のイケメン忍者になった。
「いずれが本当の自分かわからなくなり申したが、普段は最初にお目にかかった姿で通しております」
鋭い目の猫背の小男に変化した。
「すごいですね。仙術ってものですよね。どうやって会得したんですか」
「私の生まれは大陸でしてそこから渡来してきました。そこで修業した成果でござるよ。方法は秘伝ゆえ教えることはかないませんが」
「いや、いいんです、これ以上覚えることが多いと大変なんで」
「はははっハルアキ殿は好奇心が旺盛ですな。いいことです。向上心がおありだということですな」
「いえ何でも知りたがりやなだけです」
風呂上りいつものように厨房を覗く。清八、喜六が一生懸命に餃子を包んでいる。タウロは麺打ちをしている。ワクワクして食堂へ向かった。
佐助さんは行商人モードだった。
「さあ、餃子ができただ。酢醤油もいいだがこの味噌だれも試してみてくんろ」
おお、焼き餃子、タウロさんわかってるね。
「いただきまーす」
餃子をパクリ、カリッとした皮に中は熱々ホクホクパラパラと餡が崩れる。酢醤油もいいけどこの味噌だれが神戸風だ。
「タウちゃん、ビール!」タマモもお気に入りのようだ。
「餃子をこのように焼くとは美味しいでござるな」
佐助さんは箸でつまんだ餃子をまじまじと眺めてパクリと口に放り込んだ。
「旨い」
ラーメンは醤油だ。薄く切ったチャーシューが鉢の周りをかこっている。
ずるずる、一口スープを飲んで麺をすする。豚足、豚骨、豚皮、玉葱、昆布などがベースに導魔坊特製醤油ダレ、幸せだ。
すかさずチャーハンも頬張る。それにカリカリのから揚げ、ビールに漬けてあるのかな柔らかくジューシーな鶏肉。
「いやいや、どの料理も素晴らしいですな。食事の楽しさを思い出しました」
佐助は感嘆してつぶやいた。
「佐助さん、報告に来たときはタウロに言って餃子定食でも食べて言ってよ」
「そんな甘い言葉を言われては断り切れませんね」
そうしてお腹いっぱいになったころ、モグちゃん、僕の式神ヘルメットをかぶったモグラが帰ってきた。
「怖くなかったかいモグちゃん」そして札に戻し額に当てた。マップをみんなに見えるように開き迦樓夜叉の居場所を点滅させた。
「愛宕山のそのような場所に潜んでいるのですね。明日さっそく探らせていただきます。本日は大変美味しい食事ありがとうございました」
佐助は帰っていった。
「私たちも朝から向かって、さっさとあの女もう一度片付けてやろうよ」
タマモは昔ほど迦樓夜叉を憎んでいない様子だった。
「ハルアキ、明日は総力で立ち向かうぞ。ゆっくり休むがよい」
ドーマもそういった。
翌朝
愛宕山の山荘を目指すドーマ一行、導魔坊全員の出陣だ。
「まずは迦樓夜叉から退治だね」
「ピコッ」
「何か嫌な予感がするが、敵の罠に乗るのも手の内だ。ハルアキ、充分に注意をするのじゃよ」
ドーマはかなり慎重になっている。確かに簡単すぎることは僕にも気になっている。
屋敷にたどり着くと、中から佐助さんが出てきた。
「やられました。食事の後すぐにこちらを探りに来たのですがすでにもぬけの殻でした。何か手掛かりはないかと一晩中調べておりました」
佐助さんも気になることは調べずにはいられないタイプのようだ。
「我々も中を調べてみるか」
ドーマのの号令で全員中に入り、佐助は山荘の周囲を探り始めた。
「ドーマさん!これは何でしょう。妙な気配を感じるんですけど」
屋敷の一室が妙な機械で埋め尽くされていた。ドーマはその部屋に入るなり
「いかん!みんなこの屋敷から出るのだ!」
しかし遅かった。
山荘の外で佐助は大きな音に戻ると屋敷が跡形もなくなっていた。
呆然と立ち尽くす佐助と、ポツリと残されたタウロの牛車に雷轟き強い雨がザーザーと降り始めた。




