●作戦・前編
ハルト隊はミノに続く山道の入り口付近に待機していた。
「これより作戦を開始する。皆の者気を引き締めろ!キグナス、測量を始めろ」
キグナスは地図のマップウインドウを開き、測量機器を操作して山肌を観測する。そして数値と方位を示すとそれをハルトに見せる。
「この数値を信じていいんだな」
「はい、誤差は0.01%以下で間違いございません」
「よし、あとは俺の腕次第ということか」
ハルトはクラウドソードを手に数値、角度を示されたウインドウを開き山肌に近づく。
ぐっと息を吸い込み飛び上がり剣を山肌目がけ振り下ろす。
山肌がすっぱりと削り取られ、垂直の壁が出来上がった。兵士たちにどよめきが起きる。
そして再びクラウドソードでその壁面にくるりと半円の傷をつけた。
「兵士たち足場を組め」壁面に作業足場を作らせた。
「魔導士隊前に!」
壁面の前に立ちハルトは直径二メートルはある魔法陣を描いた。
「これをこの半円の中に等間隔に描くんだ」
十数名の魔導士たちが作業を始めた。数十分で描き終わり足場が撤去された。
「兵たち二手に分かれ壁面横に退避」
準備は整った。ハルトは壁面正面に立ち。
しきたへの
ころもまといし
土壁
左右の兵隊を結界で囲った。
「さてここからが勝負だな」
再び剣を抜き舞い始めた。兵士たちはその美しい舞に見とれている。
あしびきの
みねにつもりしそのここら
わがしるしをしめし
われなしちからを
空間
剣を突き入れると魔法陣の描かれた壁面が真っ黒となった。空間が切り取られ異次元へと吸い込まれていった。あとに残る穴は虚無の空間となり勢いよく周りの空気を取り込み始めた。すさまじい轟音を上げ数分の間、嵐のような風が穴に吸い込まれていった。
俺は一人膝をつき剣を突き立てその嵐を耐えた。風がやみ兵士たちの結界が解かれた。
兵士たちから歓声が上がる。各々が目の前の驚きの出来事を語りあっている。
「静かに!明かりを持ち隧道トンネルを進め!」
少し登り勾配のつく道を徒歩で兵たちは進む。吸い込まれた土砂や草木をよけながら約一時間半、八キロを超えるトンネルの出口に着いた。ミノに続く街道の道であった。
「キグナスでかしたぞ!大正解だ」
「いえ、閣下の腕がよかっただけです。しかしすごい技ですね。こんな距離の空間を一気に削り取ってしますなんて、目の当たりにするまで信じられませんでした」
魔法力の半分を使い切ったのだから当たり前だ。極大魔法呪文で、ここにいる魔導士たち全員合わせても十分の一にも届かないくらいの魔法力を消費したのだから。
「もう一発どでかいのをお見舞いするが、ここで皆、昼を取り休憩するのだ!」
昼休憩をしてあと半分の距離だが空間を放てばほぼ目的達成だ。オオガミたちの首尾はどうだろうか。
「イソルダ、アルジェ、街道を使い敵の隧道工事現場に紛れ込み無線での指示を待て」
Qの開発したインカムは俺の魔法力によって十数キロの通信が可能だ。
昼食後、同じ作業でトンネル入口の魔法陣を作り上げ二人の報告を待った。
「ご主人様、作業最深部にたどり着きました。二十名ほどの作業員だけで兵士はいません」
「よしそこで待機だ」
壁の前に立ち注意深く二人の気配インカムの魔石の位置を確認する。彼女たちの手前の十メートルが今度の狙いだ。あとやはり四キロかイ・オン・ワイ商会の調査力の正確さに感心する。
「次!行くぞ!元来た隧道へ退避しろ」
入口に結界を張る。
あしびきの
みねにつもりしそのここら
わがしるしをしめし
われなしちからを
空間
先ほどと同じく轟音と嵐が起こった。
「イソルダ、アルジェ、だいじょうぶか?」
「はいご主人様、かなり揺れましたが大丈夫です。最深部の壁にも亀裂ができています」「中の作業員を外に逃がして出口で待機だ」
「はいご主人様」
新しくできたトンネルにドメルから連れてきた軍隊と黄色いマフラーのキグナス隊に進軍を命じ、俺は青いマフラーのアオナ隊、ピンクのマフラーのモモ隊と共に街道を使いトンネル出口へと向かった。
「アーカムス、隊員たちを作戦通り港へ導くんだ。オオミドウは隊員とともに俺と適兵舎に向かうぞ」
オオガミは昔脱出路として使った山道出口で各隊に指令を出していた。
「それぞれの小隊に分かれ気づかれずに港へ向かうぞ。小隊長、無線機は大丈夫か」
「はい、レッド・ワン、アーカムス中隊長OKです」
「レッド・ツー、ラジャー」・・・・
六人の小隊長たちが返事した。
「オオミドウ、爆弾はそれぞれの小隊は準備できているか」
「オオガミ司令官、無線機ともども準備は万端です」
「よし、あそこに見える五つの兵舎にそれぞれ配備、作業を開始しろ。おまえと一部隊は俺と旧クラディウス家に潜入するぞ」
「了解です。グリーン・ワンついてこい」
「作戦開始は本隊到着とともに決行だ。アーカムスには合図を送る」インカムを使い指令した。
本隊到着まで三時間、各々の作戦が口火を切った。