■久遠の愚痴
久遠も久しぶりの和食と日本酒にこの上なく満足した顔だ。ほろ酔い加減で気も緩み少しいつもの愚痴が口をつき始めた。聞き役は近くにいた聞き上手そうな修羅猿であった。
身の上話も交え、いかに警察では無茶ばかりを命令されてきたとかこれまでの仲間たちとの旅を話していた。教団と言う強力な敵の存在を打ち明けそして今の状況、錫杖の持ち主、晴海のこと語り始めた。もう一か月になるであろうか宝蔵院の研究所から水無瀬晴海を実家である妖怪寺こと満腹寺へ車で送り届ける途中、妖怪油すましと鉄鼠の襲撃によって晴海は連れ去られ、彼自身もカーボンフリーズと言う術をかけられ石化されてしまったことを。幸いカグヤによって彼の石化は解かれ自由になりはしたものの晴海をむざむざと連れ去られてしまった自責の念に押しつぶされそうになっていた。
「修羅さん僕は何をすればいいんだろう。僕が守れなかったせいで晴海様はどんなひどい目にあっているのか・・自分で許せないんだ」
思い出しまた同じことを言いだした。
「そんなに自分を責めるな。誰がそこにいても同じ結果になっていたと思えばいいさ、因果律ってやつだ。君が悪いわけじゃないぞ。君がいたから最悪の事態に至らなかったと考えることにしな。まあまま呑みな」
カップに得々と酒を注ぐと久遠は修羅猿のカップへと返杯しながら
「少しは気が楽になりましたよ。これからも仲良くやっていきましょう、あれ?もうお酒がないなタウロ君、もう一本お願い」
「だめだすよ久遠さん、呑んでも飲まれるなですだ。ここらでやめておくだす。明日は忙しいだすよ」
タウロからピシャリと怒られてしまう久遠であった。
「久遠さんそうだよ。タウロ、もう戻っていいよ片づけは僕がするから」
タウロをメダルに戻した晴明、久遠と修羅猿の話は耳に入っていたが晴海の件では自分も歯がゆく思うところであったが修羅猿の言葉に晴明も心癒されたのであった。
宝蔵院は夕食を食べ終えると晴海の錫杖をさらに調べていた。
「天鼓。まだ調べてるの何かわかることはある」
「一つ確かなことは彼女は変身したままだということですね。錫杖の変身機能はオンになったままです」
どこをどう調べればそんなことがわかるのかと晴明は思いながら
「こんな時にバットリがいればもっと詳しいことが分かったかもしれないのに・・・でも晴海の妖怪たちは何処に行ったんだろう」
「ヨモツ大迷宮に入場するときに弾き飛ばされておそらく入口付近の神殿にいるはずですよ。もしかしたら軽足団長について行っているかもしれません」
彼らも晴海を心配しているに違いないはぐれて心細い気持ちでいることであろう。
食事の後片付けをしてしばらくすると晴明たちは寝床へ向かって行った。明日はグシュナサフで再びアスタロトと対決があるやもしれない。
ヨモツの目が開くと突然の朝が訪れる。真っ暗な寝室の明かりを突然オンにされた事と同じようなものだ。夢を見ては目覚めるを何度も繰り返した晴明は眠りの浅さを覚えていた。晴海との初めてのデートの思い出が繰り返された。博物館へ行って新開地で町中華を食べ公園で秘密を打ち明けたときのことや万福寺でのみんなとの花見とごっちゃになった不思議な夢だ。夢の内容など理不尽なことばかりだが鮮明な夢であった
ぼーっと寝転がっている晴明だが、目が覚めるようなコーヒーのいい匂いが漂い始めた。宝蔵院がコーヒーを淹れリボソームが目玉焼きとベーコンを焼いていた。
「おはよう」二人に挨拶をした。
「すっきりした顔をしていないね。あんまり眠れなかったんだろう」
「ええ、色んな事考えちゃって」
「あそこの僕を見てごらんよ。修羅猿に悩みを打ち明けてスッキリしてまだ眠っているよ。起こしておやり」
久遠はまだ眠っていた様に見えた。いつもは早く起きて朝ごはんの準備を率先しているのだが
「久遠さん、おはよう!朝が来たよ」
毛布を外すとそこに久遠はいなかった。
「大変だ!久遠さんがいない」
隣で寝ていたはずの修羅猿もいなかった。
「あれまーいつの間に出て行ったかしら、朝ごはんも食べずに、あんたたちはしっかり食べるんだよ」
テーブルにはパンが山盛り置かれていた。昨夜タウロが準備していたものだった。それを晴明は急いで腹に詰め込むとピコーナと共に二人を探しに飛んでいった。宝蔵院はその鉄砲玉のような行動にあきれていた。
「まったく、もっと考えて行動してほしいね。カグヤ」
