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〇リミッター解除

 崇徳(すとく)との会食の翌日、ドーマから呼び出しを受けた。

「朝からなんだろう?昨日のことかな」

 厄災の正体が崇徳かもしれないとそんなことをドーマは言っていたからだ。頭の上にはピコーニャを載せて、錬金部屋に入った。

「おはようございます」

「ピコーニャを下ろして、そこに座りなさい」

「ピコっ」ピコーニャを膝に抱いた。

 ドーマが近づき頭をつかまれた。

 また、何かダウンロードされてしまうのかと身構えた。すると頭の中でカチリと何かカギの外れる感覚を覚えた。

「?何なんでしょうか?」

「ロックを解除した。これが本来のお前の力だ」

「ええっそんな簡単にできるの」

 ウインドウが現れたので数値を見る。

「レベル100になっているんですけど、間違いじゃないですか」

 魔法力の桁がバッグっているのか尋常ではない上昇だ。

「それがわしがお前の年頃の数値だ。精神と体のシンクロ率が十分になったので、そろそろ授ける時となったのじゃ。敵の勢力も強まった故にな」


 その時ピコーニャに異変が起こった。光り始めみるみる大きくなっていく、僕の半分くらいの身長になり太ったペンギンのような姿になった。僕の上にかぶさりのしかかった。

「ピコーニャ大丈夫なのか」

「父、力がみなぎるよ。これなら父乗せて飛べるよ」

「そんなペンギンみたいな姿でできるの?」

「うん、外に出てみて」

 いわれるがままにドーマと共に庭に出ると、ピコーニャが翼を広げると、全幅五メートルくらいに広がり、体はほっそりとなった。

「すごいよ!ピコーニャ、いやもうそんな名前で済まないね。ピコーナだね」

 ピコーナは頭を下げ、そこに乗れと言わんばかり誘う。恐る恐る背中に乗り首のところにつかまった。

「父、行くよ」

 大きく羽ばたくと空を舞った。

「うあ、すごいすごい!」

 かつてピコがふ化したとき夢に見た光景だ。どんどん空高く上がっていく。

「ピコーナ、寒いし息が苦しいよ。下に降りてくれない」

「父、ごめんなさい。結界貼るね」

 風の抵抗もなくなり普通に息ができるようになった。

「そんなこともできるようになったんだ。でもそろそろ戻ってくれない」

「父、了解」

 ドーマの待つ庭に降り立った。そしてまたペンギン姿に戻った。

「ドーマさんすごいよ!ピコーナは!!」

「ハルアキ、お前もすごくなっているのじゃよ。火球(ボイデ)をその地面に一番弱く放って見るのだ」

火球(ボイデ)

 ドゴッ!今まで見たこともないような音で火球(ボイデ)が地面をえぐった。少し地面が溶解している。

「うあ、な、なんて威力」

「魔法力の絶対数値が上がって、水を出すホースの先を絞ったようにその威力が上がったのじゃよ」

「こんな力使いこなせるのかな」

 あまりの威力に怖くなってきた。

「そうだ、力を持った者こそ力の使い方を考えなくてはならん。力は人を脅かす存在に対して立ち向かうためのものだ。よく肝に銘じて使い方を考えなさい」

「はい、わかりました。頑張ってみます」

 しかし自分が人でなくなったような不安でいっぱいになった。

「ハルアキ、大丈夫だ、自分を信じなさい」

 頭を撫でられた。初めてのことだった。


 オオガミさんとの朝稽古も、初めて両手で木刀を持った対戦となった。リミッターが取れた体術ならと思ったが

「ハルアキ、その力にうぬぼれてはいかんぞ。上には上がいることを必ず考えるんだ」

 剣の技はまだまだオオガミにはかなわないことはすぐに分かった。磨きのかかった(せん)の見切りでさえも追いつかない剣捌きだ。


 お昼、おにぎりを頬張りながら、オオガミに尋ねた。

「ドーマさんも同じくらいの魔法力があるんだよね。迦樓夜叉(カルヤシャ)なんて一撃で倒せたんじゃないの」

「法師様の魔法力はからくりの体を維持するためにそのほとんどを使われておるのだ。攻撃に使える魔力はそんなに残されてないのだよ」

 そうだったのか。僕がもっと頑張らなければいけないということか。責任の重さにつぶれそうな思いだ。

「ハルアキ、あまり心配するな。俺が付いているからな。どんな時でも」

「私もだよ。ハルちゃん」いつの間にかタマモが横でおにぎりを頬張っていた。

「ピコッ」

「そうだな。みんながいればきっと大丈夫だ」

 みんなに励まされて少し自信を取り戻した。

「ハルアキ、稽古再開だ」

「はい、お願いします」


 金星、(よい)の明星が輝くまで稽古は続いた。


 行水(ぎょうずい)でもいい季節となったが、やっぱりお風呂はいい。リミッターが外れ身体能力も上がったはずなのにオオガミの稽古もそれを増して激しくなっていた。くたくたの体にはヒノキ風呂が一番だ。ピコーナも気持ちよさそうだ。

「ピコーナ、もうこれ以上大きくならないよね」

「父、もっと大きくなれるよ。五百年くらいたったらヨダルじいちゃんくらいに」

 玄武(げんぶ)のヨダルも大きかったな。神獣はまだまだ未知の部分が多いな。

「あら、そのペンギンがピコちゃんなの?」

 タマモがやってきた。

「ピコーナになったんだよ」

「ピコちゃんはピコちゃんよ。でもその羽毛でお風呂入ったら蒸せるんじゃない」

「ピコーナわかった!」

 というと六歳くらいの女の子の姿になった。朱色と朱鷺(とき)色の髪の毛に青い目にはねた羽が三本はやっぱりピコーナだ。

「うわうわうわ!どうなっちゃたんだ。ピコーナ」あたふたしていると

「あら、かわいい、女の子だったのね」タマモは動じない。

「ハルアキもいいけど、女の子も欲しかったのよ。ピコちゃんよろしくね」

「ピーコ!」

 ピコーナはタマモに任せてお風呂を上がった。まいったな、これからはタマモとお風呂に入ってもらうことにしよう。


 タマモの服を上だけ着たピコーナが食卓に並んだ。

「おい、誰だその子供は」オオガミが不思議そうにのぞき込む。

「ピコちゃんよ。明日一緒にお洋服買いに行こうね」たくさん買い込むんだろうな。

「うん、ちちの母とお出かけする」

「あら、かわいい」ほほを摺り寄せ買い物仲間の誕生を喜んでいる。


 食卓を囲む人数が増えてさらににぎやかな夕餉となった。

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