■仙術
「大変だ!リボソームがまだ乗っているんだぞ」
久遠は飛行船まで大急ぎで走った。もうもうと煙が立ち込め船体が見えない、またいつ爆発が起こるかもわからないにもかかわらず躊躇なく煙の中へと飛び込んでいった。晴明は呪文で消火する。大量の水が霧のように降り注ぐと大きな体のリボソームを抱きかかえた久遠がこちらにやって来た。
「リボマンマは大丈夫なの」
「どうやら衝撃で気を失っているようです。見たところ怪我はないようです。安心してください」
飛行船には今度は宝蔵院が破損個所の確認に向かっていた。
「天鼓、飛行船の様子はどう?」
「かなり損傷していますが、錬金で何とか修理可能範囲です。しかしここでヨモツの目の閉じるのを過ごさないとだめですね」
「まいったな、そんなに時間がかかるのか、悔しいが奴らのたくらみ通りになってしまったな。しかも爆発に気を取られている間にアスタロトの首から下も持っていかれちまった」
カグヤに首から上を切り落とされたアスタロトの体が消えていた。
「仕方ないここでビパークのをするしかない、俺とヤーシャ、修羅猿でこのあたりを偵察してくる。また奴らが襲ってこないとも限らない。久遠は晴明と一緒に天鼓の修理を手伝ってくれ。カグヤとハクトダルヌはリボソームの面倒を見てくれ、それじゃ行くか」
オオガミたちは偵察に向かって行った。カグヤはハクトダルヌにリボソームの看護を任せビパークの準備を始めた。
半日後、オオガミたちは辺りを一望できそうな丘の上に立っていた。
「ここで私たちが通るのを監視していたのか、何日もかけてご苦労なことだ」
ヤーシャはそこに数体分のワイバーンの足跡と夜営跡を見つけた。
「ここに狼煙の跡が見えるな。これで連絡を取り合っていたんだろう。うかつだったな。もっと警戒していれば我々も狼煙に気が付いただろうに」
「ヤーシャ、済んでしまったことだ。まさか待ち伏せしているとはあの天鼓でさえ予想していなかったんだぞ」
辺りを見回していた修羅猿は何かを見つけたようであった。
「オオガミ、あそこに見える崖の所に何かあるようだ。あそこで狼煙を確認したのだろう。私が行って調べてきていいだろうか」
修羅猿の指さす地点はここからおよそ二十キロは離れていたのだ。
「おいおい、あんなところまで行くと夜までに飛行船に戻れないぞ。まさか飛んでいくつもりか」
笑って却下しようとしたが
「そうだ飛んでいかせてもらう」
修羅猿が臨・兵と印を結ぶとその足元から突然もやもやと煙が立ち込めはじめた。それはまさしく雲のように見え|修羅猿《シュラサルごと浮かび上がっていく。ヤーシャは驚いて
「なんだその雲は」
「ハクトダルヌ様の体が気化した雲だ。神仙の力によって浮遊し移動ができる」
「なんだよ。それはまるで觔斗雲じゃないか、さすが猿だな」
「まあ、痩せ狼の脳みそには理解はできないだろうが、あとで飛行船で落ち合おう」と言い捨てると猛スピードで飛んでいった。
「まったくあの野郎、ツチグマの言い草にますます似て憎たらしくなってきたな」
「面白奴じゃないか、気にいっているように見えるのは私の気のせいか」珍しく笑うヤーシャであった。




