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〇京への道と特訓開始

 有馬街道を蓬莱峡(ほうらいきょう)へと進むハルアキ、(あかね)(あおい)の三人。


「ねえねえ、疲れたよぉ休もうよぉ、こんな山道を君たちみたいに早く歩けないよ」

 弱音を吐いているんじゃないよ。ただこのあたりはよくハイキングをしたけれど、茜と葵は速足で進んでいるんだもん。

「だらしないね。ハルアキ、これくらいで()を上げるなんて」

 強引に茜に手を引かれ進みだした。

「ハルアキ様、スキルをお使いになられては」

(あおい)ちゃんナイスアドバイス、ハンニャ何かないの」


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 そんな便利のいいものがあるなら最初から言っといてよ。ぶつぶつとボヤキながらもスキルを選択した。身体強化(バフ)がかかり全身に力がみなぎる。足が突然軽くなる。

「おーい二人とも早く来いよ」

 調子に乗ってあちらこちらを飛び回り無駄にはしゃいでいる。かなりの距離を稼いだが、突然力が抜けてきた。


「なっなんか力が入らないよぉ」

「当たり前だろ、動くには燃料がいるんだよ」

 確かに猛烈におなかがすいてきた。

「何か食べるものないのぉ」

「ハルアキ様、お昼にいたしましょうか」

「やったぁ」

「タウロさまが作ったおにぎりがあります」


 そういえば朝ステータスを確認したとき職業ジョブに車夫と料理人なんて変な記載があったけ、白粥もタウロが味付けしたのか。おにぎりも期待できるな。

 三人は河原に下り食事を始めた。

 川の水を飲みのどの渇きを潤して、おにぎりをつかむ。強めの塩が疲れた体に沁み込む、絶品の塩結びだ。握り加減も絶妙で口の中でほろりとくずれて美味しい。何かおかずの一品でも欲しいところだけど・・

 葵は川に入ると素早い動きで川から魚を放り投げてくる。見ると鮎のようだ。

 茜は小刀で竹を切り串を作っている。いつのまにか焚き火を(おこ)している。素早く魚を串にさすと塩を振り焼き始めた。

 鮎の塩焼きが出来上がった。一串を茜は手に取ると味見がてら食べ始めた。

「あれ二人ともご飯食べるの」

「言っただろ動くには燃料!召喚されたこの体になると普通の人と同じ」

 と言いながらかってにどんどん食べ始めていた。負けずに僕もがっついた。おにぎりにアユの塩焼き、シンプルだけどめちゃくちゃ美味しい、これで腹いっぱいで燃料満タンてとこかな。と?!何か変な気配を感じた。これもスキル?


()()()()()()()()()()()()()()()()()


 しょぼいスキル名だな。もっと具体的なこと言ってよ。

<()()()()()()()()()()()>


 はいはい、わかりましたよ。ありがとう。

 藪から何か這い出してきた。猪?狸?がさがさと出現したのは猪ほどの蜘蛛(クモ)でタランチュラのような体に人の顔が付いている。けっこうグロイ。


「ひえぇぇ!蜘蛛大嫌いなんだよ、助けてよー茜、葵」

「だらしないねぇまだ幼虫クラスじゃない」

 茜が木切れを投げてよこした。

「これで頭を叩き潰せば大丈夫、吐く糸に注意してね」

 簡単に言ってくれるよ。もう昔から苦手なんだから。夜中トイレに行くと足の長い蜘蛛がいて入るに入れなかったんだから。


 ウィンドウが現れる。〔土蜘蛛(つちぐも) レベル5〕それって僕より強いじゃん。とりあえずバフをかけて注意深く観察するが、最初が蜘蛛怪人なんて僕って改造人間の定番じゃん?そうとくればとりあえずジャンプ!

 木切れを振りかぶり土蜘蛛に飛び込む。

「あぶない」

 茜が叫ぶ。蜘蛛が糸を噴出した。わかってるよ、ひょいと体をひねりよけて頭部にたたきつけた。

「ハルアキきりもみショット!」

 必殺技風に叫んでみた。土蜘蛛の頭がへしゃげ潰れた。

「やったね」

「あぶのうございます」

 葵が叫ぶ。えっ!もしかして爆発するの。飛び退いた。するとどんどん土蜘蛛が這い出してきた。

「無駄に飛び回らずに走り抜けるんだよ」

 ご忠告ありがとう。蜘蛛の間をすり抜け頭を狙う。モグラたたきだな。楽勝楽勝、10数体を討伐すると途絶えた。が、まだ虫の知らせが続いている。

 ラスボス登場かな。今度は比べ物にならないほどの大きさの土蜘蛛が木々をなぎ倒しながら、こちらに向かってくる。

「かんべんしてよ、無理」

「はいよ」茜は今度は竹やりを投げてよこしてきた。

「何本でもあるから、がんばりな」厳しすぎるよ茜ちゃん。

 もうやけくそだ!