「みんなが心配なのよ。それが彼を突き動かす原動力なのよ」
「まずは行動することが彼の信条ですもんね」
晴明が飛んでいった空を見ながらあきれていた。
「ピコーナ、どう久遠さんの匂いはわかる」
「わかるよ。お猿さんと一緒ピコ、このまままっすぐ飛ぶピコ」
ピコーナは久遠たちを発見したようだが
「向こうも同じくらいのスピードで離れていくピコ」
「ずいぶん飛行船から離れているけどどこに行くつもりだろう?最大スピードで行くよ」
「了解ピコ!」
猛スピードで消えていった。
「修羅さん、何も言わずに出てきましたけどみんな心配していないですかね」
觔斗雲にしがみついている久遠は尋ねた。
「あの小僧もおんなじことをするぜ。不安や心配ならばグズグズ考えないで動くんだ。そろそろみんな起きているころだろう。連絡を入れれるんだろ。そんなに気がかりなら連絡を入れな」
久遠は明け方に修羅猿に起こされ觔斗雲に乗せられて今に至っている。
「あっ天鼓君ですか久遠です」
通信回線をオープンすると宝蔵院に一報を届けた。
「どうしたんですか久遠さん、あなたらしくない連絡も入れずに飛び出すなんて」
「こいつにはこのくらいの行動力をつけさせた方がいいんだよ」
「修羅猿さん!あなたの仕業ですかまったく、それで何処へ向かっているんですか・・・!錫杖の発見現場ですね」
「さすがだね。天鼓ちゃん、何か見つけれるかもしれないだろう。なっ久太郎」
「晴明も飛び出して行きましたから、そっちもよろしくお願いします」
「まあ、ガキの面倒は任せときな」
觔斗雲のスピードをさらに上げるのであった。
久遠と修羅猿は錫杖の発見現場に現着していた。現着とは警察官などが事件現場などに到着したという業界用語だ。久遠はその言葉を使っていた。
「天鼓君、現着したよ。映像を送るから指示をください」
久遠の眼鏡は高性能の通信機器だ。その内臓されているカメラは科学捜査に答える高機能を有していた。
「地面を調べてください。足痕を採取しますから」
久遠は下を向いてゆっくりとあたりをうろついた。
「そのあたりだ。錫杖が落ちていたのは」
との修羅猿の声に久遠は顔色を変えそのあたりを入念に見つめていた。
「久遠さんそのくらいで結構です。これから解析にかけますのでしばらくゆっくりしてください」
宝蔵院の指示で修羅猿の近くに腰を掛けた。
「こんなことで何かわかるか?ただうろうろしてただけだろ」
「何を言うんですか、とても大事なことなんですよ。足跡を調べれば犯人が何人いるとか性別や身長体重迄いろいろな情報が探り取ることができるんです」
「それをあの天鼓坊やが調べ出すというんだな。便利な小僧だな」
「そんな小僧だなんて言わないでください。天鼓君がいなければ教団への捜査が困難だったことは確かです。よく僕たちのチームに加入してくれたものです」
「そんなにあの僕は人気者だったてのかい。少しの間の付き合いだが人を引き付けるオーラってやつは皆目ないがな。どちらかと言うと避けられるタイプ、誤解を持たれちゃ困るがいやなやつと言った見た目を持っているんじゃないか」
「見た目で損をしていて確かにとっつきにくい一面もありますがよく人を観察してそれとなくアシストしてくれているんです。照れ屋なのかもしれませんが小さな頃晴明君に出逢って彼に影響されたようです」
「晴明か、不思議な男だな。どこにでもいそうなガキだが飛び切りのお人好しだろう」
「そうですよ。お人好しって言葉、それ言い得てますよ。修羅猿の分析力と語彙は適格ですね」
「そんな上等な男じゃないぜ、ただのまぬけ猿さ、見てのとおり」
「なんか心強いですね。うちの部長にぜひ会っていただきたいです。きっと修羅猿さんとは気が合いそうです」
修羅猿は面倒くさくなったのだろうか。向こうを見て黙り込んでいた。
「久遠さん、もう一度錫杖があった場所に向かってください」
突然宝蔵院から連絡だ。久遠は急いでその場所へ向かうと
「眼鏡に情報を送りますからそこを丁寧に調べてくもらえます」
久遠のかけているメガネに位置情報が転送されてきた。その場所を調べ出すと
「これは髪の毛、これを見つければよかったんですか」
「大事に保管してもらえますか。あとでこっちで調べます」
「晴海様のものでしょうか」
「それは調べてからです。あっ!!」
「どうかしましたか」
「オオガミさんとヤーシャが戻ってきた」