「まとめて頂戴」

 竹やりを十本抱えると飛び上がった。

 八本同時に投げつけた。それぞれが土蜘蛛の足を射抜いた。何かのスキルか抜群のコントロールである。地面に這いつくばる土蜘蛛の目玉に残り二本を投げつけた。木切れをつかみなおし飛び上がり、前に回転し始めた。

「ハルアキ大回転ショット!」

 無駄なことを叫ぶなと怒られるかな。頭部を粉々に破壊した。

 目が回っている。ふらふらと倒れそうだ。

「お見事でございます」

 葵ちゃんが抱き留めてくれた。弾力ある胸のふくらみがご褒美かな。

 蜘蛛たちの死骸が霧散していく、怪しく光る宝石を残して。

「あら、レアアイテムですわ」

 葵ちゃんがラスボスのいたところから一振りの刀を拾い上げた。直刀、まっすぐな50センチほどの長さの短剣だが、その刃先は折れたように尖っていた。

「ハルアキ様にぴったりですわ」リュックから鞘を取り出し収めハルアキに渡した。

 ぴったりのサイズの鞘?これってどうも都合がよすぎるな。二人を問いただすと、全部ドーマが用意した化け物で、修行プログラムの一環だった。この後もいくつか用意されているそうで、この刀は蜘蛛切丸(くもきりまる)、柄の部分も金属製で美しく輝いている。次の課題で使えということか。


 去年も誕生日に旅館の手伝いで布団運び手伝わされて、運び終わったところにプレゼントが置いてあったな。!忘れてた今日は誕生日じゃん!これプレゼント?ドーマさんが知っているとは思わないけどありがたくもらっておこう。

 次の試練は洞窟で大蝙蝠と対決、まさかのその次は大サソリ。まったくドーマさんに遊ばれているようだ。父さんの大好きな特撮を一緒に見ていなかったら、理解できなかったジョークだよ。平安の陰陽師がなんで知っているんだ。ただの偶然にしては手が込んでいる。ステータスを確認するとレベルは8まで上がり各種のパラメーターも飛躍していた。


 物集女街道の大山崎あたりまで着くとあたりは夕闇が降りてきた。

「グズグズしてたから、今日中に着けなくなったじゃない」

「うるさいな茜、おなかが減るのが嫌でバフがあんまり使えないだよ」

 言い争いながら三人はそれでも少し進み、長岡京あたりまでたどり着いた。葵ちゃんの提案でこのあたりで夜営して朝一番で京に入ることになった。

 野宿でもよかったのだが、都合よく廃屋をみつけた。(かまど)もあるので晩御飯となった。


「ねえねえ何かガッとスタミナつきそうなものが食べたいんだけど」

 育ち盛りの体は肉を求めているのだよ。無理を承知でお願いしてみると。

 茜が竈でご飯を炊いていると葵は表に出ていった。しばらくして戻ってくると手にはカモとネギを持っている。素早くさばくと、鉄鍋にカモの脂身を擦り付けるといい匂いがあたりに漂った。身の部分をのせると砂糖をまぶし醤油をかけた。ジュゥと醤油の甘い匂い。ねぎを加えたあたりからよだれが止まらない。鴨すきを食べられるとは思ってもいなかった。


「でもさ、醤油って板場のゲンさんから聞いたことがあるんだけどこの時代にはまだなかったんじゃないの?確か鎌倉時代だったような」

「ドーマさまは錬金術も精通されてて、色んなものを作られてご商売もされていらしゃるのです」

 なるほどね、そこまで用意していたとは今日中に着かないことも見越してその大荷物だったのか。そんなことならもっとゆっくりハイキング気分で歩けたのに、くたくただよ。

「さあ食べよう、いただきまーす」

 大盛りのご飯の上にネギをはさんだ鴨の身をワンバンしてかき込む。ジューシーなカモ肉に甘いネギ、美味いという言葉しか出てこない。そしてまさかリュックから沢庵(タクワン)まで出してきた。

「タウロさまが漬けた沢庵です」

 ぼりぼりと食べご飯をかきこむ。やっぱりタウロさんすごいよ。お昼に出し忘れたらしい。こんなに美味しものを忘れないでよ。


「ごちそうさま」

 おなか一杯、いろいろこの世界のことを聞きたいのだが眠気が襲ってきたが、またも虫の知らせ。


「えーまだ課題をこなせって言うの明日にしようよ」

「ちがうよ」

 血相を変え茜は立ち上がり表に飛び出した。後を追い葵も。

 ハルアキも外に出てみると、オオガミが打倒したゴブリンが五体いた。おそらくは裂け目から落ちて別方向へ散ったやつらたちだろう。

「朝、タマモが言っていたゴブリンじゃない」

「ハルアキ様、気を付けてください。結構手ごわいですよ」


 月明かりの下、戦闘が始まった。三体がハルアキに襲い掛かる。防戦一方になるハルアキだが、蜘蛛切丸を巧み使いこなしている。今日一日でかなりの進歩だ。茜と葵の二人は小刀を使い俊敏な動きで、敵を翻弄している。茜は指先から火球を放ちゴブリンを焼き尽くす。葵は氷槍で串刺しにした。

「そんなことできるのずるいよ、教えておいてよ」

 ハンニャを使い検索する。ハルアキにも使えるようだ。手のひらから火球を三連打するが、威力は茜には及ばないが敵の動きは止めた。この機をとらえ蜘蛛切丸でゴブリンの首を狙い三体を一気に倒した。タマモが残した置き土産をすべて退治したようだ。そして茜は残りの死体を火球で灰にした。

「鴨すきの匂いに引き寄せられたのでしょう。それにしてもタマモにも困ったものです」

 目まぐるしい一日も終わろうとしていた。突然違う時代に呼び出され修行させられるなんて、何も説明のないままこんなことになろうとは、期末テストどうしよう。それより父さん母さん心配しているだろな。興奮して寝付けなくなってしまい心細くなってしまった。

 しかし疲れからかいつのまにか泥のように眠りについた。

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